第14話「出会った日」
それまで、にこやかだったお婆さんの表情は一気に強ばった。
「そこに何をしに行くんだい?」
そう言ったお婆さんの声色も少し怖かった。
「何を……というか、人を探しているんです。その洋館にいるはずなんです。」
「人探しならその洋館にはいないと思うがね。」
「どうしてですか?」
「あの洋館は魔女の家だよ。誰を探しているのかはわからないけど、あの家に近づく物好きはいないと思うけどねぇ。」
「……魔女の家?」
お婆さんは、また少し柔らかい表情に戻った。
「らんさんも、ゆうりさんもこの街を可愛い、好きと言ってくれた。そういう世代の子達には、もうこの街の魔女の話は知らなくていいことだと思っているんだけどねぇ。」
「あ、あの!どんな話でも構いません。この街も、お婆さんも嫌になったりはしません。教えていただけませんか?」
「そうだねぇ……」
お婆さんは話したくないようだった。
ゆうりもさらにお婆さんへお願いする。
「お婆さん!お願い!聞かせて。」
「この街の人、これから会う人にこの話は絶対にしないと約束できるかい?」
「もちろんです!」
「絶対話さないよ!」
らんと、ゆうりがそう言うと、お婆さんは話し始めた。
ーーーある日、1人の女性がマインシティへやってきた。
その女性はとても美人で、街を歩けばすぐに声をかけられた。
しつこく声をかけられた為、賑やかな街を出て静かな公園までやってきた女性は、
ベンチに座り、本を読む男性を見つけた。
その男性は、本を読みながら難しそうな顔をしたり、閃いたような顔をしたり、
コロコロ表情が変わっていた。悪い人には見えなかった。
そして女性は、その男性に話しかけた。
「何を読まれているんですか?」
男性は顔を上げ、女性を見た。
「仕事関係の本をね、少し。あ、ベンチ座りますか?僕どきましょうか?」
「あっ!いえ!そういうことじゃないんです。ごめんなさい。」
男性は、そう言う女性を見て、
「何か、困っているんですか?」
女性は無言で頷く。
「僕に何かできることはありますか?」
すると女性は泣き出した。
「えっ、あれ、僕何か悪いこと言いました?」
女性は首を横に振る。
「何かあったんですか?話してください。」
女性は自分に起きていることを話した。
男性は女性の話していることを頷きながら最後まで黙って聞いていた。
ーー女性は異世界へ転移してきてしまったようだった。
「話してくれてありがとう。本当にそんなことがあるんですね。」
「信じてくれるんですか?」
「信じますよ。もし仮にそれが作り話だとしても、あなたが今困っていることは間違いないでしょう?」
「……はい。」
「もしあなたさえ良ければ、うちに来てください。部屋も余っていますし、どうしたらいいか一緒に考えましょう!」
そう言うと、男性は女性に優しく微笑んだ。
女性はまた泣いた。
「いや、あの、僕が泣かせちゃってるみたいに見えるんで泣かないでください。」
「ごめんなさい。ありがとう……」
女性はそれから暫く、その男性の家で暮らした。
男性はとても良い人だった。
女性に手を出すこともなく、紳士な距離感で優しく接した。
しかし、そんなある日。
男性の元に、一通の手紙が届いた。
リオサイド城の王様からだった。
身元不明の女性を連れて、城に来い。と、いう内容の物だった。
「どういうことだ……」
男性は、王様からの手紙の内容の本意がわからず、悩んでいると、男性の執事が口を開いた。
「ご主人様が、異国の女性と暮らし始めたと、街の人間の中では噂になっているようです。王様の耳にも入っているのかもしれません。あの王様のことですから、お気をつけ下さい。」
「そうだな。しかし無視することはできない。明日、彼女を連れて城へ行ってくるよ。留守を頼む。」
「承知致しました。……必ず、お2人揃って帰ってくることを祈っております。」
「おいおい、戦争に行くんじゃないんだ。大丈夫。彼女と帰ってくるよ。」
男性は立ち上がり、
「彼女に明日のことを伝えてくる。」
そう執事に伝え、部屋を出た。
彼女の部屋の前まで来て、ドアをノックする。
コンコンコン
「はい。どうぞ。」
「今、少しだけ時間いいかな?」
女性は頷く。
男性は王様から来た手紙のことを女性に伝えた。
「それは……大丈夫なのでしょうか。私、まさか不法入国で捕まったりしませんか?」
「それはないと思う。そういうことではないと思うんだ。隠していても伝わってしまいそうだから言ってしまうけど、あまり良い気がしないのは確かだ。けど、何があっても僕は君を連れて、またここへ帰るつもりだ。信じてくれるかい?」
「もちろんです。あなたは私を信じてくれた、だから私もあなたを信じてる。」
「ありがとう。帰ってきたら美味しいものを食べよう!」
「はい!」
女性は男性に優しく微笑んだ。
「ところで、君はいつもその本を読んでいるね。他にも面白い本はたくさんあるのに。」
「いいんです。私はこの本が大好きなんです。」
「それ、そんなに面白いかなぁ?」
「ふふふ。この本をくれてありがとう。宝物です。」
女性は、本を大切そうに両手で抱えた。
その本は、2人が出会った日に、男性が読んでいたものだった。
「では、読書の邪魔になるから僕は退散するよ。」
「ふふふ。またあとで。」
男性は部屋を出ようとする。
ドアノブに手をかけたまま、口を開いた。
「あの……僕と……」
「ん?なんですか?」
「僕と……」
男性は女性に背を向け、ドアのほうを向いたまま言葉に詰まっている。
女性はそんな男性を見て、優しい顔で微笑んでいる。
「いや!なんでもない!またあとで!」
そして男性は部屋を出て、ドアを閉めた。
部屋に1人になった女性は、
「いくじなし〜。」
と、言って笑った。
第14話「出会った日」でした。
読んでいただき、ありがとうございます。
この男女の物語は、もう少し続きます。