case1 〜思い出の場所へ〜
こちらの作品は鬱展開になっております。
苦手な方は閲覧注意願います。
ぷつっ
小さな音を立てて、パソコンの電源が切れる。
地球が崩壊する。
そんなニュースを聴いたのは今朝のこと。
で、明日崩壊してしまうらしい。
らしいって言うのは…俺自身、まだ実感がわかないのだ。
頭が追いついてこないと言うか…いまいちピンとこないのである。
ネット上では、今夜の時点で様々な情報が入り乱れていた。
専門家達の論議。
憶測と混乱を極めた掲示板サイト等々・・・
人々のうろたえっぷりがよくわかる。
どの道明日は何もやることがないから、のんびり昼寝でもして過ごそうかと思っていたら…
♪♪♪♪
耳慣れた着信音。
・・・俺は思わず固まった。相手は確認せずとも判る。
でも、見ないと着信ランプがいつまでも点灯して目障りだ。
Eメール着信。相手は姉さんだ。
件名:なし
本文:
付き合え
たった4文字だが、俺を動かすには充分すぎる。
「・・・送信」
明日の昼寝の時間はお預けになりそうだ。
***
翌日。
姉さんご指定の場所に行くと。
「遅い」
姉さんは相変わらずのご様子だ。
姉さんと言っても、血が繋がっているわけではない。
姉御肌で、俺が彼女を姉のように慕っているだけだ。
どの女性もそうなのかもしれないけど、姉さんの買い物は疲れる。
先を歩く姉さんの姿は颯爽としている。
俺は体力には自信はある方なんだけど、いつもへとへとに疲れてしまう。
細身の身体のどこにそんなバイタリティがあるのかといつも思う。
とりあえず昼食を取って、また買い物開始。
姉さんは、一軒のアクセサリーショップに目を付けた。
ビルのワンフロアの位の広さだろうか。
個人経営のシルバーアクセサリーの店だった。
レディースのアクセサリーがメインだが、中にはメンズの物も数点というラインナップだった。
「これ、見せて下さい」
カウンターにいた女性に、姉さんは声をかけていた。
「はぁい。少々お待ち下さい」
店員はそう言い、ショーウィンドウの鍵を開ける。
店員が取り出したのは、天使の羽根と悪魔の羽根のペンダントだった。
羽根の付け根の所に、天使のには透明な石が、悪魔のには黒の、ブリリアントカットの石が据えられている。
表示を見ると、どうやら新作らしい。
姉さんと店員はしばらく話をしていた。
置いてけぼりをくらった俺は、何もすることがなく、携帯を開いたのだった・・・
***
しばらくして。
「これ下さい」
姉さんのよく通る声が耳に入った。
え!?
声には出さなかったが、思わず姉さんを見る。
姉さんはストラップに加工してもらうように、店員にお願いしていた。
お会計。そして、店を出て。
「こっちを持ってな」
と言って、俺に天使の羽根のストラップを渡した。
・・・普通、逆じゃね?
これを見る限り、悪魔の方が男性じゃね?
そう言おうと思ったけど、もう姉さんは携帯に装着済みだった。
腑に落ちない部分はあるけど、とりあえずお礼を言って素直に受け取ったのだった。
気がつくともう夕方だった。
ストラップの透明な石に、夕日が反射していた。
あと数時間で、全部なくなっちゃうのか。
俺は今更になって、ようやく実感したのだった。
実感した後に来た感情は・・・
純粋な恐怖だった。
そんな俺の気配を察知したのか、姉さんは声をかけてきた。
姉さんは、人の微妙な変化に敏感だ。
「久しぶりにここに来たし、あそこに行かない?」
「あそこって・・・?」
「公園。よく行ったでしょ」
確かに怖いけど。
そんなことを考えていても仕方がない。
今を思い切り楽しもう。
「いいですよ。行きましょう」
気がついたら俺は姉さんの前を歩いていた。
姉さんはぽかんとしていた。
こわばった顔を見られたくなかった。
***
公園は小高い丘の上にあって、町全体を見渡せる展望台があった。
姉さんと顔を合わせていた時に、よく来た公園だ。
最後の晩餐は、コンビニのサンドイッチか。
ついうっかり口にしてしまい、「可愛くねえヤツ」と姉さんに頭を叩かれた。
食事を取りながら、いろいろなことを話した。
苦手なことを克服できたこと。
友達がたくさん出来たこと。
その友達は面白い人たちばかりで、付き合っていて楽しいこと。
珍しく俺の方が饒舌になっていた。
姉さんは相槌を打ちながら。時折質問をはさみながら俺の話を聞いてくれる。
苦手なことを克服できた時の事を話した時には「すごいじゃん!頑張ったね」って褒められた。
嬉しいけど・・・少々照れくさい。
自分から進んでお酒は飲む方ではないが、思わず買ってきた缶ビールをあおった。
姉さんはくすっと笑うと、自分もカクテル缶を開けたのだった。
空はすでに真っ暗。
そして空を覆うほど大きくなった月。
時折だった地震が、頻発している。
今がとても楽しくてしょうがないのに
非情にも 終わりの刻は 確実に近づいていた・・・。
finale1に続く。