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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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58話 同じ道、重なる風①

 冷静になれパーフェクトガイザス。状況はなんら不利ではない。謎の力で元の時代に吐き出されたが、いざこの戦場に置いて当方の圧倒的有利は揺るがない。敵のボス魔王イクスはランゲルハンス島の聖石の力で低血糖に陥れ、敵に回った勇者ジャスティスはブロックワードで行動を阻害。対してこちらには勇者量産計画サードロットのジャスティス…なんだっけ、コピーだかアバターだかエイリアスだかなんかそんな感じの完成品が万全の状態で3人全部残っているし、敵の空術さえ封じれば時間に悪影響を及ぼす恐れがあるため過去では使用制限していた時術も使える。冷静に全戦力を持って敵を滅ぼし、もう一度聖女サンを介して力を集め時を渡ればよい。そして念には念を入れるとしよう。非常に徹しきれない連中には効果覿面のこの言葉。


「戦う前に、一つ言っておこう。この3人の少女たち…彼女たちが何者なのか教えておこう」

「フン。誰であろうと関係ない。貴様に与する悪者は魔王イクス様のために亡ぼすのみ」


 イクスシェイドは意に介さずと迎撃の構えを見せるが、それを制するようにパーフェクトガイザスが言葉を続ける。


「ところが違うのだよ、彼女たちは余に従っているのではない」

「何?」


 ここでトッシュ以外の全員が察する。自らの意思を感じられないまるで人形のように闘う彼女ら3人の案内人アストレイたち。単純な話、操られているということだろう。


「そう、この子たちは田舎の小さな会社でありながら質のいい奴隷を出荷すると評判のゴート商会から仕入れた奴隷少女なのだよ。本当にあの商会はいい奴隷を出荷してくれる。どんなことがあったのだおろうな、すっかり心が壊された少女は簡単に器にすることができたわ。どうだ?この哀れな被害者たちを、滅ぼすのならそれはそれで構わないが、勿論彼女たちの強さは知っておろう」


 ゴート商会。その正体はトッシュが以前アルと一緒に潰したゴート山賊団である。むしろ山賊団はそう呼ばれているだけで、実際の登記上ゴート商会の方が正しい名称である。その商会が出荷した奴隷少女たちの首筋にはタトゥーが入れられている。アカネの首にもあったそのサソリのタトゥーは、商会が品質を保証しているという証だ。


「むむむ…」


 イクスシェイドは戸惑う。イクスシェイド個人としては知ったことではないのだが、主人である魔王イクスは魔族と人の共存を掲げている。人を排斥するのではない、愚かな人の指導者のみを取り除き、魔族と人が差別なく暮らせる理想の国。まだ魔族の人間への差別意識は取り除けていないが、完全なる共存を目指す魔王イクスの、その幼稚な理想。それを支えると誓った以上、無垢なる市民に過ぎない彼女らを滅ぼすことはできない。少なくとも、救う努力に全力を注ぐ必要がある。


「そうだ、貴様らは魔王イクスの幼稚な正義感に従わなければならない。もちろん従わずにこの子たちを滅ぼして貴様らの主人は咎めるかどうかわからんが、少なくとも悲しむだろうな」


 救うならば、やはりパーフェクトガイザスを滅ぼすことだろう。しかし案内人3人は全員がジャスティスの力をコピーされている手練れだ。


「…イクスシェイド。ジャスティス。サガ。あんたらであの子達を抑えこんでくれ。あの子達がどえれー強えってのはわかる。だから強いアンタらにしか頼めない」

「トッシュ…貴方がパーフェクトガイザスと戦うつもりなの?」


 ジャスティスはトッシュが戦うことに賛成できない。日本語を使えるトッシュならパーフェクトガイザスが持つ読心術『ガイザスセンチネル』を無効にできるが、奴には他にも大量の能力がある。魔王イクスが倒れたのも、その力の一つによるもの。息子が…いや、『この』ジャスティスにとって本当の息子ではないとしても、『この』心に滾る、息子を思う気持ちは本物だ。だから彼女は、トッシュを守ろうとトッシュを止める。


「いや、あの案内人っての?あの子達の方がやりづらい。それにボスやフォーゲルがそのうち来るでしょ」

「おい!さっさとしろ!来るぞ!」


 うだうだやってるトッシュたちにギャミが檄を飛ばす。力を練ったパーフェクトガイザスに合わせて、3人の案内人たちも動きだす。


「ギャミもいるから大丈夫!頼んだぞイクスシェイド!サガ!ギャミはついてこい!」

「指図してんじゃねぇ!」


 トッシュとギャミがパーフェクトガイザスへ向かって奔る。その動きを阻害せんと案内人たちが妨害を働きかけるが、それをジャスティス、イクスシェイド、サガが止めた。動きだすタイミングがトッシュより後なのにこの動きの速さよ。


「フン!ザコどもめ!貴様らが一番弱っちいぞ!クワァ!」


 パーフェクトガイザスが開いた口内から迸るビーム光線!その狙いはトッシュからややずれている。その軌道をトッシュはすぐに理解した。


「サン!」


 意識を失い倒れているサン目掛けて迸るビーム光線を遮るためにトッシュがその身を盾にする。このままではトッシュは1400度の熱戦で灼きつくされてしまう!無論、このビーム光線、そのまま放置したらサンを灼き尽くしてしまうのではないか、と思われるかもしれないが、そこはパーフェクトガイザス。対策はバッチリである。このレーザー光線、実は射撃技ではない。5Mほどのビーム光線の剣を作り出す技である。サンまでの距離は15Mはある。そう、ブラフなのだ。さすがはパーフェクトガイザス。そんなずるい作戦を知らないトッシュはこのまま活性炭になってしまうのか。


(馬鹿め!いちご大福より甘い奴よ!)


 まずは一匹、と撃破を確信したパーフェクトガイザスだったが、トッシュも負けてはいない。こういった場合に備えた技を、彼は持っている。


「光線無刀取りィィイイイイ!」


 トッシュの両手に挟まれたレーザー光線が、勢いを殺されその掌の内に留まる!これぞ暗黒新陰流の極伝のその派生!


「ナニィ…!はっ!?」


 トッシュの大道芸にびっくりしたパーフェクトガイザスを狙うギャミの真空の刃!伝説の剣豪サンダー・クロスマンが生み出した今は亡きサンダー流刀殺法のその奥義!カマイタチを纏った刃を振り下ろす絶対切断剣・カマイタチ(ブレイク)


「チッ!止まれ!時間触!」


 大上段に構えた剣、もう数舜の後には振り下ろされるであるその剣が数秒制止する。制止しているのは剣だけではない。剣を持つギャミ自身の時を止めているのだ。しかし時が止まっている状態は無敵、いかなダメージも負うことはない。時間が止まっているのだから、ダメージという変化すらも拒絶する。


 …止まって理宇のならば、地球の自転公転からも取り残されて一気にどっかに行ってしまいそうだが、慣性は働いるのだろうか?ジャンプ中に止まったら空中で静止するが、重力は働いていないのか?時術は不思議な術だ。その仕組みは単純、地球を基準にしているためだ。地球からどの位置にいるのか、という地点で止まるので、自転公転に取り残されず、空中に制止もできるわけだ。


 このまま時間が動きだした瞬間を狙って置きビームでもしたいところだが、残念ならがトッシュがその手に挟んだ光線をぶん投げてきそうなので、パーフェクトガイザスはすぐに移動する。パーフェクトガイザスの今までいた地点に向かって飛んできた光線剣が、その地点を通過しあっちの方で霧散した。


 そしてギャミの剣が空を切る。ギャミは身をもって体験した時術の恐ろしさに戦慄を覚えた。

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