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約束と契約4  作者: オボロ
11/61

#11 二兎を追う者たち






次の日、マリアは、無事、”数学のテキストを15ページ”というノルマを達成し、勉強会に向かった。


「なんで5ページ?どうして5ページ?わたし、15ページって、言ったわよね?」

「ごめんね、美羽ちゃん。数学やっていると、萌々、不思議とすぐに眠くなっちゃうの。どうしてかなぁ。」

「……根本的なところに問題があるのかもしれないわね。」

「えー…と、美羽ちゃん、その顔、ちょっと怖いかも……。」

「気のせいよ。さ、始めましょう。」


沢井萌々は、5ページしかやって来なかった為、津谷美羽の愛ある鞭に耐えなければならなかった。


「どうして、この問いに対して、こういう式がでてくるの?」

「えー、どうしてかなぁ。美羽ちゃん、ちょっとその目、怖いんだけど…」

「怖くありません。いいから、もう一度、書き直して。」

「えー?マリアちゃん、美羽ちゃん、怖いんだけど…。…?マリアちゃん?」

「……?」



「………。」


マリアは、勉強会中、三四子川の女の霊のことは、考えないようにしていたつもりだったが、ふとした瞬間、無意識のうちに考えてしまって、ぼんやりしていた。


三四子川に棲みついている女の霊については、何もわからないまま。

考えられることは、すべて憶測だ。


三四子川に棲みついているのだから、三四子川で亡くなったのだろう。

ずぶ濡れってことは、溺れたのかもしれない。


憶測のことしか分からないまま、直接会って話をするって、何を話せばいいのだろう……



「……ちゃん」



「…リアちゃん。」



「マリアちゃん!」

「…っ!え⁈」


「どうしたの?ぼんやりして。」

「……あ、ゴメン。大丈夫、大丈夫よ。ちょっと、ぼんやりしちゃった。あはは…」


津谷美羽と沢井萌々が、心配そうに自分を見ていることに気付いて、マリアは慌てて作り笑いを浮かべた。

警察から依頼された調査のことは、他言するわけにはいかない。

誤魔化すにしても、迂闊なことは言えないので、マリアは、笑って流すしかなかった。


「ほらね。マリアちゃんだって、数学やっていると、眠くなっちゃうんだって。萌々だけじゃないでしょ?美羽ちゃん。」


沢井萌々が、とぼけたことを言ってくれたおかげで、助かった。




「次は、英語のテキストを15ページね。」


勉強会の終わりに、津谷美羽は言った。

「マリアちゃんは、余裕でしょ?なんかずるい!」と、沢井萌々は拗ねていたが、マリアは内心、ハードルを上げないで欲しいと、思っていた。


「日本人だから、国語が得意とかじゃないのと同じで、英語が話せるからって、英語の教科が得意とは限らないのよ。本当、全然ずるくないから。逆にがっかりされないか、心配だわ。」


もしかしたら、次の勉強会は地獄かもしれない。


マリアの気は重かった。






そして、勉強会の後、マリアは三四子川へ向かうことになっていた。

一緒に行くのは、凪とB・Bとドド。

凪とB・Bは、マリアの護衛だ。

ドドは、悪霊となってしまった女の出現を、離れた場所からでも知ることが出来るカエルと話が出来るので、一緒に来ることになった。


「カエルの言葉なら、俺にだってわかるよ!」と、クロは一緒に来たがったが、女が現れたと知ったクロが、大声でマリア達に教えたりしたら、驚いた女が姿を消してしまうかもしれないので、クロの同行は拒否された。


まずは、女が棲みついていると思われる遺体の発見場所には近づかず、カエルが生息する場所に潜んで、女が現れるのを待った。


しかし、この日、日が暮れるまで待っても、女は現れなかった。

三四子川に訪れる家族が居なかったからかもしれないが…。


翌日、再び、マリア達は三四子川に向かった。

だが、この日も、女が姿を現すことはなかった。


三四子川に来る家族が居なければ、被害に遭う子供が居ないので、それ自体はとても好ましいことではあるのだが、女も出現しないとなると、それはそれで解決が遠退いてしまうので、マリアは、安堵と不安が入り混じった複雑な気持ちだった。


動きがあったのは、その次の日だった。

7月最後の日曜日、込み合った場所から逃れるように、一台のキャンピングカーが、三四子川の河川敷に入って来た。


「すごい!誰も居ない。」

「穴場だな。ラッキー。ほら、準備するぞ。」


大人の男女二人が、車から降りて来て、その後、子供二人が、車の後部座席から降りて来た。

楽しそうにバーベキューの準備を始めるのを、対岸の森の中から、マリア達は眺めていた。


「ドド、カエルたちは何か言ってる?」


マリアは、カエルの姿になったドドに尋ねた。

ドドは、そこに住むカエルたちと一緒に居た。


「ううん、何も。まだ女は来ていないみたい。」


カエルたちに、動きは、まだなかった。

カエルたちは皆、のんびりとしたものだった。


異変が起きたのは一瞬。


家族連れで来た父親が川に入り、魚釣りを始め、それを追うように男の子が川の中に入った瞬間だ。


「……?」


川の流れが、急に速くなったような気がした。


「B・B!」


びっくりしたように、突然、ドドは飛び跳ね、B・Bの足にしがみ付いた。


「どうした?」


B・Bが聞くと、ドドは縋るような目をB・Bに向けて、小声で言った。


「カエルたちが、女が来た、隠れろって。カエルたちは、みんな隠れたよ。」

「……え?」


マリア達は、ドドの言葉を聞いて、足元を見た。

ドドが言った通り、カエルたちの姿どころか、水たまりの中のおたまじゃくしまでもが姿を隠して、見えなくなっていた。

水の中、土の中、石の陰、草の陰。

みんな隠れて、息を潜めている。


父親と男の子は、密かに起きている異変に全く気付かず、楽しそうに笑っている。


どんな風に子供を溺れさせるのか。

父親が傍に居ても、それは出来るのか。

今どこにいるのか。

どこに潜んでいるのか。


マリア達は、それらを知りたいと思うのと同じくらいに、溺れる子供も助けたいと考えていた。


「行こう。」


マリア達は、その為に、二手に分かれることを決めていた。


子供が流された瞬間、すぐさまイヌワシとなったB・Bが、カエルの姿のドドを乗せて、流される子供の頭上に飛ぶ。

その時、B・Bが、子供を掴むことが出来ると判断したら、子供を掴み、岸に上げる。

ドドは、B・Bが子供を掴む掴まないに関わらず、子供の頭上に来たなら、すぐに飛び降り、子供にしがみ付くことになっていた。

川の中で溺れる子供の状態を、確かめておく必要があるからだ。


イヌワシが子供を襲っているように見えてしまい、子供の家族は、おそらく驚いてパニックになってしまうだろうけれど、他に方法が思いつかなかった。


マリアと凪は、先に遺体発見場所となった川下に向かった。

そこへ行き、今、女はそこにいるのか、川の中に居るのかを、確認する為だ。


「———!」

「————!」


途中、上流の方が騒がしくなったのがわかった。

多分、子供が流されたのだろう。


「急ぐぞ。」


マリアと凪は、川辺の森の中を、急ぎ、走った。







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