3.魔王の上に君臨していたモノ
どうも。本日はちょっと長めです。よろしくお願いします。
「……で、次が最後の議題なのですが……その前に眠っている奴を起こす必要がありますね」
むにゃむにゃ。すぴーすぴー。
「傲慢、頼みます」
むにゃむにゃ。
「我にこの様な事をさせるとは、世界に対する反逆であるぞ。……ふん!」
ビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!!
「ん?んあ~あ。何だ?傲慢。俺を起こすなんて」
俺が気持ちよく快眠していると、傲慢の使う雷魔法によって強引に目を覚まさせられた。
無視して眠ろうと思えば眠れたが……そんな睡眠は気持ち良くない。残念な話だが、起きた方が良いのだろう。
「この我の雷魔法を受けてこの程度の反応とは……まったく、憎々しい奴よ。常人であれば意識はおろか命をも軽く奪い去るものであると言うのに」
そんなモノを俺に撃つなよ。……まぁ、俺もその程度で死ぬほどヤワじゃないんだけどな。
「ありがとうございます、傲慢。そして怠惰、これから大切な話をするのでよーく聞いておいてくださいね」
ほ~い。
「……ネーム、怠惰の代わりにもしっかり聞いておいてください」
「承りました、憤怒の魔王様」
ぼーっとしながらも一応ちゃんと聞いてるんだかな。まぁ、ネームが聞いていてくれるって言うのならそれで良いけど。
「それじゃあ改めて最後の議題ですけど……勇者が現れました」
「あらぁ、勇者が現れたのねぇ。怖いわぁ」
「勇者……人気者……妬ましい……」
「勇者よりメシだ!!」
「勇者と言えば珍しい装備。それを俺っちの物に……!!」
「ふん、勇者如き我にはどうということも無い」
みんな三者三様の反応を示す。まぁ、俺は……なんだ。勇者なんて正直めんどくさい。
というか他の魔王の反応を見て何となく分かったかもしれないが、俺たち魔王にとって勇者はそんなに珍しいモノじゃない。
俺たちはもう永い間生きて来ている。勇者と戦ったことだって数え切れないし、そしてその度に勝ってきた。
「でもわざわざ我らに勇者が出てくる報告して来るなんてどうした?今までなら各々対処で済んでいただろうが」
傲慢の言う通りだ。今までは勇者が出てきても、各々で対処してきた筈だ。この魔王会議なんて眠いだけなんだからこれくらいで呼ばないで欲しいな。
「……勇者は異世界から召喚されました」
!?
「異世界ですってぇ?」
「そうです」
異世界。それは俺たちすら知らぬ未知の領域。存在こそ認知しているものの、まだ行ったことも見たことも無い。
勿論、今まで勇者が異世界から召喚されたことなんて無かった。勇者は全て人間どもの中から強いやつが選ばれていた筈だ。
「それは人間なのか?」
強欲が問う。確かに、異世界なのだから人間である保証は無い。というか人間じゃない可能性の方が高いだろう。
……強欲はそいつが珍しい奴ならコレクションにする気だ。趣味が悪いこった。
「私が見た感じは人間に見えました」
「なんだ、そうか」
あ、興味を失いやがった。でもまぁ、同じ人間なんだとしたら、憤怒がこんなに気にしている理由がよく分かんないな。
「……私は異世界から召喚されたという話を聞いたときに、真っ先に勇者を確認しに行きました。弱いうちに暗殺するのも作戦の内ですからね」
傲慢辺りは気に入らない話かもしれないが、弱いうちに敵となるモノを刈り取るのは悪くないことだ。強くなってから戦うのは面倒だからな。俺は良い判断だと思う。
「……暗殺は失敗しました」
「な!?」
なに!?
憤怒は傲慢と並んで魔王の中でもトップクラスの戦闘力持っているはずだ。その憤怒が召喚されたばかりの勇者の暗殺に失敗しただと!?
「もしかして、その勇者は美味しそうだったのか?」
暴食は黙っておいてくれ、話が捻じれる。
「召喚された時点で既に強いなんて妬ましいわ……羨ましい……」
嫉妬の言う通り、異世界の人間は憤怒でも暗殺できないほど強いのか?それなら流石の俺も少し焦りを感じるんだが。
「いえ、違います。召喚された異世界の勇者は一般人よりは強そうでしたが、私たち魔王はおろか、鍛えただけの人間よりも弱そうでした」
「なら何故だ?我も認めるお前がそのような弱小な人間相手に負ける筈がないだろうが」
憤怒は普段は物腰柔らかなショタだが、本気の時の戦闘力はえげつない。何回か本気で殺りあったが、正直言ってもう二度と闘いたくない。傲慢も憤怒のそんなところは認めているようだ。全然素直じゃないが。
要は傲慢の奴はツンデレなのさ。言ったら傲慢が憤怒になってしまうから言わないけどな。
……とまぁ、傲慢がツンデレなのは隅に置いておいて……まぁ、偶にいじるとして、憤怒が勇者の暗殺に失敗した理由を聞かせてもらおうか。
「……奴。いえ、敢えてこう言いましょう。光輝神ラ・フルール。ラ・フルールの気配が勇者にこびり付いていました」
な!?
「何だと!?冗談なら憤怒とはいえタダじゃ置かないぞ!!」
傲慢が叫ぶ。そして暴食も文句を言う
「その通りだよ。アレの話はやめてくんろ。オラのメシが不味くなる」
暴食が飯を食うのを止めるレベル。それがどれほどのことかみんなには伝わるだろうか。
いつもならその様子を茶化す俺ですら、言葉が出ない。冗談なら許せないが、逆に冗談であって欲しいと願っている自分も居る。
「いえ、冗談ではありません。私が保証します。確実にアレはラ・フルールの気配でした」
「「……」」
沈黙が空間を支配する。光輝神ラ・フルール。これは俺たち魔王なら誰もが因縁のある相手だ。
過去に全員で協力してこの世界から追放した筈だったのだが……。
「……ありえないことではな・い・わ。……アレは妬ましいと感じることすら難しい存在だもの……」
意外にも始めに立ち直ったのは嫉妬だった。嫉妬の言うことは間違って居ない。
仮に俺が一人で挑んだとしたら、片手間にでもやられてしまうだろう。
それ程実力が離れているのは間違いない。
「たしか、ラ・フルールはこの世界をおもちゃにして遊ぼうとようとしてたよな。まったく、俺っちの世界で遊ぼうなんて本当にヤな奴だぜ」
強欲はチャラチャラと軽い感じで言っているが、その顔は嫌悪感と悪夢を思い出したかの如き汗で歪んでいる。
……ラ・フルールは強欲の言う通り、ラ・フルールはこの世界を好き勝手に弄び、蹂躙したのだ。
しかも何とも狡猾な事に、ラ・フルールが極悪の邪神である事は俺たち魔王と一部の民しか知らない。世界一般では、未だに信仰されているのだ。
ラ・フルールの強さ?それはもう、何となく想像出来るかもしれないが、強い。
過去、遊び尽くして油断したラ・フルールを俺たちは不意打ちで強襲した。それでいてボロボロになっての辛勝な上に、命までは奪えず仕方なくこの世界から追放する事となったのだ。
敢えて追放したのではなく、仕方なく追放したのだ。
その時のことを思い出してしまい、俺の睡魔も吹き飛んでしまった。
「話を戻しますが、勇者に攻撃を仕掛けましたが、弾かれました。アレを突破して勇者を始末するには、私たちの領域に引き摺り込む必要があるでしょう」
勇者にラ・フルールが手を加えているという事は、何かしら仕組まれているのは間違いないだろう。
それを放置しておくには余りにもリスクが高い。しかし、怒り狂っていないとはいえ攻撃力は魔王の中でもトップクラスの憤怒でも破壊できぬのであれば、憤怒の言う通り、俺たちの領域に引き摺り込む必要があるだろう。つまり……。
「勇者を魔王城で迎え撃つ……という事か」
傲慢の言う通り、各々の魔王城で迎え撃つ必要があるだろう。
それは何故かって?魔王城は言ってみれば自分のフィールドだ。特に俺たちのような魔王クラスまで来ると、自分たちに強化を、敵対者に弱体化を施すことができる。
それがあれば勇者を仕留めることは出来るだろう。領域とはそれほどまでに強力なのだ。
……逆に言えば、残念ながらラ・フルールが手の加えた勇者を、俺たちは待つことしか出来ないのだ。まるで物語の魔王のようにな。これは傑作だ。
……あれ、そう言えば色欲だけあのクソ神の話が出てから一言も発してないな。
もう書き溜めが切れかけている恐怖。キャーー!!!