第一章:新たな秩序 今すべきこと
晦冥の合図により、各々のグループは行動を開始する。
校舎は5階建て+屋上の造りとなっており、彼ら2年A組の教室は4階、右端に位置しているため、幸いにも階段は近い。晦冥・剛チームは駆け足で下へ下へとくだっていく。
「晦冥、1階付近はまだ無事だと思うか?」
「先は10分ほどの猶予と言ったが、確証はもてない。何せこんな状況だからね。ただどうであれ、これは必要な工程だ。何があっても臨機応変にいこう」
先頭を走る2人は言葉を交わしながら、覚悟を確かなものとしていく。
道中に見えた、3階の1年クラス、2階の職員室では微かに言い争いが聞こえるものの、未だ大きな事態は起こっていないようであった。
1階に近づくにつれて、各々の表情に緊張が走る。
「皆、もう着くぞ。この後剛たちはこのすぐ傍にある売店からありったけの食料を自身の鞄に詰め込んでくれ。俺のグループは奥の食堂まで一気に駆け抜けるぞ」
そして遂に1階へと続く階段降りる。下は混乱状態にあるだろうと予測していた晦冥たちは想定外に広がるその景色に唖然とした。
「誰もいない……」
直後、彼らはその状況に陥った理由を理解した。いや、させられた。
1階ではグラウンドの景色が見えるように、ガラス張りになっているのだが、そこに見るに堪えない血痕や、もはや原型をとどめていない嘗ては人であっただろう物体が顔をのぞかせていたからだ。
(確かに、こんな状況で悠長に1階に居座れる方がおかしいか。思えば、今はまだ4限の授業時間内で生徒がいないのも当然だ。だがここにいる従業員たちは何処へ……?)
【明晰な頭脳】により、瞬時に考えを纏めた後、晦冥は立ち止まるクラスメイト達へ即座に声を掛ける。
「足を止めるな。今すべきことを優先しろ!!!」
その声を聞き、硬直していたクラスメイトは目的を遂行するために行動を再開する。
「志乃、呂飛、成海、俺たちも行くぞ」
「はいっ」
「あーい」
「了解」
と、返事をしながら前を走る晦冥へと続いていく。
特にこれといったこともなく、無事に食道にたどり着き、無遠慮に中に入り込む。
「俺たちが持っていくのは武器になりそうな刃物類だ。片っ端から鞄に詰めてくれ」
と、指示を出し厨房に入った瞬間、気配を感じ即座にその場から後ろに跳び退る。
「ッッ、怪物か!?」
安全な位置まで全員を下がらせ、改めて内部の様子を眺めるとそこに居たのは丸く蹲った人であった。
微かな嗚咽音を響かせながら、顔をこちらに向けてくるその女性。
「だ、だすげでぐださいぃ、殺さないでぇぇ」
前が見えないほどの涙で顔を濡らしながら懇願している様をみて、警戒していたのが馬鹿らしく感じてきた晦冥は優し気な声色で
「安心してください、貴方の味方、人間ですよ。死にたくないのなら僕らと一緒に来てください。3人は気にせず、作業を始めてくれ。」
と端的に伝え、彼女の手を取り立たせる。腰が抜けて上手く立てないようだが、わざとそれに気付かないようにして晦冥も次々に鞄へ刃物類を詰めていく。
涙ぐむ女性は勝手に厨房からものを取り出していることへ何か言及したそうにしていたが、自身の状況を理解したのか、そこまでの勇気がないのか、最後まで口を挟むことはしなかった。
「よしっ、これで大体詰め終わったな。何事もなくて良かった。呂飛と成海は俺と志乃の鞄も
持ってこの女性と先に屋上へ向かってくれ。」
え、私は戻らないんですか……? と言いたげに志乃は不安そうな顔を晦冥に向けるが、その目を見て、きっと何か理由があるのだろうと自身を納得させた。