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昔話



 遥か昔、後に機神と呼ばれる一体のロボットが居た。

 その頭脳はあらゆる事象を理解し、

 その右腕はあらゆる物を破壊し、

 その左腕はあらゆる物を創造し、

 その右脚はあらゆる時を駆け抜け、

 その左脚はあらゆる空間を飛び越える、神の如きロボットだった。

 そしてその胸にはそれらを全て動かす無限のエネルギーが秘められていた。

 ロボットは星々を巡り、宇宙に繁栄をもたらし、そしてとある星を最後に旅を終えて眠りについた。

 やがてその遺骸は宇宙に散り散りになったという。


「……このロボットの最期はどの星でどんなだったか、それは様々な憶測が飛び交っていて定かになってはいない」


 カイウスは機神の腕を眺めながら呟く。


「まぁ、それは今はどうでもいい事だ。大切なのはこの機神の身体は宇宙でバラバラになっていて、最も重要な部位である心臓『エターナルコア』は惑星ヴァルキアで発見されたということだよ」


 カイウスは昔話を始めた。



 事の始まりは十二年前にまで遡る。

 惑星ヴァルキアに在る古代遺跡の中から、エネルギーを放ち続ける不思議な石が発見された。

 解析の結果、それは鉱石ではなく極小サイズに作られた永久機関であることが判明。

 伝承からそれがエターナルコアであると知ったヴァルキア星王はすぐに研究を始めさせた。

 研究の第一人者はグレイム博士。当時のヴァルキアで最も博識な男だった。


「グレイム博士はエターナル・コアを研究し、重大な情報を手に入れた。それはコアの起動条件だ」

「…………」

「まぁ、それは君も知ってる事か。エターナル・コアもデストロイ・ギアも起動条件は同じだ」


 カイウスは見てろと目配せすると、デストロイギアの腕に指先で触れた。

 すると、デストロイギアはわずかに光を放って反応を示した。


「起動条件は『人間が触れる事』。正確には生命体と言ってもいい。デストロイギアは中身が空洞になっている。まるで腕に装着するのが前提のようにね。つまりコレは人間が使う為の武器となっているんだ」


 「どうしてだろうな」と笑いながら手を離すと、カイウスは再びセスに向き合う。


「エターナル・コアも人体に装着する事で力を発揮する装置であるということをグレイム博士も知るにまで至った。しかしそこからが問題だった。エターナル・コアを装着したところでただの人間には扱えなかったんだ」


 当時、コアを装着した人間は送り込まれるフォトンに身体が馴染まずに軒並み命を落としていた。研究は大きな壁にぶつかった。

 検証を重ねようにも人命がかかる以上、おいそれと実験を繰り返す訳にもいかなくなってしまったのだった。


「これは後にグレイム博士が記したことだが、エターナル・コアの操作にはフォトンを受け入れても死なない『適合者』がいたんだ。しかし当事それを探すには時間と命がかかりすぎる。さすがの星王も実験を認めなかった。だがその二年後、研究は大きく進むことになった。理由は君だ」


 グレイムが改めて遺跡を調べた結果、遥か昔にエターナル・コアの力を使っていた者は重力のフォトンを有していたおり、その力を持って争いを鎮めたと壁画に記されていた。

 そして当時7歳だったセスは同じ重力のフォトンに目覚めた。

 であるならば彼女で試さないという選択肢はグレイムには無かった。


「グレイムは幼い君を攫い、施設へと閉じ込めて実験を開始した。乱暴なやり方だがそれほど彼にとっての君は希望だったのだろう。成功すれば誘拐など不問になるほどの功績が手に入ると」

「っ…………」


 セスは小さく震える肩を自分で掴んで止める。


「ああ、誘拐されたのを思い出したのかな。嫌な気分にもなるよね」

「今も大差ないわよ……」

「ははっ、これは失礼。僕としてはそんなつもりはないのだけどね?」

「うるさいわね……」


 笑顔のカイウスに悪びれる気など微塵もないとわかっていた。セスは無駄とわかっていても反射的に睨みつける。


「まぁ、とにかく君は誘拐され、エターナル・コアの実験台となり、見事に適合したわけだ。だが、幼い君はコアを制御できず能力を発動、街ほどある研究施設を跡形もなく消し飛ばした。生存者は君一人。データから見て、ここが君が当事者であると確信できるポイントだ。いくら破壊的な能力であったとしても、まるで切り取ったかのように綺麗に消失させるなど圧倒的な重力の力以外に考えられないよ」


 どうやって手に入れたのか、カイウスの推察は確実に事件の資料を手に入れてなければ語れないほどに正確だった。

 だが、知っているのはあくまで『資料に書いてあること』だ。


「というわけで君が事件の当事者であり、エターナル・コアを持っている又は在り処を知っている人物であると僕は思ったわけだ。教えてくれるかな?」

「断る」

「……知っていることはもう否定しないんだね。そこまで態度を変えないのを見ると持ってはいなさそうだ」

「……当事者なのはもう隠せないもの。在り処を知らないという事はその後の事までは調べられなかったようね」


 図星を突かれ、わずかに表情が曇る。

 対称的にセスは少し余裕を取り戻した。


「いいさ。どのみち、君を押さえていればヴァルキアがコアを使う事もない。あとはコアを手に入れて君と揃えればいいだけだ」

「教えないって言ったでしょ」

「構わないさ、時間はある。君の為の装置を作ったんだ」

 

 壁が開き、大掛かりな装置が現れる。左右には巨大なタンクが一つずつ。真ん中にはヘッドギアが付いた座席が用意されている


「こいつで頭を君の頭の中をちょこっとだけいじらせてもらうよ。僕の質問に正直に答えるようにね。それが終われば君はここでエターナル・コアで僕の為に一生フォトンを生み出し続けていればいい」

「……待って。私を兵器に利用するんじゃないの? ならなんの為のエネルギーを……」

「おや、そこに気付かないとは鈍いね」


 意外といった顔でカイウスは首を傾げると、右手をゆっくりと伸ばした。

 その先にある物にセスは目を見開く。


「まさか……だって適合者が必要なのはソレも同じのはず……」

「だから、僕がその適合者ってことさ」


 デストロイ・ギアは自らその身を開き、カイウスを受け入れる。

 右手を飲み込むと、やがて肘までだった形が変形し肩まで黒い装甲で包み込まれていった。

 繋がれていたケーブルは全て外し、見せびらかすように両腕を広げる。


「やはりこれを着けると気分が高揚するなぁ。何かをブッ壊したくてたまらないって感じだ」


 たまたま立っていたアンドロイドに手をかざすと、掌からサッカーボールほどのフォトンの弾丸が放たれ、粉々に破壊してみせた。


「うん。よく馴染む」

「そんな……」

「これの力はフォトンがあればあるだけその威力を増していく。僕がこの力を十分に発揮する為の生贄になってくれよ、セレスティア」


 カイウスの右手がセスを掴もうとした時だった。

 けたたましいサイレンが部屋中に鳴り響いた。


『こちら操縦室! 所属不明の民間船が一隻、当艦に接近中!』

「たった一隻に何をしてる!? さっさと沈めろ!」


 通信を切るとその僅かな間に目を離したセスが部屋の外へと走り出していた。


「くそっ!」


 追いかけようとした直後、今度は艦が激しく揺れた。立っていられないほどの衝撃で壁に身体を預ける。


「今度はなんだ!」

『先程の民間船が当艦の発着場に侵入されました!』

「あァ!? 何やってる! 一体誰だこんなことやるバカは!」


 カイウスが怒鳴り散らす。セスの姿はもう見えない。

 発着場には一隻の宇宙船が煙を上げて横たわっていた。

 周りを包囲する武装アンドロイド隊がにじり寄っていくと、船の扉が開いた。

 中から二人の声が聞こえ始める。


「げほっげほっ、お、お兄ちゃん無茶しすぎ……死ぬかと思った……」

「け、結果オーライだ……ん?」


 部隊長アンドロイドが先頭に立ち、警告を告げ始める。


「そこを動くな、侵入者。両手を挙げておとなしく投降せよ」

「だってさ。これからどうするの?」

「安心しろ。作戦ならある」


 ルキは当然の疑問をすると、アハトはサムズアップで答えた。

 外に出て傾いた宇宙船を足場に、両手に剣を構える。


「とにかく暴れるって作戦がな!」

「それ作戦じゃないよ!」


 兵隊の群れの中へ、一人飛び込むのだった。




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