#10 恐ろしいのは、魔物よりも人間
琴音に頼まれ、マリアに同行することになったB・Bとクロとドドは、三四子川に着いた瞬間から、ただならぬモノの匂いを感じていた。
ヒトとも、妖とも違う。
魔のモノではない、化けものと呼ばれる類のモノの匂いだった。
子供を溺れさせて殺している幽霊。
それはもう悪霊だ。
マリアが、どうやって退治するのか分からないが、殺すことだけを目的として存在している悪霊は、どんな魔物よりも恐ろしい。
祓うとなったら、逆上して、何をするか分からない。
そんなモノに、マリアを近づかせて話をさせるなんて、凪と琴音は何を考えているのだと、B・Bには理解しがたいことだった。
前のオオジョロウグモの時とは、何もかもが違った。
悪霊の恐ろしさを、凪も琴音も、本当に知らないのだろうか?
「………。」
B・Bは、マリアが心配でたまらなかった。
河童は妖怪だ。
人間の怨念によって、変わり果てた姿ではない。
水神のなれの果てではないかと、推測している本もあった。
そして、女は、河童ではない。
幽霊と妖怪は別物で、この世に未練があって現れるのであれば、悪さはしないし、憎い相手が居て現れているのなら、その者だけに災いは起こるもの。
しかし、今回の怨霊は、子供であること以外は選ぶことなく、殺しているように思えた。
目的は何だろう?
B・Bは考えた。
子供を食べて若返る魔女の話は、聞いたことがあった。
若くて美しい魔女は、実は老婆で、子供を食べて若返っていたという。
「………。」
クロとドドが話を聞いた鳥たちとカエルたちは、”ずぶ濡れの女”、”怖い女”と表現していて、”綺麗な女”だったとか、”若い女”だったとか、女性が好む表現を、全く使っていなかった。
つまりは、”綺麗な女”でも、”若い女”でも、ないということ。
食べる為に殺している訳ではないのだろうか?
では、なぜ殺す?
どうして子供だけを狙う?
マリアは、今日も遅くまで勉強していた。
ノルマがあるからだと、言っていた。
三四子川の悪霊には、明日、会いに行くことになっている。
だが、その前に勉強会に行ってくると、マリアは言った。
約束だから、行かなくてはならないのだと、言っていた。
宮司修業に、悪霊退治、その上、学業までこなすのは大変だ。
このままでは体力が持たないだろう。
疲れているのに、悪霊と対面するのは、辛いのでは?
万が一の時のことも考えておかなければならないだろう。
あまり無理はしてほしくない。
しかし、止めることも出来ない。
一体、どうすればいいのか……
「………。」
B・Bは、思い悩み、その夜、なかなか眠れなかった。