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えきれいたん
こは今や鬼籍に入りし知己、故・光村君に聞きし話なり。彼おほづつならねど、かかる話に限りては真偽のほど定かならず。
刻にして丑二つ時、辺り蕭蕭として暗きなか、四人の男ども語りあへり。その内の一人、齢にして六十の医者いわく、都にて奇怪な病あるなり。医者の続けていうに、この病に悩みめる者、ゆくりなくも肢に異常をばきたし忽ち畸形に変はるなり。のべ三十人のみこの病のなやむる所とななり。恐ろしなんどもおろかなれど、こを聞きし三人のいうには、かかること有りうべからず。されば明朝、村出でて都へと赴かん。豈祟りあらんや、と勇みて医者の制止するも徒なり。軈て夜更かば、三人気負いて村をたち、都へと渡りぬ。