#1 これまでのお話
マリア・月城・グレースは、トールと朔乃の子として、イギリスで生まれた。
兄は、クリス。
弟は、アルフ。
仲の良い家族だ。
事の始まりは、300年以上も前の話。
遠い、遠い、グレース家の先祖、レイモンド・グレースが悪魔B・Bと契約を交わした。
難病を抱えた孫のケリーを助けてもらう為だった。
医者には助ける術が無く、神に祈り続けても、ケリーの具合が良くなることは無かった。
諦められなかったレイモンドは、最後の手段として、悪魔に救いを求めることを決意した。
悪魔を呼び出す黒魔術団を探し出すと、悪魔を呼び出してもらうことを交渉し、実現することに成功した。
そして、悪魔を呼び出し、孫のケリーを助けて欲しいと願い出た。
当然、悪魔は無償で願いを叶えてくれるはずはなく、レイモンドに代償を求めた。
それは、“レイモンドの血を継ぐ娘の命”。
レイモンドは、承知した。
レイモンドの血を継ぐ娘は、一人残らず全て悪魔に差し出す————と。
それ以後、グレース家に生まれる女の子は稀で、しかも、皆、5歳を迎えることはなかった。
悪魔との契約
グレース家で、代々受け継がれて来た話だ。
実際に、女の子が育たなかったことで、疑いようも無かった。
ところが、マリアは5歳を迎え、5歳を過ぎても、すくすくと育っていた。
病気やケガも、人並みに経験していたけれど、命にかかわることはなかった。
だが、悪魔に命を狙われていなかったわけではない。
違いがあるとしたら、マリアには、悪魔であるB・Bの姿を見ることが出来た。
その所為で、心に深い傷を負ったわけだが、マリアは、B・Bの姿が見えたことで、B・Bに興味を持たれ、生き延びることが出来ていた。
マリアの両親、トールと朔乃は、いつもマリアを心配していた。
そして、朔乃の母であり、マリアの祖母、黒石神社の宮司を務める琴音に相談したところ、神使である凪が、マリアの傍に居ることになった。
凪は、黒石神社の神・御弥之様の神使で、本当の姿は、大きな白い狐だ。
本当の姿である大きな白い狐の姿では、普通の人の目には見えないので、ヒトの姿になることも出来る。
凪は、大きな白い狐の姿と、ヒトの姿を上手く使い分け、常にマリアの傍に居て、B・Bからマリアを守り続けた。
マリアは、家族の愛情と凪の支え、そして、祖母である琴音の助けと、黒石神社の神・御弥之様の加護があったお陰で、様々な苦難を乗り越えることが出来た。
B・Bとその使い魔達と、和解することが出来たのも、みんなの支えと助けがあったからだと、マリアは感謝した。
マリアがB・Bたちと和解したことで、グレース家に伝わる“悪魔との契約”は破棄されたわけだ。
命の危険から解放されたマリアは、日本で暮らすことになった。
琴音の跡を継ぐ為、宮司見習いとして、黒石神社で修業をしながら、日本の高校に通うことになった。
B・Bとその使い魔達(ノラ、クロ、バト、ヴィゼ、ドド)も、日本に移り住み、人と関わりながら暮らしたいという、本当の願いを叶える為、黒石神社で働くことになった。
B・Bたちは、最初の頃、神域に入ることが出来ず、黒石神社付近の森で寝泊まりするしかなかったが、今では、琴音の家で、マリアと一緒に暮らしている。
神殿への立入りも許され、B・Bに至っては、依り代まで御弥之様に与えてもらった。
天使だった頃のことは、もう覚えていないが、きっと今の自分のように、心穏やかに過ごしていたのだろうと、ふと思い、B・Bは顔を綻ばせる。
その顔を見て、幸せを感じてしまうのが、使い魔達だった。
使い魔達5人は、B・Bの傍に居て、B・Bのことだけを思い、B・Bの為だけに生きて来た。
B・Bだけが全てで生きがいだった。
そこに、マリアが加わった。
使い魔達にとって、B・Bに新たな生き方を与えたマリアのことも、大切な存在だ。
マリアの為にも出来ることをしようと、考えるようになっていた。
ヒトの姿では子供なので、人目のある場所では動物の姿になることが多い。
学校にも行かず、うろうろしている訳にはいかないし、外国人の子供が5人も居たら、目立たないわけがないからだった。
琴音は、家族が増えて、賑やかになったことを喜んでいる。
神社に人手が増えたことも、琴音には喜ばしいことだった。
次期宮司のお披露目を済ませたことで、次期宮司としての役目を果たさなければならなくなったマリアと凪が、神社を留守にすることが多くなっても、B・Bと使い魔達が居るので助かっていた。
次期宮司としての役目とは、警察から依頼された事件の解明と解決だ。
七曜に与する神社は、妖を引き付ける役割を担い、超常現象的な事件への協力をすることで、時折見せてしまう非現実的な行動や現象については、お咎め無しという免罪符をもらっていた。
もしかしたら、こちら側とあちら側の均等を守り、均等を破るモノの排除も、任されているのかもしれない……。
再び、始まりました。
最後まで、お付き合いください。