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空き瓶

 空き瓶を回収ボックスじゃなくて、ずっと集めて、それでなにかをつくろうとしたひとがいた。

 僕の友人の湯舟だ。

 彼はそもそも芸術の才能があったから、たとえば彫刻家とか画家とかの瓶詰めは買わなかった。かわりに買ったのは大量の食料と健康だった。

 湯舟は食料の瓶詰めを空にし、感性と直感をたよりに積み重ねていった。

 僕と新庄はその作品の成功を疑っていなかった。湯舟はすばらしい芸術家だった。たぶんピカソよりもすごかったと思う。だからこんな世界に来てしまったのだ。

 湯舟は瓶詰めの世界のまんなかにその作品を置きたかった。彼は瓶詰めそのものを表現しようと思っていて、それがあるにふさわしい場所はまんなかだったのだろう。

 僕と新庄は毎日のように彼の様子を見にいった。作品は完成に近づいていったと思う。途中まではほんとうに完璧だったのだ。湯舟も手応えがありそうな顔をしていた。

 でも、けっきょくその作品は大惨事となった。飛行機が墜落するよりも、よっぽど多くの命をうばった。

「これがその作品ですか」

「湯舟は作品と呼ばないでくれといっていた。ゴミと。ただゴミと」

 この作品のせいで、瓶詰め世界の人口は三分の一になってしまった。そして湯舟もこの世界を去ってしまった。僕は友人をひとり失った。

「だからこの世界のひとたちは、空き瓶でなにかをしようと思わないんですか?」

「むかしからいわれていたことなんだ。空き瓶は〈なにか〉ではない。容れ物でも〈空っぽ〉でもない」

「物体としてみえているのに〈無〉なんですか?」

「そうらしい。だから不思議なんだ。湯舟はそこに惹かれたのかもしれない。それが〈無〉だとわかっていても」

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少女に、芸術と人生について語る小説、『さよならを云って』も連載しています。
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