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無人駅に明りを灯す

 後輩に明りの瓶詰めを握らせる。

「なんですか、これ?」

「明りだよ。もう日が暮れてくるから」

「せんぱーい、それくらい自分でやってくださいよう」

 僕は首を横に振って、段ボール箱いっぱいに詰まった明りの瓶詰めを指差す。

「たくさん集めてしまったから」

 後輩は肩を竦めてから、いくつか瓶を手に取り、好きなところに好きなように明りの瓶詰めを置いた。それから栓抜きで王冠を弾いた。その瓶は勿忘草色に灯った。

「へえ、きれいな色ですね」

 そうやって僕と後輩は無人駅のいたるところにカラフルに灯る瓶を置いていった。それから駅長室のテーブルでは一番いい瓶を灯した。

「これでおしまいですねっ」

 後輩はどうやら月台の端まで置きにいっていたようで、スキップで駅長室まで戻ってきた。

「それで、これからはなにをするんですか?」

「後輩にはとても重要な役割がある。まずそこに坐ってほしい」

「ここですか?」

 後輩は僕が指示したお誕生日席に素直に坐った。

「そう、そこに坐って、これから訪れることを待つんだ」

 僕はある瓶詰めを三本取りだす。外をちらりと見る。両手いっぱいに食べ物を下げている新庄が、駅長室前まで来ている。

 扉を開けて迎え入れてあげる。

「やあやあ、おや? えっとそちらの……」

「後輩ですっ」

「はあはあなるほど、後輩ちゃんですか。こいつの?」

「はい、先輩の後輩ですっ」

 新庄はうんうん呻ってから、両手の袋を床に置いた。ボーリング場みたいに世界が揺れた。

「なるほど、そのお祝いということか。なら、用意してくれるんだろう?」

「もちろんだよ」

 僕は隠しておいたビール瓶を後輩と新庄に一本ずつ手渡す。

「わっ、ビールですか! いいですね!」

「後輩がビール好きでよかった」

「好きに決まっていますよっ」

 僕はまず後輩の持つビールの王冠から開ける。大丈夫、吹きこぼれない。

「飲んでいいですかっ、いいですねっ?」

「待ってくれよ、僕もすぐに開けるから。乾杯くらいしよう」

「むー」

 後輩は落ち着かない様子で、ビールを右手に持ったり左手に持ったりした。

 僕はすぐに自分のと新庄のとを開けた。

「ではっ、乾杯です!」

 僕が言おうと思っていたのに、後輩は僕たちのビール瓶が開くやいなや、がちんっとぶつけて乾杯した。そして白鳥のようにビールを飲んだ。たいした飲みっぷりだ。

 それから僕たちは酔っぱらいながらさまざまなビールに合う料理を作った。

 そして、瓶詰めの明りが消えるころ、僕たちは眠りについた。

ほかにも『さよなら云って』という小説も連載しています。

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少女に、芸術と人生について語る小説、『さよならを云って』も連載しています。
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