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いちばんいいところでお昼にしよう

「せんぱーいっ! あ、ちゃんといますね」

 お昼休みになった瞬間、教室のドアが終末的な音を立てて開かれた。後輩がやってきた。

「いるに決まってるよ。いっしょに登校してきたろう」

「先輩のことですから、屋上にでも行っているのかと思いました」

「たしかにそれは何度も考えたけど……」

「先輩を屋上まで迎えにいくのも好きなので、つぎは屋上に行ってみてくださいね」

「変わってるね」

「教室に迎えにいくのも好きですよ!」

「ありがとう」

 後輩のいうことは、僕もなんとなくわかる。

 相手がちゃんと待っていてくれるから迎えにいける。待っていてくれるのは、ほんとうにうれしい気持ちになる。

 たぶんそれは、相手が自分のために時間をつかってくれようとしているからだ。時間は限りがあって、とても大切なもの。

 でも僕はふだん、時間を有限だと思っていない。むしろいくらでもあって、あり余っていると思っている節すらある。実感がないからだ。

 時間を使いきると、人間は消えてなくなってしまう。何十年後も先の話だから、想像できない。


 僕は後輩に連れられて中庭にやってきた。コハウチワカエデの木陰にある木製のベンチに並んで坐った。

 コハウチワカエデには〈コハウチワカエデ〉と書かれた白いプレートがかかっている。

「そういえばむかし、名札をつけていたなあ」

「手の薄皮に留めたりもしましたね」

「安全ピンは安全だからね」

 後輩はいい感じのバンダナに包まれていたお弁当箱を膝のうえに乗せ、結び目をほどく。

「どうぞ、先輩。今日の朝、作ってきたんです」

「見てたよ。うれしそうにしてた」

 僕は後輩からお弁当箱を受けとり、膝のうえに乗せた。大英博物館に展示できるくらい完璧なお弁当箱だ。

 後輩ももうひとつの完璧なお弁当箱を抱えている。蓋を開けると、僕たちは映画のようなお昼を食べるだろう。

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少女に、芸術と人生について語る小説、『さよならを云って』も連載しています。
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