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瓶詰めについて先生が知っていること

「おまえら、瓶詰めについてちゃんとわかっているか? 瓶詰めはただの想像だ。妄想だ。なにも生まない。ひとの役に立たない。ひとの役に立たないことをするのは、生まれてきて申しわけないと思わないか? 先生は思う。だからおまえたちにはこんなひとの役に立たないようなことをしてほしくない。おまえたちは先生の話をよく聞いて、自分のやりたいことを見つけるんだ。そうしたらすくなくとも、こんな、瓶詰めなんかに頼らなくて済むようになる。先生は立派な大人なんかじゃないが、瓶詰めなんか触ったこともない」

 僕は僕たちのことを「おまえら」と呼ぶ先生のことを好きにはなれない。教壇の脇に立ち、数十名にもなるガキンチョをまえにしていると「おまえら」と呼びたくなるのだろうか?

 想像してみる。

 ねえ、きみたち、昨日はどういう夢をみたんだい? 僕は振られてしまった彼女のこととか、学生時代に好かれていただろうあの子のこととか、そうだな、後悔のことばっかりだな。だから度数の高くて安い酒を飲んで、死ぬように眠るんだ。飲んでいるあいだはとてもふわふわして気持ちいいんだけど、眠る寸前はもう地獄なんだぜ。そして悪夢まで見せてきやがる。幸せのあとには苦痛がある。僕はこの世でいちばんの苦痛は死だと思うんだけど、だったら生はぜんぶ幸せなのかなあ?

 これもぜんぜんよくないな。

 やっぱり『銀河鉄道の夜』の冒頭の先生みたいに、やさしい口調で天の川について話すのが、いちばんいいような気がする。

〈私どもも天の川の水のなかに棲んでいるわけです。〉

 後輩は星が好きだろうか。もしそうなら、いっしょに眺められたらいい。

 僕たちは瓶詰めの世界のなかに住んでいるけど、天の川のなかにも住んでいるんだって。

 そういうことを教えてくれるのは、やっぱり先生なんかじゃなくて、小説や詩だ。だから僕はそういうことを教えられるひとになりたい。

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少女に、芸術と人生について語る小説、『さよならを云って』も連載しています。
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