2 買い物編
よろしくお願いします。
買い物に京花と行くことになった。その前に俺の服を何とかするようだが親の服は入らないし、どうするのだろう。
その問いを京花に投げかけると、「私に考えがあるの」と言い、ぱんと手を叩く。
「じゃあまずは私の家にいきます」
「何で?」
「妹の服を借りてくるんです。その格好で外に出せませんから」
「お前の家まで五分はあるけどこの格好で行くのか?」
「そうです、行きますよ」
つまりはこのぶかぶかな服を着たまま外に出歩かないと行けないわけか。服を人に借りるなんて初めて……ん?妹の服を借りるだと。男なのにそんなことをしたら警察に捕まる。今までありがとう、父さん母さん。
そんな馬鹿らしい心配をしている千夏に京花は一発頭に入れた。
「いってえ! 何すんだよ」
「今は女の子だから捕まりません。人に見られるからさっさと行くよ、ほら」
人目を避けて五分ちょっと、京花の家に着いた。何年かぶりに家にいったなと思いつつ上がる。妹の優希さんは部活があるらしく、家には居ないので服を盗むらしい。警察呼ばなきゃ。
妹のタンスに躊躇なく手を突っ込む京花を、千夏は姉妹ってこんなんなのか、と遠い目で見ていた。
「……手に持っているのは何です、京花サン」
棚を泥棒のように(実際そう)引き出しをあさっていた京花の手にはひらひらした、男が穿いたら確実に大騒ぎになるような物が握られていた。……まさか俺に穿けとは言わないよな。俺はまだ男でありたい。そんな俺の期待を裏切るかのように京花は告げる。
「何ってスカート。嫌だった?」
「当たり前だろ! ひらひらしたやつなんて着れるか、ズボンとかないのか」
スカートだけは何があっても絶対に穿かない。何であんなもの着れるんだ女子たちは。……ちょっと、楽そうだけど。
「仕方ないわね、はい」
「おお、ありがとう」
手渡してきたのは無地のシャツとズボン。端から見たら地味と思うかもしれないが、俺は好きだ。早速着替えようとしたが、京花がいるのを思い出して見えない場所がないか探していると、どうしたのと、話しかけられた。
「着替える場所を探してるだけ、見られたくないからな」
「別にここで着替えればいいじゃない」
「はぁ!?」
何言ってくれてんだ京花は。今は同性だけど、俺の心は男だ。見られるわけにはいかない、何としてでもここは死守しなければいけない。
居座ろうとする京花を押し出し、さっさと着替える。ズボンは特に違和感もなく、いつも通りでよかった。髪の毛が少し長くて邪魔だと思いつつ、シャツを着て、ドアを開ける。
「美人って何でも似合うわね……」
「え、もう一回言ってくれるか、聞こえなかった」
「いえ、何でもないわ」
耳が遠くなったのか、京花の声が小さいのか、最近聞こえずらい。大事なことを聞き逃しそうで恐ろしい。今度耳鼻科行こうかと真剣に考えている今日この頃。
京花は何か思い付いたのかちょっと待っててと言い残し、どこかへ行ってしまった。急に暇になったのでそこにあった鏡で改めて自分の姿を確認してみる。やっぱり女になってるな、と現実を再確認しているときにドアを勢いよく開けて京花が帰ってきた。心臓に悪い。
「千夏、そこに座ってて」
「わ、分かった」
椅子に真っ直ぐ向いて座っているよう指示され、従っていると、髪をいじられて文句をつけようとしたら、動くなと怒られた。目が本気のやつで殺される、と走馬灯が頭のなかに流れた。
一分も経たないうちに結び終わったらしい。首に髪がかからず鬱陶しくなくなってスッキリした。ポニーテールにされたみたいだ。ただ少し気になることがある。
「何で横の髪を残すんだよ、くすぐったい」
「そっちの方が可愛いからよ、さあ、本題の方に行きましょう」
可愛いってなんだ、俺は男だぞと言いたいのだが、男ではなくなっている上、可愛くないと言えば嘘になる。
「待って」
「どうかしたの?」
「俺の帽子を持って来たいんだけど、いいかな?」
顔も身長も違うとはいえ、見られたくはない。許可をされたので家から黒キャップを被っていざ出発。顔が少しでも隠れるから安心感が倍増だ。
最初は歩いていこうとした京花だったが一分も経たないうちにバスにしましょうと意見を変えたのだった。それには俺も賛成。休みの日に滅多に外にでない俺にとって歩かないのはありがたすぎる。ただ、視線が気になる、この体だから余計に意識してしまう。
その後特に何事もなく目的地の地元で名の知れた複合商業施設『マーム』にたどり着いた二人。早速服を買いに三階の″竹嶋″に行ったようだ。
「服を買うって、スボンと長袖だけでいいんじゃね」
「年がら年中そんな格好している人は千夏ぐらいです。私が探しますからついてきてください。じゃないとスカートしか選びませんよ」
それはまずいと感じた千夏はついていくことにした。京花の選ぶものは、ひらひらしていたり、柄物だったりいかにも女子みたいな物だった。シンプルなんだけどやっぱり抵抗感があるな。スカートも長ければいいって訳でもないし。
あれこれ悩みながら服選びを続け、ようやく十着程決まったので試着室に向かった。
「はいこれ、着たら見せてよね」
「分かった」
サイズを調べるだけと言っていたんだが、見せる必要はあるのか。悩んで他の人に迷惑をかけるといけないのでさっと着替えてカーテンを開けるとスマホを片手に待ち構える京花がいた。あいつやりやがった。
「似合ってるよ」
「ありがとう? てか何写真とってんだよ。あとで消しとけよ!」
消す消すと京花は言っていたが絶対に消さないだろう。やられた。
色々試し、全て丁度いいサイズで着れたので、試着室から出ようとしたが最後に何か着て欲しいみたいなので少し待つことにした。
カーテンから現れた服を握る手から受け取り、着ようとした瞬間、それがスカートだということに気がついた。
「京花! これスカートだろ、俺は着ないぞこれは」
「あら、いいの? 拒否し続けるならあの写真誰かに送っちゃうわよ」
写真をだしに脅されて嫌々着ることにした。男なのにスカートを穿く日が来るとは。いつもと感覚が違うから違和感が半端ない。
カーテンを開け、数秒で閉めた。写真撮られていた、しかもあれは連写だった。急いで元の服装に戻り試着室から出るとニヤニヤしながら待っている京花がいた。
「全部似合ってたわよ。特にスカート」
「他の人に見せんなよ、ノー拡散!」
手のひらで転がされている感が凄い。結局あの写真は消してもらえず、脅しの材料としてスマホに残されていった。あのチョコさえ無ければこんなことには……。
無事買い物も終わり、折角なので寄り道をして帰ることにした。靴や、小物、生活雑貨などもろもろ買った。どれにしようか一緒に選ぶのは楽しかった。女になったのが気にならないほどに。
「あー楽しかったわ。千夏で遊ぶの」
「俺で遊ぶのは止めてくれ、もうぼろぼろだよ」
体力的にも精神的にも疲れた。休日は家に引きこもってばっかだったから。こうして外で遊ぶのも久々だ。
「じゃああれで最後にしましょ」
「どれどれ、おぉ、うまそう」
京花が指差した先には出店のクレープ屋だった。初めて食べるクレープだから少しわくわくしている。新しい食べ物に挑戦するのって何か胸が弾まないか。俺だけかもしれないが。
思いの外種類がたくさんあったので、この店で一番人気のイチゴのクレープを食べることにした。京花は悩んで悩んで日が暮れるんじゃないかというほど悩んでチョコバナナにしたようだ。
そこら辺のベンチに腰掛け、人生初めてのクレープをいざ食す。
「クリーム甘さとの苺の酸味も合っていて、こんな美味しいものを高校生まで食べなかった過去の俺に教えたい」
「何その唐突な食レポ。美味しいのは分かるけど」
俺の脳に衝撃が走ったよ。今度一人で食べに来ようかな。美味しさのあまり、ペロリと平らげてしまった。隣にいる京花も同じようで、クレープが入っていた包み紙を悲しそうに見つめていた。
「紙のごみは捨ててくるよ、貸して」
「え、私が捨ててくるよ。」
「いいからいいから、ここで待ってて」
京花から包み紙を取り、ごみを捨ててくる振りをして今日遊んでくれたお礼を探しにお店へもう一回戻ったのだった。
どんなやつが好みなんだろうか。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次回も読んでいただけると作者が喜びのあまり発狂します。




