3 買い物編~トラブル発生~
買い物に付き合ってくれたお礼に何かを買おうと意気込んで店に行ったが、何を買えばいいのか全くわからない。京花の喜んでくれるもの……。ペン、小物、ヘアアクセ、飾り、食べ物、その他諸々。候補をあげていくときりがない。
陳列棚と数分にらめっこしている俺に、見かねたのか店員さんが話しかけてきた。
「何かお探しですか?」
「えっと、お礼の品を探してまして、何がいいかと悩んでいるところです」
「それでしたら、こちらはいかがでしょうか」
案内されたのは、犬のぬいぐるみのコーナーだった。様々な種類があって悩んでしまう。
「最近このシリーズが人気なんですが、本日発売のこちらはいかがでしょうか」
なるほど。確かに京花は犬が好きだった。丁度いい。小さな秋田犬のぬいぐるみをレジに持っていった。感触が柔らかくていつまでもさわっていたくなるようなぬいぐるみで、自分も少し欲しくなってくる。
お礼の品を探す時間が意外とかかってしまったので急いで京花のところへ行く。外まで走れないのがもどかしい。
ようやく建物の中から出て、京花の姿が見えたので走っていく。
「ごめんごめん、遅れた」
「大丈夫。ところでその袋は?」
「えっと、はいこれ」
さっき買ってきた犬のぬいぐるみを渡す。喜んでくれたらいいが、何か心臓がばくばくしている。京花の反応があるまで俺は、まともに顔が見れなかった。こういうのは何回やっても慣れない。
「っありがとう、私これ欲しかったんだよね。人気のシリーズで、なかなか手に入らなくて私がいったときにはもう売り切れてたりして、本当に嬉しい。どうやって手にいれたの?その予定は公式のツ○ッターでも書かれていなかったのに。買った店ってどこに「分かった分かったから、落ち着け!」
子供の目のようにキラキラした目で、話しかける間もないマシンガントーク。何とかして子ども京花を引き剥がす。こんな状態になるなんて、これはそんなに有名な物だったんだ。こんなに喜んでもらえてよかった。
「その、今日はありがとう。京花がいて本当によかった」
「どういたしまして。さ、帰りましょう」
今日は充実した一日だった。まあ、性別が変わる大事件があったが何とかやっていける気がした。
雲ひとつない水色の空はいつの間にかオレンジに染まっていた。
これからどうするか話しながらバス停に向かっていると、誰かが話しかけてきた。
「そこのお姉さん方」
振り替えると二人組の男が、満面の笑みでこちらを見ていた。まさか、カツアゲか……。肩はぶつけてないし、何も落としてない。突然のことにパニックになって、頭が真っ白になる。
「このあと暇? ちょっと俺たちとお茶しない?」
「すみません、おrんんっ。私たち予定あるので」
これはナンパだった。まさか自分の身に起こるなんて想像もつかなかった。
不安になってちらと京花を見やると、眉間にぎゅと皺を寄せ、いかにも面倒臭そうな顔をしていた。あの反応、慣れてるのか。京花はモテるのか。あんな写真を使って脅すようなやつなのに。
野郎達にきっぱり断ってからバス停に歩きだすと、進行方向に立ちふさがってきた。ナンパは一度断っても諦めないのか。面倒臭い。
「ねぇ。ちょっとだけ」
「少し話すだけだから、ね?」
「せめて連絡先だけでも」
断っても断っても切りがない。もう無視して歩き続けよう。そう考えた千夏は京花の手首を掴んで早足で男達を振り切ろうとした。しかし、上手くはいかなかった。男Aが千夏の手首を掴んできたのだ。
「いたっ。離してください」
「連絡先くれたら離すよ。君たちに一目惚れしたから、また会いたいんだ」
男Aの掴む力が強くて振りほどくことが出来ない。京花に助けを呼んでもらおうとしたが、あっちも男Bに絡まれて出来そうにない。いっそのこと急所を蹴ってやろうと考え出したそのとき、ナンパ野郎がいてぇ! と叫んだ声と同時に俺を掴んでいた手を離した。
ナンパ野郎から俺たちを隠すように立ったその人は、毎日のように会っている俺の親友だった。いつもふざけてて、頼りないやつだが、このときばかりは格好よく見えたと思ったことは墓場まで持っていく。
「なんだよてめぇ、邪魔しやがって、関係ないだろ。どっか行けよ!」
「がっつり関係あるんだよね。てか、お前こそ誰だよ。こいつら嫌がってんじゃん」
ナンパ野郎達と口論を続けているのを見るのははらはらした。いつ光樹が殴られてもおかしくない、そんなピリピリとした雰囲気だった。その口論に決着がついたのは光樹のある行動だった。
「野郎はお呼びじゃねえんだよ、すっこんでろ!」
「そんな余裕こいてていいのか?」
「ああ?」
へらへらと笑いながら、光樹はおもむろに上着の内ポケットに手を突っ込む。
「これ、お前らなら何か分かるよなぁ?」
純度百パーセントの悪意を込めて、光樹は告げる。
光樹はスマホをナンパ男たちに見せた。何がスマホにあるのかは分からないが、サーッと青く染まる男たちの顔は見ていて楽しかった。くそっとだけ言い残し、ナンパ男たちはどこかへ行ってしまった。
……それにしても、俺の知り合いはみんなスマホを使って脅すのが得意なのか。
そんなことを考えつつ、男たちから守るために京花を掴んでいた手を離した。いつの間にか強く握っていたようで痕がついてしまった。全力で謝ったが、許してもらえなさそうだ。ところで、何か忘れているような。
「猪爪たち、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう。それにしても佐倉にあんな勇気があったなんてね」
「俺だってやるときはやるさ」
冗談を交えながら話している光樹達を横目に、千夏は冷や汗をだらだらと流していた。そう、俺の体の件である。親友だから正体を明かすべきか、それとも親戚だといって騙し通すか。この場からいっそ逃げ出してしまおう。そう決意した時、俺の話題になった。なってしまった。
「そういえば、その子は友達?」
「いいえ、佐倉がよーく知っている千夏よ」
「は? じ、冗談だろ」
信じられないようで何度も京花に確認する光樹。その隣でいきなりのカミングアウトに頭がついていっていない千夏。光樹が疑っているうちに俺が千夏でないと誤魔化さねばと思ったが、京花に睨まれ出来なかった。
光樹は京花が嘘を言っていると思い込み、本人に確認を取りに来た。緊張で上手く口が動かない。ようやく絞りだし、告げる。
「俺は、暁千夏だ」
「は? えっと、俺の耳がおかしいのか、もう一回言ってくれるか?」
「千夏だ。信じられないなら証明してやろうか?」
「あぁ、頼む」
「小学五年生の夏。机の上に置かれた黒いノートの中身は好きな女の子へのポエムがビッシリと書かれていて-」
「嘘!? ちょ千夏一回黙れ!」
俺の口を手で塞ぎ、笑いをこらえる京花から一旦離れさせられる。どうしたんだろう、余程聞かれたくなかったんだなー(棒)
本人確認が済んだところで、光樹は頭に思い付く限りの疑問を千夏にぶつけた。
「ノートの内容はとりあえず置いといて、それはどうなってる、女装に目覚めたのか、遊んでいられるのか、親には話したのか」
「落ち着けって。これはもらったチョコ食ったらこうなっただけ。俺に女装趣味はない。これは遊んで…いない。親は出掛けてて話せなかった」
ぶつけられた疑問を全て返したが、まだ信じられないようで頬をつねっている。当たり前だ、俺だって親友が女になって帰ってきたら腰抜かす。
一通り話終え、光樹は買い物の途中だったらしく、店へ戻っていった。友達が絡まれているのを見て急いで出てくるなんて友達思いの親友だと感心しつつ、京花のもとへ戻る。
「どうだったの?」
「誰かさんと違って反応が一般人で面白かったよ」
「面白味がなくてごめんなさいね」
「京花とは言ってないんだけどなー」
「私と佐倉以外に知っている人は居ませんからね」
「あれ、そうだっけか」
今日の思いでなどをゆっくり喋りながら帰った。ずっと話していたくて、帰る時間が倍になり家の前に着いたのは、空の夕焼けが消えかかり、薄紫の空が広がりつつある夜だった。
人がいるであろう、その明かりに千夏はドアの前で立ち尽くしていた。千夏にはまだやるべきことが残されている。それは両親へこの以上事態を打ち明けることだ。千夏にはまだ、心の準備が出来ていなかったのである。日が暮れるまでに話すことが出来るだろうか。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。次回も読んでいただけると作者が喜びます。




