57話 嘔吐、戻るモノ①
2秒ほど前。ダブルガイザスに組み付いたトッシュはその気配を察知した。緊急時のために念のため張っている気配探知の網。その網にひっかかったのはまるで嵐。900ミリバールを切るほどの突風が、頭上から迫る。そのまま組み付いていたらトッシュもズタズタに引き裂かれていただろう。ギリギリのタイミングで離脱したトッシュは嵐のような乱剣に引き裂かれたダブルガイザスの姿を見る。
普通の相手ならばそれで決着だっただろう。しかし相手は不死身の異名を持つ魔王。魔王を斬り裂いた3人はうまい具合に技が入ったとドヤっている表情だが、その油断は命取り。すぐさま再生したダブルガイザスに亡ぼされるだろう。
当然その状況はジャスティスも気付いている。すぐにこの正体不明の3人組を守護るために聖拳を起動するジャスティス、彼女の目にトッシュの手が見えた。ダブルガイザスの背後にいるトッシュが、ジャステイスに待てとジェスチャーで伝えている。まだ会って一週間ばかりの、まだ仲間とは言えない関係のはずなのに、妙にどこか懐かしい。その懐かしさは会ったばかりのころから感じていた。
ジャスティスは聖拳を構え、止まる。トッシュはダブルガイザスの標的が謎の三人組に向かっている好機を逃さない。好機、ダブルガイザスは自身究極の必殺技アトミックガイザスバスターで3人組を塵まで滅ぼそうとしている。その必殺技の発動条件が、実に好機なのだ。
その技はダブルガイザスの腹部を開口し、肋骨で展開したガイザスライバレルでエネルギーを集め、放つ。実にシンプルな、圧倒的破壊の小宇宙!その熱量はジャスティスの聖拳にも匹敵し、さらに霊脈から吸い上げた霊気により連射も可能!ジャスティスと言えども食らったら滅ぶころ必至!トッシュはダブルガイザスに吸わせた自らの闘気によりアトミックガイザスバスターを察知したのだ。
察知したのはそれだけでならば好機にはならない。トッシュは自らの闘気をダブルガイザスの体内を巡らせたことでその構造も理解している。腹部に存在する、謎の物体。もう一人のグランガイザスを思しき何かを。おそらくその存在、仮にコアと呼ぶが、そのコアを使うことでアトミックファイナルバスターを可能にしているのだろう。なぜなら弱点になるコアを守護る鉄の腹筋を開くのだから。そのコアの存在を把握しているからこそ、好機!
そしてトッシュは勝負に出る!自らの闘気を全て、霊脈に流し込む!霊脈を操作することは、ダブルガイザスの下ろした根により支配されているためままならないが、ただ自分の闘気を混ぜるだけなら問題ない。川の流れを変えることはできなくとも、そこにおしっこを流すことは容易だから。人前だと容易ではないかもしれないが。
そして放出した闘気はダブルガイザスに吸い上げられる。アトミックガイザスバスターの準備のために大量のエネルギーを必要としているためだ。つまり、ダブルガイザスの内部に、トッシュの全闘気が流れ来んでいる。チャンスは一瞬!あの時鉄甲館で見た八卦・天の技『相手の闘気を自らのものにする』と、トッシュが編み出した八卦・烈の技『自らの闘気を流した場の霊気を支配する』の合わせ技!つまり『相手の体内の闘気を支配する』!要は自らのものにしているわけではない時点で天の劣化ではあるが、現状それで十分!十全!万全!
ズオァ!と轟音と共に、アトミックガイザスバスターが発射される瞬間!トッシュの闘気がダブルガイザスの体内で悪さをすることで、アトミックガイザスバスターが不発!…不発。不発なら、さきほどのズオァ!という迫真の音は何なのか。それが何なのか、ダブルガイザスとトッシュ以外の誰もがわからなかった。
ダブルガイザスの腹部から勢いよく吐き出された肉の塊。そう、ガイザスコア(仮称)である。
「ジャスティス!」
トッシュが叫ぶ。ジャスティスはすかさず聖拳で、その吐き出されたガイザスコアを聖拳で滅ぼすべく動きだす。だが、反応はダブルガイザスの方が速かった。いきなりエネルギーが逆流し、トッシュがコアと呼称するそれ。この時代のグランガイザスの本体との接続を切断し、嘔吐させた現象の原因はわからなかったが、それを失うことはダブルガイザスのパワーの半減を意味する。ジャスティスが動くより刹那、ダブルガイザスはそれを取り戻すべく走り出した。まるで烈風のようなその勢いに、嵐の三兄弟の末弟・烈風のシュウザーは、同時にまるで疾風のような速さに嵐の三兄弟の次兄・疾風のサウザーは、そしてまるで強風のような強さに嵐の三兄弟の長兄・レイノスは、思った。
「負けてなるものか!」
三兄弟も何が何だかよくわからなんが、超人じみた動体視力でダブルガイザスの動きを知覚した刹那の、すかさず走り出す。
5人がその肉の塊目掛けて動く。しかし先手を打ったダブルガイザス…いや、グランガイザスを失った今はダブルガイザスではなくパーフェクトガイザスであるが、彼が一番速いか。トッシュも八卦((ハウドラゴン)・地の技でパーフェクトガイザスの邪魔をしようとするも、霊脈が支配されているためままならない。
ダメか…!?と心が敗北を認めそうになったトッシュだったが、その瞬間、トッシュに訪れたあの現象が勝負を決めた。まるでこの時代から追い出そうとトッシュを引っ張り上げようとする謎のパワー。時代の修正力とでも仮称しようか、それがトッシュを引っ張る。トッシュは気付いていないが、その力は、パーフェクトガイザスにも及んでいた。だがまだ引っ張り上げられない!魔王はまだこの地に根を下ろしている!時代の修正力ですこし引っ張れたくらいで速度は落ちない!グランガイザスへその手を伸ばすパーフェクトガイザス!その目に突如何かが降り注いだ!
「あれは!?」
トッシュは時代の修正力がついにこの時代に穴を開いたのを見た!その穴はトッシュがこの時代にやって来るときにくぐった門!パーフェクトガイザスがこの時代に飛ぶために開いた門!その門がちょうど、パーフェクトガイザスの目に液体を落としたのだ!
「ぐわあああ!臭っさ!」
それはこの時代に来るちょっと前に、転移の途中酔って吐き戻したトッシュの吐瀉物。ようはゲロである。いかに不死身と言えども、突然目を潰されればびっくりして目を塞ぐものだ。こればかりは思考ではどうしようもない。反射というのは無意識に起きてしまう。しまったと思ったときにはもう遅い。ジャスティスが一番乗りで、ガイザスコアを聖拳で掴む!
「燃え尽きろおおおおおおおおお!!!!」
勢いよく走っているから、すぐには止まらない。ジャスティスはガイザスコアを地面にこすりつけることでブレーキにしながら、そのまま聖拳の出力を上げる。速度がある程度落ちたところで、ガイザスコアを持ち上げ、上空へ向けて聖拳を全力でブッパなす!先日と違い、今度は掴みながら放出することで、その手にすこしずつ塵へと滅びていくのがわかる。これが何なのかはわからないが、これを滅ぼすことが勝機になるのは先ほどの反応から間違いない。その確信で、残るすべてのエネルギーを出し惜しみすることなく出し切るという判断に至った。
「クソォア!」
パーフェクトガイザスは目をこするのをやめ目を抉り取る。すかさず抉れた目を再生することで、世界を視界に捉える。その目に映るのはグランガイザスが滅びた世界。光を取り戻す前につながった心で聞いたグランガイザスの断末魔。パーフェクトガイザスは、この時代での企みをすべて無にされてしまった。
「許さ…!?」
許さんぞきさまらー!とでも叫ぼうとしたパーフェクトガイザスは、頭上に開く門を目にする。彼がこの事態にやってくるときに開いた時の門。それが、今回は彼の意に反して開いている。
「な…なんだあれは…なにィ!」
そしてその門がパーフェクトガイザスを門へと引っ張り上げる!あの門を潜ったらどうなるか。時術を嗜むパーフェクトガイザスは感覚で理解する。元の時代へと戻される、と。グランガイザスと合体し、自らの存在をグランガイザスで隠すことで時代の修正力から逃れられていた。しかしグランガイザスとの接続を切り離された今、隠伏は解除され、グランガイザス亡き今、隠伏をすることもできない。
「うおおお!まだだ!せめてあのクソどもを滅ぼさねば…!」
しぶとく足掻くパーフェクトガイザスの肩を、トッシュがポンと軽くたたく。
「戻ろう、俺たちの時代へ」