58話 同じ道、重なる風②
(やべぇな時術!ミーティングで時術対策を講じてなかったら秒殺されてたぜ!いや時間止まってるなら秒ですらねぇか?)
時術は一人で対応してはいけない、多数で対応。時術対策は単純明快、多数で攻めることである。イクスシェイドがグランガイザスと交戦したデータによると、時術の対象となる範囲は限られている。世界の時間を止めるのではなく対戦相手の時間を止める、これが基本戦法なのだろう。消費する魔力量がダンチだ。いや、そもそも世界の時間を止めることはできないのかもしれない。世界が止まるということは世界が状態を変えないということである。つまるところ空気を吸おうとしても空気はそこから動かず、体から二酸化炭素を吐きだそうとしても動かないから詰まってしまうかもしれない。そして時術は一度発動したらその時術の効果が終わるまで次の時術を撃てない。一人が止まっている間にもう一人が殴りに行く、これがベターなのだ。
だからグランガイザスがたくさん攻めてきたときは本当に危なかった。時術を使えるグランガイザスは所謂本体とおぼしき個体単体のみであったが、問題はない。要は時術を使うグランガイザスが戦うときはタイマンという環境を作ればいいのだ。タイマンするには簡単、敵の数を抑えればいいのだから。戦争は数だよ兄貴と歴史に名を残す名将ドズルズル・ザビもそう言っている。
「おいギャミ、一人で突出するな。作戦があるから聞け」
「はぁ?俺らが息の合った連携できるわけないだろ!」
「同感。だからこの作戦よ」
「どんな作戦だよ?」
「好きに演れ」
「ハッ!上等!」
トッシュの言葉に長子が上がったギャミが自慢の新技を繰り出す。
「飛燕!サンダー斬り!」
ギャミの紫電のごとき斬撃!しかしパーフェクトガイザスはギャミの思考を盗聴している。どんな狙いでどんな技を繰り出すか、見切る…聞切る?ことは可能。パーフェクトガイザスはさっと避けるのだが、その回避運動をさらに見切るトッシュが技を合わせる。
「時雨茶臼!」
トッシュの振るう暗黒新陰流の剣が、パーフェクトガイザスを斬り裂く。トッシュの闘気がすっからかんなのはパーフェクトガイザスももう知っている。心中を盗聴はできないが、もうトッシュは脅威ではない、
そう思っていたのに、手傷を負わされ癪に障る。
(こいつ!あのギャなんとかを囮にしてやがる!なんてずるい奴だ!勇者の息子のくせに!)
パーフェクトガイザスはギャミの思考を盗聴できるのだが、このギャミは動きが速い。動き自体ではなく、思考から行動に移る時間が、である。超人の片鱗を見せるギャミの技の前に、いかにわかっていても考える余裕が少なく、単純な回避になってしまう。そこを狙うトッシュの賢い作戦だ。
(いいぞー、俺の中の闘気は空っぽだけど、仲間との友情パワーが勝利へと導いてくれるな)
闘気を使う技が撃てないことと、パーフェクトガイザスに直接触れるなとイクスシェイドから脳内に送られたアドバイスにより、トッシュは足元の剣を拾った。その剣は今は亡きピクシーの着こんでいたスクラムハルバードの隠し武器の一つ。ハイパーチタニウム合金のそこまで重くないのにみっちりとした密度が、実に手に馴染む。
「くそう!時間触!」
トッシュの追撃前にパーフェクトガイザスはトッシュの時を止める。が、その直後ギャミが斬りかかる。こんな感じで時を止めようが止めまいが、二人の息の合ったコンビネーションがパーフェクトガイザスを精神的に追い詰める。ギャミの勢いとトッシュの見切り、この組み合わせが、単体では取るに足らない雑魚である二人なのに、1+1が10倍の200にまで上がっている。
「おっと、止まってたか」
「まったく、刃を合わせた俺たちが力を合わせるなんてな!」
「別に俺は裏切ったわけじゃないけどね」
「ちっ!お前は嫌なやつだよ!」
「そんなことないぞ。頭は悪いけど性格はいいってよく言われるし」
「ほんといい性格してるよお前は!」
「うがあああああ!!!こんな雑魚どもにいいいいい!」
わちゃわちゃと余裕を見せながらいちゃつくトッシュとギャミの二人にパーフェクトガイザスは怒り心頭である。思うようにいかないというのはとても不愉快なものだ。
(イラついてらっしゃるな、冷静さを取り戻す前に決着をつけないと)