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<R15>15歳未満の方は移動してください。

政略で決められた冷たい婚約者がいきなりどストライクに変身したのだが

作者: 夕焼け

世界に広まれポメガバース

 どうしてこうなった。

 パメラ・アンデションは困惑していた。自身に起きた現象に理解が追いつかなかった。


「きゃうん!」

(何!?)


「ふぁああ! 鳴き声もなんて愛らしいんだ!」

 黒い毛玉もとい、黒いポメラニアンを抱きしめ頬擦りする美形。

 傍から見たら和む光景だが、黒い毛玉に半分隠れた口元は、よく見ると人前に出してはいけないくらいだらしなく緩んでいて美形が台無しだし、抱かれているポメラニアンは愛くるしい容姿なのに何故か虚無顔だった。


 何がどうなって、自分が婚約者に抱きしめられているのか、婚約者だから抱きしめるのは有りか。いや、こんな公衆の面前では無しか、と現実逃避をパメラはしていた。

 いつも近寄ると鬱陶しそうにして冷たい婚約者が自分を抱きしめるなんて有り得ない事が起きて混乱してるんだと思いこもうとしたが、自分の手を見て、フサフサの黒い小さい前足に認識障害か?と頭をよぎる。しかし、ぽすぽすと婚約者の胸を叩く感触にこれは現実だと受け入れるしかないと思い直した。


 そう、自分がポメラニアン(もふもふ)になってしまったということに。



 ▽▽▽





 パメラ・アンデションは北のリルカアーデ国の公爵令嬢である。

 リルカアーデ国は大陸の最北端にある大国で、国土の三分の一が険しい山々に囲まれていて一年の約半分が雪に覆われているという雪国だ。

 リルカアーデ国の人間は色素が薄い者が多く、雪のように白い肌と淡い金髪や銀髪が特徴だ。雪のように溶けてしまいそうな儚く見目麗しい国民というので有名だ。

 その中でパメラは暗闇のような黒髪と夜色の瞳で目立つ存在だった。儚いというよりは氷の彫像みたいに刺すような美貌は見る者を凍らせると言われるくらいで、彼女に近づこうと思う人間はいなかった。

 パメラ本人は品行方正で真面目、高貴な生まれでも驕らず何事も公平な性格で、悪く言えば融通が利かない頭の硬い人間だった。きつめの美貌も相まって身内以外からは冷酷な令嬢と思われていた。


 周りからは氷の令嬢と呼ばれていたがパメラは気にしないようにしていた。自分のことは分かって欲しい人に分かってもらえれば、それ以外は割とどうでもいいと。それでも中傷に心が傷つかないわけではなかった。


 パメラが15歳になる年に南の隣国サフィニアから同い年の王子の妃として婚約の打診があった。

 リルカアーデの王族にはサフィニアの王子と年齢が釣り合う姫がいなかったので、公爵令嬢のパメラが候補者として挙がった。

 国交友好の証として、これをサフィニア王家は承諾。パメラは王命で留学生兼王子の婚約者としてリルカアーデ国へ単身でやってきた。

 そしてサフィニアの慣習に倣い、王子と一緒にリルカアーデの王立学園へ通うことになった。パメラは平日は学園で学び、休日は王宮で妃教育と多忙な日々を送った。一年目は慣れない外国生活と母国語とは違う言語、習慣、厳しい妃教育についていくだけで精一杯だったが、二年生に上がる頃には、多忙な生活にも慣れ、周りを見る余裕が出てきた。

 真面目なパメラは政略とはいえ王子と上辺だけの夫婦ではなく、ちゃんとした夫婦になりたいと思い、親睦を深めようと考えた。とりあえず王子の好きな物嫌いな物など私的な嗜好を知ることからと本人に質問した。(突撃とも言う)


「殿下はどんな本を読むのですか?」

「殿下は朝ごはんは、パンですか?オートミールですか?」

「殿下の好物はなんですか?」

「殿下は何色が好きですか?」

「殿下は鍛錬は誰に師事されてます?」

「殿下の好きな飲み物はなんですか?」

「殿下が普段から心掛けていることは?」

「殿下は右利きですか左利きですか」

「殿下は黒髪が好きですか?」

「殿下はつり目の女性をどう思います?」

「殿下は胸の大きいのと小さいのどちらが好ましいですか?」

「殿下、3日前の18時から二時間どこに行ってらしたんですか?」

「殿下」

「殿下」

「殿下」



「なにこれ? 尋問!?」

 怒涛の質問は王子をドン引きさせるほどだった。そんな質問が連日来る(本人付き)ので、すっかり王子はパメラから逃げるようになってしまった。


 間の悪いことに、この時二年生から途中編入した元平民の男爵家の令嬢が王子に近付いて、二人は交際してるという噂が流れた。

 この噂を最初はバカバカしいと聞き流していたパメラだが、実際に仲睦まじい二人の様子を見て噂が本当なのかと思いプライドを傷つけられた。

 結婚前から浮気とはいい度胸してるじゃないの。

 正確には結婚前なので浮気では無いのだが、パメラには些細な事なので関係ない。

 怒りの気持ちが盛り上がり眦を上げてパメラは王子と男爵令嬢のところに行き、二人を注意した。


「私という婚約者がいながら、このようなふしだらな事は学園の風紀を乱しますわ。殿下もご自分の立場を考えて控えてくださいませ」

「何を勘違いしてるんだ。僕は学園にまだ慣れない彼女を案内してるだけだ。偏見の目で見て騒ぐのはやめてくれないか」


 王子ヒューゴは元々パメラの尋問に辟易していた上に、男爵令嬢とのことを捲し立てるような注意に嫌気が差し、つい男爵令嬢を庇うような返答をしてしまった。

 場所も悪かった。昼休みの学園の中庭で大勢の生徒がいる前で常日頃から注目される人達が軽い(いさか)いを起こしたのだ。

 この出来事によって学園内でヒューゴとパメラの不仲説が流れるようになった。




 真相は貴族社会に不慣れな男爵令嬢に学園の代表としていろいろ学園のしきたりなどを親切に教えているだけなのだが、いかんせん二人の距離が近かった。

 ヒューゴは自分には政略だが婚約者がいるし、未婚の令嬢と近過ぎる距離は王族的にも男としても良くないと分かっていた。

 冷たくあしらうのは簡単だが、右も左も分からない学園で国の頂点に立つ王族の一人である自分が冷たい対応したら元平民の令嬢がその後貴族社会でどうなるか安易に想像できた。ヒューゴはやんわりと注意しつつ男爵令嬢から離れようとした。


 しかし、男爵令嬢には通じなかった。

 彼女、カーリン・ニルソンは平民の時から夢見る少女で、小さい頃に旅芸人一座の芝居小屋で見た平民の女の子が王子に見初められて幸せになるというおとぎ話のような劇に感銘を受けて、いつか自分にも王子様が現れると信じ込んでいた。


 まだカーリンが平民だった頃、唯一の家族だった母が病気で寝込み、いよいよ命が危ないという時に母が娘に出生の秘密を打ち明けた。

 曰く、ニルソン男爵が元使用人の母と恋仲だったが、彼には親が決めた婚約者が居て泣く泣く別れたという。証拠の男爵家の紋章の入った指環を娘に渡して、自分が亡くなったら男爵家を訪ねよと遺言を伝えた。

 そんな事があったので、夢見る少女は母親が亡くなると早速ニルソン男爵家へ行き形見の指輪を見せてニルソン男爵に迫り(指環をチラつかせ脅迫したとも)、男爵家の養女となった。カーリンは芝居小屋の劇を思い出し、自分はやはり王子様と結ばれる運命なのだと確信したのだった。

 事実、現在目の前に王子が学園のことを手取り足取り教えてくれている。

 平民の頃から勉強嫌いで楽して暮らしたい、自分には王子様がいつか迎えに来ると万年お花畑志向だったカーリンが勘違いするのは当然のことであった。そして、その脳内お花畑は今まさに満開である。


 なので現在

「ヒューゴ様ぁ、照れなくていいんですよぉ。あたしたちは運命の恋人なんですからぁ」

 と、人目も憚らずベタベタ王子にくっついていた。


「いや、僕と君は学園のただの同級生であって、運命の恋人ではない。途中編入で学園のことを分からないだろうから教えているだけだ。それに僕には正式な婚約者もいるし」

「ああ! 可哀想に親が勝手に決めた婚約なんでしょ。好きでもないのにひどい!」

「いや、国同士で決めた婚約に勝手とかはない。それに婚約者は融通が効かないところがあるが何事も真摯に向き合い、真面目でいい人だ」

「優しいのね。好きでもない婚約者を庇うなんて」

「いや、庇ってなど」

「いいの! 分かってる。あたしとのことが公になったら彼女が可哀想だもんね」

「いや、だから君とはただの同級せ」

「あたし、ちゃんと分かってるから。あたしたちの関係は今は秘密なのよね」


 全く話が噛み合わないまま、それでもヒューゴは根気よくカーリンに貴族社会の仕組みや学園生活での大事なことを説明した。本物の王子様を相手にしてお花畑思考が加速した彼女の耳には届いてなかったようだが。


 なるべく適切な距離を保とうとする王子 VS ピタリとくっついてくる男爵令嬢 (ファイッ)

 二人の見えない攻防戦は日々白熱した。王子の方がやや押され気味であった。




 熱い攻防戦の二人を王子の侍従ホランはイライラしながら見守っていた。

 殿下、もうお花畑(おバカ)男爵令嬢(カーリン)は何言ってもダメなので親切にする必要はないと思います。だいたい自国の王子に対しての言葉使いがなってない!ギリィ(歯を食いしばる音)とホランはカーリンにガン飛ばしていた。

 カーリンの方はホランに睨まれてるのだが、密かに自分に恋心を持ってるけど王子の運命の恋人だから見つめるだけで我慢してるのね、あたしって罪なオ・ン・ナと相変わらずお花畑全開なことを思っていた。

 火花の散るカーリンとホランの睨み合い(見つめ合い)を横目にヒューゴはため息をついた。どうしてこうなった。


 そんなこんなで日々ヒューゴの精神的苦痛は蓄積されていった。

 ヒューゴの精神的疲労は今や限界に近かった。




 はあ、癒しが欲しい。つぶらな瞳のフサフサを撫で回したい。

 可愛い小動物を思いっきりモフりたい。心ゆくまでお腹の毛を吸いたい。母上の猫をモフったのはいつだったか……。フサフサの毛で尻尾を揺らす猫が恋しい。


 ヒューゴは人には秘密にしていたが、大のケモナーだった。

 特に小さくて可愛らしい小動物が好きで暇を見つけては王宮で飼っている王妃の猫をモフったり吸ったりブラッシングをしたりと、とにかく構い倒していた。(やりすぎて猫からは嫌われている)

 本来なら秘密にするほどでもない趣味なのだが、王子の場合は度を超えていて、モフモフを前にすると犯罪者みたいな放送禁止の危ない顔になり、いつまでも撫で抱きしめ離さないのだ。そして語彙力もなくなり、ポンコツになるので、王子の側近、護衛騎士しかこの趣味は知らなかった(厳戒態勢の機密扱い)


 ここ数ヶ月は学園で男爵令嬢の相手と婚約者から逃げたり、来年の卒業から本格的に王族の執務に携わるための準備等で忙しく小動物をモフってはいなかった。

 激務にモフモフ禁断症状が出そうだ。

 ヒューゴのモフモフへの渇望は募るばかりであった。


 毎日、王子と自分の恋愛妄想を語るカーリンと噂を鵜呑みにしキャンキャン子犬のように吠え責め立てるパメラ相手にヒューゴは疲れきっていた。



 本物の子犬なら可愛いのに人間の婚約者はいつも怒っていて可愛くない。

 だから、いつものようにパメラを適当にあしらえばよかったのが、疲れが限界に達して厳しい言い方で突っぱねた。

 それを自分のためと喜んだカーリンにも更に厳しく注意し、二度と自分に近付くなと怒ってしまった。


「そんな、ひどい。ヒューゴ様はあたしのことを好きじゃないの!?」

「同級生として適切に接してきたが、もう無理だ。君に気持ちは最初からないし、なんなら今は鬱陶しいと思ってる。それに婚約者でもないのに名前を呼ぶのを許した覚えはない」

「あ、あたしたちは運命の恋人でしょ!」

「そんなこと最初から認めてないし、君に運命を感じたことは今までもこれからも無い」

「そんな……! あたしとのことは遊びだったの?」

「遊びも何も、何度も言ってるが最初から何も始まってない」

「!」

 カーリンは態とらしく目に涙を溜めて立ち去った。チラチラと振り返っていたが、ヒューゴがカーリンを全く見ていなかったので諦めて学園の寮へ帰っていった。

 ヒューゴはもっと早くこうすればよかったと思った。


 一方パメラも慣れたとはいえ、多忙な日々は変わりないしヒューゴとの不仲説で他の貴族からは嘲笑され、格下の男爵令嬢からは訳の分からない運命の恋人?とかで上から目線でドヤられて気付かぬ内に精神的に追い詰められていた。そこにヒューゴからの厳しい叱責でパメラは自分が今までやっていたことは何だったのだろうと空虚感に苛まれた。

 と、同時に目の前が真っ白になった。


 ポン!


 軽い音と共に白い煙に包まれて視界が塞がれた。


 聞き慣れない音にヒューゴは音の方へ振り返った。そこには先程まで婚約者のパメラが居たはずなのだが、白い煙で見えない。すわ暗殺か!? と身構えた。傍に控えていた侍従と護衛騎士達がすぐさまヒューゴを庇うように煙の前に立つ。


 煙がなくなったそこにパメラは居なく、黒い毛玉がちょこんと座っていた。



「「「「!?」」」」

 その場にいた全員が困惑した。


 暗殺者でもパメラでもなくモフモフの黒いポメラニアンが居たのだから。


 ポメラニアン本人(?)も戸惑っているっぽく、キョロキョロと首を動かし自分や周辺を見回していた。ヒューゴと視線が合うとピシッと固まった。


 ヒューゴは侍従と護衛騎士を押し退けポメラニアンにゆっくり怖がらせないように近づいた。心なしか目が血走ってるように見える。

 ポメラニアンの前まで来ると片膝をつき、そっと手を出した。

 ポメラニアンは首を傾げよく分かってないようだったが、ヒューゴが手を出したまま動かないので、そろそろと小さい前足をちょこんと王子の手の上に乗せた。


「はぁああ!! 可愛い!! ちょんって! ちっちゃい前足を僕に乗せてちょんって!!! 君はどこから来たのかな? 誰かの飼い犬かな? 人を恐れないし大人しいね。よーしよし、迷子なら飼い主が見つかるまで僕が保護してあげるからね〜。大丈夫。怖くない怖くない」

 ヒューゴは侍従が止める間もなくサッとポメラニアンを抱き上げた。


「待ってください。いきなり現れた不審な動物に触っていけません!」

 いち早く正気に戻ったホランが王子が抱いてるポメラニアンを王子から離そうと手を出した。


「こんな可愛らしい黒ポメが不審だと!? この清らかでつぶらな瞳を見てみろ。世の中の穢れたものなど知らない無垢なモフモフが不審なわけない!」

 ギュッとポメラニアンを抱え込みヒューゴは侍従に背を向けた。


「何馬鹿なことを言ってるのです! 病気とか持っていたら大変でしょう。早く渡してください」

「そんな事を言って、ホランお前、ポメを独り占めする気だな? そうはいかない。このふわふわのポメは僕のだ!!」

「いい加減にしてください!!」


 ヒューゴと侍従がポメラニアンで言い争ってると、パメラ付きの侍女が恐る恐る二人に近付いた。


「畏れながら、突然パメラ様の周りに煙が出て、その小動物が現れたのです。そして、小動物の下にパメラ様が身に着けていた制服と靴があります。もしかして有り得ないと思いましたが、パメラ様が突然消えて小動物が現れたというのなら、その子はパメラ様ではないでしょうか?」

 侍女の指摘に初めて二人はピタリ言い争いを止め、ポメラニアンが居た場所を改めて見た。

 そこにはパメラが着ていた学園の制服と靴下、靴が抜け殻のように落ちていた。




 ▽▽▽



 そして現在、昼下がりの王宮内の庭園の四阿でヒューゴは優雅にティータイムをキメていた。最愛の婚約者と共に。そこへヒューゴの侍従が走ってやってきた。


「何やってるんですか!」

「何って可愛い婚約者(ポメ)をモフって親交を深めてる」

 ヒューゴはデレデレとポメラニアン化したパメラの頭や背中、耳の後ろを思う存分撫でて毛玉を堪能していた。その間パメラは悟りを開いた神官のように無の境地になろうと心を遠くに飛ばしていた。現実逃避とも言う。


「いくら婚約者とはいえ妙齢の令嬢を膝の上に乗せて昼間から撫で回すのは風紀がよろしくないかと。というか殿下これは由々しき事態ですよ!!」

 侍従のホランはヒューゴを叱った。


婚約者(ポメ)との仲を深めるモフりが何故、由々しき事態なんだ?」

 ヒューゴは何故自分が侍従から怒られてるのか分からない顔をしている。

 普段は何事も卒なくこなすのに可愛い小動物が関わると途端にポンコツになる王子にホランは頭を抱えたい気持ちになった。


「問題大ありですよ! パメラ嬢の症状は『ポメガバース』によるポメラニアン化というではないですか!」



 ポメガバースとは過度の労働や緊張によって疲労が極限に達したり精神的に追い詰められたり寂しくなると人が(ポメラニアン)化してしまうという症状のことで、非常に稀なことであるが世界でも数例その症例が発見されている。



 不審なポメ発見とパメラが消えた事からヒューゴは直ぐ周りに箝口令を敷き、侍医を呼び寄せポメラニアンを調べさせた。(その間ヒューゴは、ずっとポメラニアンを抱っこして離さなかった)結果、黒いポメラニアンはポメガバースでポメ化したパメラと認定された。


 ポメ化した人間が元の姿に戻るには、人に又はパートナーに構われ愛される事。

 つまり、チヤホヤ甘やかされるという事が重要で、それによって人に戻るが期間は人それぞれで、一日で戻ることもあるが長いと数ヶ月ポメのままという事もある。

 ということで、ポメラニアン(パメラ)を元に戻すべく、チヤホヤ甘やかすという目的のために四阿で優雅にお茶をしていたのだ。





「パメラ嬢は慣れない外国での妃教育と学園生活の激務、その上不仲説まで流れて追い詰められたからポメ化したという事ですよ!!」

「それがどうした? 僕がこれから甘やかして癒せばいいでしょ」

「きゃんきゃん! わうん!」

(はあ!? そんなの求めてないです!)


「ふぁっ! ごめんごめん、手を止めていたね。ちゃんと撫でるからね〜。パメラはポメラニアンになると黒ポメになるんだね。ああっ! この毛の手触り!! ふわっふわで綿毛のようだ。ちっちゃなお鼻がピクピクしてて可愛い!!」

 ヒューゴは膝の上のポメにニヤニヤしながら話し掛けて撫でるのを再開した。

 パメラは全力で拒否しようと前足をばたつかせて後ろ足で踏ん張ったが、圧倒的体格差と撫でテクニックの前にあえなく屈した。


「こらこら、暴れたら落ちてしまうよ。よーしよし。いいこいいこ」

「きゅ〜ん」

(悔しいけど、絶妙な撫で具合で気持ちいいですわ)




 ポメ馬鹿になってるヒューゴにホランは心を鬼にして進言した。

「全っっ然違います!! 外交問題だと言ってるんですよ!」

「外交問題?」

「あー!! もう、本当にモフモフが関わるとポンコツになるんですから! いいですか、パメラ嬢がポメガバースになったという事は、それだけ我が国での生活が過酷で精神的に追い詰められていたということになってしまうんですよ! 国交友好の架け橋として殿下の婚約者になった令嬢をポメ化するまで追い詰めたなんてリルカアーデ国にバレたら友好なんてあっという間に無くなって下手したら国交断絶ですよ!! 特にパメラ嬢の実家のアンデション公爵は一人娘であるパメラ嬢を目に入れても痛くないくらい大層可愛がっていて、この婚約にも最後まで渋っていたとか。ご兄妹のお兄様達も兄妹唯一の女の子のパメラ嬢を大切にしていたと聞いてます。だからポメガバースでポメ化したと聞いたらアンデション家の男性陣が激怒するの間違いなしです。代々武闘派の家系なので殿下が間違いなく死にます!!」

 ホランは必死にヒューゴに事の重大さを訴えたがモフモフを堪能してるヒューゴに響いてる様子はない。


「聞いてるんですか!」

「聞いてる聞いてる。はいはい」

「きゃうん」

(全然分かってないわ)


 パメラは遠い目をした。

 ヒューゴは一旦撫でていた手を止め、テーブルにあるケーキスタンドからクッキーを一枚取りパメラの口元へ近付けた。


「ポメガバースでポメ化しても人間の食べ物は食べれると聞いたよ。皿から直接食べるのは戸惑うだろう。はい、あーん」

「わふっ、むぐっ」

(あーんですって!?)


 まるで甘い恋人同士のようなやり取りに文句を言おうと口を開けた瞬間にクッキーを入れられるパメラ。


 もぐもぐ。……美味しい。


「上手に食べれたね。えらいえらい。次は果物がいいかな? 苺は好き?」

「きゃんきゃん!」

(苺は大好きですわ!)


 差し出された苺を齧る。


(ん〜! 甘酸っぱくて美味しい)

 パメラの尻尾がブンブンと揺れた。ポメ化して思考が犬寄りになっているらしく、この状況の解決より単純に欲望を優先してしまっていた。


「ひぃぃ! 尻尾がフリフリしてる!! きゃわわ! 僕の手からちっちゃなお口で苺を食べるポメ!! 僕のモフモフ(婚約者)が可愛すぎて辛い!! 毎日まとわりつかれて鬱陶しかった男爵令嬢(物体)から解放されたと思ったら天から神の御使いならぬモフモフふわふわの癒しが僕の前に現れた!! このふわふわの毛を撫でられるのは婚約者の僕のだけ!! なんて最高なんだ。至高の時間!! 神よ、感謝します」

 ポメ化したパメラにデレッデレのヒューゴ。


 はむはむと苺を食べるパメラにヒューゴは、もうこのままでいいんじゃね?と思い始めた。

 口煩い人間の婚約者(パメラ)よりふわふわのモフモフできゃわわな婚約者(ポメラ)の方がずっといい。永遠にお世話してあげれる。

 久しぶりに可愛い動物を心ゆくまでモフれて気持ちが高揚し、自分勝手なことを考えていた。

 考え事をしていてもパメラ(モフモフ)からは目を離さず、ポメが苺を食べ終わったら、すかさず二個目の苺を差し出していた。


 ポメ化したパメラは二つめの苺もはむはむと食べて満足していた。

 いつも冷たく相手にしてくれない王子が優しい。

 自分のことを何よりも優先してくれる。

 みんなが氷のような女だと悪口言ってこないし、可愛いと褒めてくれる。

 視線が温かくて空気がピリピリしてない。

 なんて過ごしやすいのでしょう。

 何より今撫でてる手が心地よい。

 パメラはサフィニアに来て初めて心を安めた。



 ポン!

 パメラがポメ化した時と同じで音と共に煙がポメラニアンの周りから出た。

 パメラは人間に戻った。


 全裸でヒューゴの膝の上で。


 ポメを撫でていた手がパメラの髪を撫でていた。


「……」

「……」


「きゃあああ!!」

 パメラは慌てて両膝を抱えて自分の身体を隠そうとするが、ヒューゴの膝に乗ってることに気付いて、降りたらいいのか身体を隠す方を優先するのか混乱して涙目でヒューゴを見上げた。


「み、みないで」

 真っ赤な顔で涙目の上目遣いでパメラはヒューゴに懇願した。



 トスッ


 その瞬間ヒューゴの心臓を恋の矢が射抜いた。

(かっ、かわいぃぃぃぃ!! )


 真っ赤な顔でプルプル震えてヒューゴを見るパメラは普段のキツい印象とは180度違い、庇護欲を掻き立てた。

 自分の身体を隠そうと必死に身を縮こませるが、色白できめ細やかな肌、肩から零れ落ちる闇色の髪が白い肌とのコントラストで色っぽく、腕の隙間から見えるたわわで張りのある胸にまで垂れているのが何とも艶めかしい。抱えた膝小僧まで可愛く(個人の見解です)更にその下の足で見えないが下腹部はピー(自主規制)

 これ以上見ると理性がぶっ飛んで全年齢作品が18禁になってしまう。



 ヒューゴは素早く自分の上着を脱ぐとそれでパメラを包み、彼女を横抱きにして立ち上がった。(今までの思考時間合わせて、この間0.5秒)


「急ぎ近くの空き部屋を確保! パメラの着替えを持ってこい! 彼女を誰の目にも触れさせるな!」

 ヒューゴは近くにいた侍従、侍女達に指示を出すと同時になるべく人目のない場所へと歩き出した。


「直ぐに空いてる部屋に連れていくから少しの辛抱だ」

 ヒューゴはパメラを抱えたまま侍従が急ぎ用意した空き部屋へ入った。


 直ぐに侍女達がパメラの着替えを持って入ってきて、ヒューゴは彼女が着替える間部屋の外に出た。



 しばらくしてパメラが着替え終わると、ヒューゴはパメラが着替えた部屋にお茶を用意させた。


「きっといろいろなことが起こって混乱してるだろうから、お茶を飲んで一息つこう」

 ヒューゴはパメラを長椅子に導き座らせると自分も彼女の隣に座った。


「今回は僕のせいで王宮内とはいえ外で君に恥をかかせてしまった。次回からは僕の部屋で一緒に過ごそう」

 さりげなくパメラの手を取りヒューゴは言った。


「何しれっと次もポメ化を確定させてるんですか! 我が国が未来の妃殿下を酷使する前提ですか! しかも殿下の部屋って、婚約者とはいえ未婚の令嬢と二人きりにはさせませんから!!」

 ヒューゴと一緒に部屋に入り、控えていた侍従ホランはヒューゴが暴走しないように注意した。



「人に戻った時に僕以外の男に愛しい婚約者の肌を見せるなんて許せない。だからポメ化(モフモフ)の時は二人きりでおかしくない場所にしたんだ」

「いやいやいや、キリッと独占欲前面に出して誤魔化そうとしてもダメですよ! 殿下の私室て、下心満載なのは分かってますからね!!」

 間髪入れずにホランが突っ込む。


「チッ」


 王子とは思えぬ態度にパメラは驚いた。



「次回はブラッシングとかさせてもらえるといいな。それと何か贈り物をしたい。服や宝石は直ぐに用意するのは難しいか。でもいずれ必ず用意しよう。リボンはどうだろう? 青と黄色のリボンがいい。光沢のあるやつ。僕のイニシャルを入れて。どうかな? 黒い毛並みにきっと映えるよ。僕が直接リボンを結んであげるからね。他人になんて絶対触らせない。首輪……は、人に戻った時に千切れるか。いや、むしろ人に戻った時に嵌める方がいいか。何も身につけないで僕が贈った首輪だけのパメラ……いい。特注品で注文しよう!」

「めちゃくちゃ欲望ダダ漏れですね!! 思いっきりご自分の色のリボン身に付けさせようとしてるし。首輪なんて結婚前から絶対ダメですからね!!」


 結婚後ならいいのか。パメラは王子と侍従の会話に震え上がった。



「殿下、このたびは私の心の弱さからみっともない姿を晒して申し訳ございませんでした。親睦を深めるためとはいえ、殿下にしつこく付き纏い、偉そうに意見など未熟者の私が言うことではありませんでした。さぞかし迷惑だったでしょう」

 パメラは深々を頭を下げてヒューゴに謝罪した。ついでに王子に握られた手をそっと外した。できれば、これを機にヒューゴから距離を置こうと思った。


 なんか、殿下こわい。ポメ化(モフモフ)の時の異常な可愛がり方といい、人に戻ってからの目付きが祖国で見た狩に出た兄達のような獲物を狙う目付きと同じようで身の危険を感じる。今まで自分からしつこく質問攻めして逃げられていたけど、もしかして私は近付いてはいけない人に危険な行為をしていたのでは!?


 今更自分のしでかした事に震えるパメラ。


 すすすーっとヒューゴにバレないように距離を取ろうと長椅子を移動するパメラ。離れた分だけヒューゴがグイグイ近付く。


 笑顔なのに目が笑ってない。こっ、怖い。

 パメラは若干涙目になり、恐怖のために心臓が激しく鼓動する。

 とうとう長椅子の端に追い詰められたパメラは恐慌状態になった。

 とりあえずお茶を飲んで落ち着こうと思うが、自分が長椅子の端に移動したせいでお茶のカップに手が届かない。

 カップを持つために出した手が空を切り、行き場をなくす。

 その手をヒューゴはそっと取って自分の方へやり、手の甲に口付けた。


「パメラ、今まであなたに素っ気ない態度を取って悪かった。こんなにもあなたが愛らしく魅力的なことに気づかなかった僕は愚か者だ。これからは婚約者としてきちんとした振る舞いをすることを誓うよ」

 パメラの手を握ったままヒューゴは告白した。

 パメラの心臓は恐怖で鼓動が早まり、冷静に物事を考えることができない。



 胸がドキドキして殿下の顔を見ることができない。一体、私はどうしてしまったのかしら?

 もしかして、これが恋なのかしら?




 断じて違うのだが、ツッコミ役が不在のためパメラに教えることができる者はいない。

 普通じゃないポメ化とヒューゴの見たことない本性を目の当たりにして恐慌状態で判断力が低下してるパメラには、吊り橋効果が発揮されていた。


「あ、あのっ、殿下。こちらこそよろしくお願いします」

 手を握られドキドキしながらパメラは返事した。以前の強気なパメラはそこになく、初めての恋(勘違い)に戸惑いながらも喜びを感じる一人の少女になっていた。


「殿下だなんて他人行儀な呼び方はやめてヒューゴと呼んでくれ」

「ヒューゴ様」

「なんだい? パメラ」

 二人の周りにほわほわハートが飛んでるようにホランは見えた。



 こうして未来の妃殿下ポメガバース事件はヒューゴと側近、パメラと彼女付きの侍女だけという少人数で密かに素早く解決した。


 その後、ヒューゴとパメラは今までの不仲説を払拭するように仲睦まじい様子を周りに見せた。

 特にヒューゴの方がこれまでの素っ気ない態度を一転してパメラに常につききっりで、正に溺愛という言葉がピッタリな感じになっていた。逆にパメラは自ら王子へ特攻していたのをやめた。ヒューゴの方から頻繁にやって来るというのもあるが、時々行き過ぎたヒューゴの行動にドン引きしてるのだ。


 そんな結婚前から新婚みたいな雰囲気で常に一緒の二人だが、稀に王子が一人でいることがある。

 その時はヒューゴの傍らに黒いポメラニアンがいて、デロデロにニヤけたヒューゴからお世話をされているのであった。












パメラは働き方改革で激務からは解放されたが、ヒューゴと両思いになってから、恋する乙女思考でヒューゴに関してのみ情緒不安定で偶にポメ化する(ヒューゴにとってはモフれるのでご褒美)


ヒューゴは黒ポメのパメラも人間のパメラもどっちも『きゃわわ!(語彙力の低下)』と思っているので、パメラの前では割とポンコツ。


三回目のポメ化でパメラはヒューゴにペロッといただかれちゃいます(R18)





皆様のポメガバースを待ってます。

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