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ここにいる



「すいません。地域警備隊の者です。どなたかいらっしゃいませんか」


 扉の向こうで男が訊ねる。

 アハト達は思わず固まったが、目を合わせると即座に動き出した。


(早く早く早く! それ貸して。アハトはこれを着けて)

(こりゃなんだ?)

(いいから早く! リリちゃんは奥の部屋で待っててくれる?)

(……うん)

(ごめんね。すぐ済むからいい子でお願い)

(ルキ、上手くやってくれよ)

(そんな急に……! ああもうわかったよ)


 家の中がドタバタと騒がしくなると、突然扉が開かれた。

 現れたのは息を切らした少年だった。


「……どうも。バタバタしちゃってすいません。その……散らかってて。あ、僕はルキです」

「私は地域警備隊のハンスという者です。こちらには調査で伺ったのですが、入っても?」


 男は警備隊のバッジを見せつけて名乗る。

 深緑の制服に軍帽を被った男の物腰は丁寧ではあったが、目つきは鋭く、威圧的にルキを睨んでいた。


「なんの調査か分かりませんが、僕は何も知りませんよ? それに先程も言いましたが家の中がちょっと散らかってて、人を招けるような状態ではなくて……」


 ルキが威圧も負けず、拙いながらも家に入らないように話す。

 ハンスは話を聴きながらも振り返って建物の陰をみると、軍帽のツバを軽く触った。

 物陰が僅かに動くのを確認すると、ハンスの視線は再び家の方へと戻る。


「構いません。すぐに住みますから。ご家族の方はいらっしゃいますか?」

「あ、ちょっと!」


 ルキの返事を聞いてもハンスは堂々と家の中へと押し入った。



 家の中にいたのは、杖を地面に突いて椅子に座るお爺さんと、その隣で編み物をしているお婆さんだった。



 ルキは彼らを紹介した。


「えっと……祖父母です……?」

「まぁ。爺さんや、お客さんよ」

「ん〜?」


 しわがれた声で話すセスはフードの付いたポンチョで身体を覆い、眼鏡とマスクで顔を隠している。

 アハトはサングラスに山盛りの白ひげを着けており、作業用のツナギを着ていた。


「お客さんかい? ババア、晩飯をご馳走せにゃならんなぁ」

「ババア言うな。まだ昼よ、ジジイ」

「げぅっ!?」


 見向きもせずに肘鉄が腹へとキマる。

 変わった家族の様子を見ていたハンスは言葉に詰まっていた。

 どうやらバレてはいないようだった。


「んんっ、ルキくんと言ったね。ご両親は?」

「中央に働きに行ってます。……そちらの指示で」

「光栄な事だ。陛下為に働けるのですから。いれば話が早いかと思ったが、まぁいいでしょう。元から用があるのは君にだ」


 アハトとセスは静かに息を呑んだ。


「私は今、誘拐犯を探している。もうニュースで知っているだろう?」

「確か、ヴァルキアのお姫様が誘拐されたんですよね。それでどうしてうちに?」

  

 ルキは極めて自然なフリで話を続ける。


「実はその誘拐犯とお姫様なんだがね、この星で目撃証言があったんだ。昨日、ウチの部隊長とモメた人物と酷似していたそうだ。聞き込みをした所、君と一緒に居たという証言が出て来てね。何か知っているのなら話してほしい」

「えーっと……」


 チラリと横を見やれば、アハトとセスが首を激しく左右に振っていた。

 視線をハンスに戻し、ニッコリと笑みを浮かべた。


「あ、ああ、あのお兄ちゃんとお姉ちゃんですね! まさか誘拐犯とお姫様だなんて知らなかったー!」

「そう、その二人だ。なぜ一緒にいた? 彼らはどこへ行った?」


 そこに居ますけど。と言うわけにはいかない。

 ハンスの表情が険しくなっていく。下手に嘘をつけばどうなるかを示しているようだ。

 怖くて白状したい気持ちにもなる。けれど、ここで引くものか。


「……お姉ちゃん達は僕を助けてくれたんだ。酔っ払ってたアンタんとこの部隊長がぶつかってきたくせに、僕のせいにして殴りつけようとしたところをね。どこに行ったかって? そんなの知らないよ。僕を家まで送ってからどこかへ行っちゃったから」

「……本当に知らないのか?」


 毅然とした態度でルキは話した。

 どれだけ睨みつけられようと、逸らさずに。

 やがて諦めてハンスが目を離す。


「そうか。それは失礼した。ところで、そちらの扉は?」

「えっ? あっ!」


 ルキは慌てて扉の前に開けさせないように立ちはだかる。


「こ、これはガレージの扉だよ。向こうにはお客さんから預かった宇宙船があるんだ。部外者は入れられない!」

「ふむ。ならば尚更見せてもらわなければならない。誘拐の件と同時に無許可の宇宙船が一隻、この星に侵入している。中央都市にその船は無かったが、こちらの区域はまだ調査中でね。確認せねばならない」

「うわっ!」


 ハンスは扉からルキを引き剥がす。よろけたルキは咄嗟にハンスの服を掴もうとするが、届く事なく彼はガレージへと入ってしまった。

 そして目の前にある修理中の宇宙船を見て広角を釣り上げる。


「やはりここにあったか! これは報告にあった宇宙船だ。間違いない。残念だよルキくん、これは反逆罪だ」


 ハンスはルキに銃を向けた。フォトンの弾丸をいつでも撃ち出せると見せつけるかのように銃口は青く光っている。


「答えろ。二人はどこに行った。帰ってくるのか? 黙っていても良い事など何も無いぞ。この家は既に軍に包囲されている」

「な、なんで……!」

「目撃証言はここで途切れている。しかも宇宙船を隠しておける場所もある。騙すなり脅すなりしてここを拠点にしている可能性は大いにあるだろう? 当然の措置というものだ。いきなり踏み込まなかっただけ感謝してほしいが、このまま答えなければこの家を徹底的に調べさせてもらう」

「っ……!」


 ハンスは指を引き金にかける。

 ゆっくりと両手を上げたルキは唇を強く結んでそれでも答えようとはしなかった。


「いいのよ、ルキくん」


 突然聞こえた声に振り向く。

 二人の間に、老婆がゆっくりと腰を曲げて歩いてきた。


「おねっ、おばあちゃん……?」

「お婆さん。今大事な話の最中なんです。下がっていてくれますか?」

「子供に銃を向けて話すなんて物騒ねぇ……あら、なんの話だったかしら?」

「誘拐犯とお姫様の居場所を聞いてるんです」

「ん〜?」


 聴こえないなと手を当てて片耳をハンスへ向ける。

 苛つき始めたハンスはわざと大声で言い放つ。


「誘拐犯と! お姫様の! 居場所を! 聞いてるんですぅぅ!」

「うるっさい!!」


 セスのフォトンビンタが炸裂した。

 ぶっ飛ばされたハンスはガレージのシャッターを突き破り、向かいの壁へとめり込む。

 シャッターを開き、老婆は普通に歩いてハンスの前へと立つ。


「こ、こんな……何者だ……!」

「そんなに居場所が知りたいなら教えてあげるわ」


 変装を脱ぎ捨て、彼女は叫ぶ。


「私はここよ!!」 


 

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