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理由

 惑星サンドバル滞在2日目。

 太陽が真上に近づく頃、ガレージでは金属音が鳴り響いている。

 あれからアハトとセスはルキの家に泊まり、ミラフォース号の修理を続けていた。


「……で、まだ修理は終わらないの?」


 ティーカップを片手にセスはアハトへ尋ねる。 アハトはレンチを回す手を止めて呆れた目を向けた。


「お前な……戦力にならねぇんだから黙って待っとけ。五分に一回聞いてくるな」

「退屈なんだもの」


 昨日の修理作業開始時点ではやる気を見せていたセス。

 ルキはひとまず簡単な作業をと、外した部品を元の位置に戻す指示を出していた。

 が、作業を終えたセスは


『ネジが一個余ったわ』


 と言って余ったネジを差し出してきたのでアハトにガレージから追い出されたのだった。


「つっても本当にそろそろ終わるけどな」

「うん。あと一息ってところだね〜」


 ノインから渡されたデータを元に修理を進めていたルキはコンソールを叩く手を止めると、軽く伸びをする。


「ちょっと休憩にするか」

「そうだね」

「今日中には修理を終えて旅立てそうね……あら、そんなとこに隠れてどうしたの、リリちゃん」


 セスの視線の先へ目をやると、扉の影から顔を覗かせるリリの姿があった。

 彼女は何も言わず、じっとセスを見つめている。

 ルキは彼女に近づいて声をかけた。


「ああ、ごめんよリリ。そろそろお昼だね。すぐに作るから……」

「お姉ちゃんって、お姫様?」

「へ?」


 セスが思わず変な声を零すのと同時に、アハトが目を見開く。


「リ、リリちゃん? どうしてそんなこと聞くの?」

「それは」

「確かに私をお姫様に見えるほど高貴で美しいと思ってしまうのは仕方なもごっ」

「言ってねぇからちょっと静かにしてろ」


 アハトは自己陶酔気味になったセスの口を片手で塞ぐと、続けてとリリに手を向ける。


「えっと……お姉ちゃんとお兄ちゃんがさっきテレビに映ってたから……」

「………………………………!?」


 アハトは口から手を離し、セスと見つめ合う。

 沈黙の数秒後、二人は大慌ててリビングへと駆け込んだ。後を追ってルキとリリも走り出す。

 

『惑星ヴァルキア王女、セレスティア=ヴァルキリアス様誘拐事件の続報です。依然として容疑者は逃走中のまま行方不明となっています。容疑者の名前はアハト。王直属の親衛隊の一人であり、セレスティア王女の護衛をしていた者とされています』


 画面にセスとアハトの顔写真が映し出された。


「なっ……!」

「マズイわね……!」

「ええええええええ!? お兄ちゃん誘拐犯なの!? い、命だけは助けてくださいぃ!」

「おいバカ! デケェ声出すな! 誘拐犯がここに居るってバレるだろうが!」

「貴方もうるさいわよ!」


 ルキがリリを庇うように抱きしめ、アハトはルキの肩を掴んで迫る。

 セスはそんな慌てふためくアハトの頭をスパンっと叩くのだった。


「ってぇ……ルキ、誘拐犯ってのは誤解だ。見りゃわかるだろ? 攫った相手に頭引っ張たかれるなんてことあると思うか? 誘拐犯がこんな自由にさせとくわけねーだろ」

「確かに……」

「コイツを縛り上げといたらどんなに楽な事か……」

「アハト?」


 笑顔のセスに肩を掴まれたアハトは即座に「ナンデモナイデース……」と視線を逸した。


「じゃあどうしてアハトの兄ちゃんは誘拐犯って事になってるの?」

「それは……ああ、ちょうどニュースで言ってるわ」


 セスが指を差し、テレビに視線を戻す。


『セレスティア王女は惑星シグニアの王子、カイウス様との婚姻が決まっており、事件は結婚式の前日に起きました。両星を結ぶ婚姻に期待が集まっていただけに、この出来事はあらゆる方面へのショックが大きいとされています。また、カイウス王子は本件に対してコメントも出しています』


 画面が切り替わり、金色の長い髪を揺らす爽やかな顔の男が映し出される。


『惑星シグニアの第一王子カイウス=シグニアだ。セレスティア姫を攫った男はヴァルキアの誇る精鋭ですら敵わないほどの凶暴で危険な人物だ。だが安心して欲しい。私は自ら動き、必ずこの凶悪犯から姫をすぐに救い出してみせる!』

『キャー! カイウス様〜!』


 カイウスの宣言に画面の外から女性の黄色い声が無数に入り込んできていた。

 元のニュースキャスターの画面に戻る。


『また、この他にも今回の事件でヴァルキア星王は怒りを露わにしています』


 映像が切り替わり、ヴァルキア星王は広場で大勢の民衆向かって怒鳴り散らしていた。カメラがズームになり画面いっぱいにヴァルキア星王の顔が映し出される。


『ワシの娘を攫った不届き者め!

絶対に許さんぞォ! カイウス王子に続き我々も国家を挙げてこの男を捕まえるつもりだが、状況は一刻を争う。この誘拐犯に懸賞金一億だ! 生死は問わん! やつの首をワシに持ってくるがよい! そして我が娘セレスティアを傷一つない無傷で取り返してくるればさらに報酬一億上乗せしよう!』

『ウオオオオオオオオオオオー!』


 驚異の懸賞金に民衆からは力強い咆哮が放たれる。

 そしてテレビの前で崩れ落ちたアハトからは絶望の悲鳴が吐き出されていた。


「オォォォォォォ………終わった……王様ブチ切れてんじゃねぇか…………」

「お父様……完全に我を忘れてますのね……」

「えーと……つまりカイウス王子と結婚するはずだったのに、アハト兄ちゃんに頼んで逃げ出したとか?」

「まぁそんなところね」

「えぇ……でもどうして? こう言ってはなんだけど、兄ちゃんより王子様の方が見た目いいじゃん」

「ぐはっ」

「性格も立場も上だと思うし」

「うぐっ、がはっ」

「兄ちゃんに勝ってるとこなさそうだけどなぁ」

「ルキくん、その辺にしてあげて?」


 セスとルキが話してる横で、昨日セスに沈められた時開いた床の穴にアハトが自ら入って行く。


「俺もうここに住む……」

「生首がなんか言ってる……」

「アハトがカイウス王子に比べてスペックじゃ勝負にならないのはもう仕方無いのだけれどね?」

「姉ちゃんトドメ刺してるよ」

「別にアハトと結婚したくて逃げ出したわけじゃないの。ね、アハト」

「ああ……そのみんな大好きカイウス王子がどうにもキナ臭いらしくてな」

「キナ臭い? 悪いことしてるの? そういうのって結婚前に事前に調べたりしない?」

「そうだ。調べた結果何も出てこなかった。それより出てくるのはカイウス王子の誇らしいエピソードばかりだ。だから縁談も結婚まで進んで行ったんだ」

「なら善い人なんじゃない?」

「キナ臭い『らしい』って言ったろ。それを言ったのは俺じゃねぇよ」

「私よ。私の勘が『アイツは悪人』って言ってるわ!」

「へ………?」


 自信満々に胸を張るセスを見て、ルキは開いた口が塞がらなかった。アハトに至ってはもう表情が抜け落ちている。


「え? それだけ?」

「それだけよ!」

「……つまり、アハト兄ちゃんはセス姉ちゃんがそう言ったから、姉ちゃんを連れて逃げ出して、この星に不時着して、凶悪誘拐犯として指名手配されているの……?」

「そうだよ……笑えるだろ……笑えよ……へへっ……」

「に、兄ちゃん……」


 目が笑っていない生首アハトにこれからは優しくしようと思うルキだった。


「もちろんカイウス王子をもっと調べるべきだとお父様やいろんな人に相談したけど皆信じてくれなかったの。アハトとノイン以外は」

「そりゃそうだよ……理由が勘じゃあ……」

「ノインにはずっとカイウス王子をことを調べて回って貰っているのだけど、まだ尻尾を掴めなくてね。だから逃げ出したのはノインがカイウス王子の悪事を暴く時までの時間稼ぎってワケ」

「でも指名手配されちゃったんでしょ? あまり時間が無いんじゃない?」

「ええ、だからすぐにでも旅立たないといけないの。沈んでる暇はないのよ、アハト!」

「誰のせいでこうなったと思ってんの!?」


 アハトの頭を真上から鷲掴み、『軽く』してから片手で一気に引っこ抜く。


「ギャーッ!」

「大きな声出さないでって言ったでしょうが!」

「おめーも声デケェよ!」

「ああもう二人とも! 喧嘩してる場合じゃないでしょう!」


 ギャーギャーと騒ぐ二人を宥めようとするルキ。その裾を小さく引くリリはカーテンの向こうを見つめている。


「お兄ちゃん……誰か来たよ」


 コンコン


「すいません。地域警備隊の者です。どなたかいらっしゃいませんか」


 扉の向こうから男が名乗る。

 アハト達の空気は一瞬にして凍りつくのだった。

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