第一章:新たな秩序 知りたくない真実
晦冥の言葉に疑問を多少持ちつつも、了承の意を示した呂飛と成海はその女性を連れて近くの左手に位置する階段から屋上へ向かう。
残された志乃を連れて晦冥はグラウンドを一望できるガラスの前まで歩を進める。
無慚にも食い尽くされた人の残骸があちらこちらにあり、志乃の顔色は蒼褪めていた。
「あ、あれっ」
と、志乃が何かを見つけたように遠くを指さす。その先に見えたのは、グラウンドに残る生存者であった。だが、後ろに2匹の怪物を連れて逃げ惑うという但し書きがついていた。
「あれは、駄目かもしれないな」
「そ、そんな。晦冥さん何とかならないんですか!? 私、助けてあげたいです……」
冷たく割り切ろうとした晦冥であったが、志乃の言葉を聞き、助けるべきか否かを一度考えることにした。
(ここで仮に見捨てる判断をした場合、志乃の俺に対する信頼が落ちる又は彼女の口から他言される危険性がある。逆に助ける選択肢を取れば、今後更にメンバーを使いやすくなる……かもしれない。それに生存者から情報を聞ける可能性もあるか。そもそも志乃にはあの怪物を鑑定させるために連れてきたのだから丁度いいな)
そこまで考えて晦冥は、出来るだけ恩を売るように、且つ無意識的に刷り込めるように配慮をしながら志乃へ語り掛ける。
「分かった。志乃がそこまで言うなら何とか助けてみよう」
「あ、ありがとうございます!!!」
「なら良く聞いて欲しい。まず君には鑑定のスキルが備わっているはずだ。その発動方法は分かるかい?」
「スキル……。何となくですけど分かるような気がします」
良かった、と晦冥は内心でほっとしつつも彼女の持つスキル【鑑定眼Ⅰ】の発動を促す。
「ひとまず、俺に対してそれを発動してみてもらえるか?」
「はいっ、鑑定!!!」
Status: Lv. 1 黒神 晦冥(human)
HP:140
MP:108
STR :18
INT :29
VIT :8
MEN:28
DEX:25
****スキル
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スキル
『剣術Ⅲ』
志乃はその結果を晦冥にすぐさま見せる。
(なるほど……。固有スキルが見えないのはまだⅠであるからか?後はレベル差によって項目の見え方が違うのかも知りたいが、今はまだ判断材料が足りないな)
「あ、あの見えない部分があるみたいで、すいません。」
彼女は申し訳なさそうにしているが、逆にここで自身の情報を伏せられたことは大きなアドバンテージと言えるかもしれないと考えた晦冥は優しい表情で言葉を返す。
「大丈夫。これだけ見えるのなら十分だ。頼りにしてるよ」
その後、外へ目を向けると外で緑の怪物から逃げ回っている生存者と目が合う。
そして何を考えたか、こちらに向けて一直線に走ってくるではないか。志乃はその光景を見て少し腰が引けているようだったが、晦冥はにやりと笑っていた。
「志乃、ここからあの怪物に鑑定はかけられる?」
「は、はいっ、やってみます。鑑定!!!」
Status: Lv. 2 ゴブリン
HP:80
MP:20
STR :15
INT :2
VIT :12
MEN:4
DEX:4
スキル『』
Status: Lv. 2 ゴブリン
HP:82
MP:18
STR :15
INT :1
VIT :13
MEN:4
DEX:3
スキル『』
Status: Lv. 1 佐藤 愛華(human)
HP:74
MP:48
STR :8
INT :12
VIT :7
MEN:11
DEX:10
スキル
『挑発』
鑑定により緑の怪物の名前、能力値、そして今もなおこちらに向けて走ってきている生存者のステータスが明らかとなった。
(あれはやはりゴブリンで合っていたのか。ほんとに現代社会に似合わないルックスをしているな……。それに信じたくなかったことだが、奴らには”個体差”があり、人を追いかけまわして愉悦に浸っているところを見るに、知能が備わっている……)
ゲームとは違い、画一的な存在ではなく、更に知能があるという非情な事実は晦冥に大きな衝撃を与えた。
「志乃、ありがとう。あの子がこっちに来るまでにあと20秒もなさそうだ。そこの入り口を開けておいて彼女が入ってきたら閉めてそこで見ているんだ」
そして返事を聞くこともなくそのまま晦冥は外へ出ていってしまう。
「おーい、こっちだ、そこの迷惑屋さん」
「はっ、はっ、そこの人、助けてぇぇぇぇぇぇぇええ!!!」
息も絶え絶えになりながらこちらに向かってくる彼女を迎え入れ、先ほど厨房から持ち出した出刃包丁を片手に前へ出る。
「グギャギャ」
とこちらを馬鹿にしたような声をあげる2体のゴブリンと相対する。
「思っていたより小さいな。どっちから先に死にたいんだ?この汚物どもが(笑)」
言葉は分からなくとも晦冥に煽られていることに気が付いたのか、ゴブリンの片割れが単調な動きで突っ込んでいく。
(さて、ステータスが発現してから初めての戦闘。数値を見る限り、明らかに格下であるが相手は2体。油断せずにいきたいが……)
こちらは出刃包丁を構えるが、それを見てなお突撃をやめないゴブリン。
そのままの勢いで掴みかかろうとしてくるのに対して、晦冥は、
(なんだ、この遅さは。この動作はフェイントか?もう1体は依然として後ろで見ているし、こいつは何の得物も持っていない、それに隠す衣服等も勿論着ていない)
数ある負け筋を頭の中で即座に計算しつつ、右足を下げることで半身になり、最小限の動きで掴もうとしてくるゴブリンを躱す。
そして、無防備にもさらけ出された首筋へと刃を突き立て、そのまま一閃。
声をあげるまでもなく、ゴブリンは地に倒れ伏す。
「グギャギャギャ」
と、残されたゴブリンは怒り狂うこともなくただそれを見て笑っている。
(こいつらに仲間意識はないらしいな。こいつらの戦闘力もただただ低いことが分かったし、耐久力テストでもしておこう)
「お前には少し付き合ってもらうぞ?グラウンドの奴らを喰らったようだし、遠慮は要らないよな」
そう言い残し、地面を強く蹴り上げ、瞬時にゴブリンへ肉薄。そのまま首ではなく、両目を切りつけるように包丁を振るう。
「グギャァァ」
「仲間を呼ばれても面倒だ。まずは……」
視界を奪われ、暴れ狂うゴブリンをよそに、ゆっくりと近づき、人間にあたる喉の部分を掻き切る。
「へぇ……。声帯は人と同じ場所にあるのかい?それに生命力もG並みにあるじゃないか」
まだ続けるか思案するも、ちらりと後ろを振り返れば付かれたのか横たわる愛華とそれに付き添いながらこちらを見ている志乃が目に入る。
「君は幸運だよ。たったこれだけの苦しみで解放されるのだからね」
と小さな声でゴブリンへ語り掛けた後、その首へ刃を突き立て絶命させる。
すると、急に体の芯が熱くなるような感覚に襲われる。それと同時に、先ほどまでは見えなかった膨大な何かが天に向けて放出されている光景が遥か遠くに目視出来た。
(なんだ、あれは……。それに何でいきなり感知できるようになったんだ?加えて先の感覚は……)
「晦冥さん!!!」
謎の現象の考察を始めようとした矢先、戦闘が終わったことを確認した志乃が後ろから飛びついてくる。
「あんなに強かったんですね!!! 凄過ぎですよ、晦冥さん!!!」
「ありがとう。取りあえず、ここに居るのは危険だ。俺たちも屋上へ移動しよう」
褒められて嫌な気はしなかったが、そういうことに慣れていない晦冥は照れ隠しなのか、単に面倒であったのか、彼女らに移動を促す。
横目にグラウンドをみやると、先の戦闘で気が付いたであろうゴブリンが数匹こちらに向かってきている様子が確認出来る。
ただ1人それに気が付いた晦冥は彼女らのリスクを考慮して、中に入り、気を失い横になる愛華を背負いながら近くの階段へと向かう。
「ゴブリンを殺した俺を見て、怖いと思う?」
屋上へ向かう途中、今後の活動に支障をきたしていないかと志乃の好感度を測ろうと会話を振る晦冥。
「い、いや、確かに戦闘は怖いかもしれませんが、晦冥さんを怖がるなんてことは絶対にありません!!!」
と食い気味に答えを返してくる志乃を見て、晦冥は杞憂であったか……と内心、胸を撫でおろした。
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