8話 激突!元不死の軍団長と不死の軍団長代理
お姉さま!
運命両断剣ツインブレードってかっこいいですわ!
「フフフ!トッシュよ!さぁタイマンと行こうじゃないか!破ァ!」
「うお!」
ギャミの掌から迸る衝撃波がトッシュを吹き飛ばそうと迫る。今トッシュはアカネと密着している状況、トッシュは咄嗟にアカネを庇う。そのまままとめて二人は飛ばされてしまった。
そしてギャミもトッシュを追う。いざ決戦のバトルフィールドへ!
・
・
・
「いたた…!トシくん!アタシを庇って!」
「いいからじっとしてて。野郎はすぐ来る」
「ハハァ!人間なぞ庇ってすっかりそっち側だなぁ!」
バサバサと大きな羽音と共にギャミが降りてきた。アカネを庇ったのはあくまでもアルの好感度を上げるため。アルの信頼を得るため…ふと思う、無理して庇う必要はあったのか?守れませんでしたごめんなさいで良いんじゃあないだろうか?トッシュは自分がわからなくなる。ただ、そうだ。昔から弱い者をいたぶるクソ野郎は嫌いだった。そんな奴には例外なく脳天に剣をぶち込んでいた。そう、ただの生き方だ。俺は魔王軍であっても、卑劣な闘いはしない。ギャミのようなクソ野郎には決してならない!誇りある魔界の騎士だからだ!
「もう二度と魔王軍に戻れないねぇ…」
「うるせぇもう知らん!ギャミとりあえずお前をぶっ殺す!もう怒ったぞ!」
「ククク!さぁ絶望しろ!暗黒新陰流奥義・鵯越えの逆落としィ!」
ギャミが剣を上段に構え飛び上がる。そのまま落下と同時に振り下ろした剣が超速でトッシュに迫る!ギィン!と剣で受け止めたトッシュは腰を落として力を貯め、一気にギャミの剣を弾く!体制を崩したギャミに対しそのまま上段に上がった剣から攻撃を繰り出す。技は暗黒新陰流・立ち鼎!突撃して上段からの袈裟斬りだ!
「チィ!」
ギャミもまた弾かれた勢いをあえて殺さずそのまま地に倒れ込む!鼻先をヒュンと剣が通過、冷や汗ものである。ギャミはそのまま両腕で地面を『蹴り』出しトッシュの腹へ蹴りを打ち込む。しかし不発。トッシュは剣の柄で蹴りをガード、そのまま後ろへ押し出される。
「やるなトッシュ!スクラムクレイモアなしでも戦えるじゃあないか!」
すぐさま起き上がりギャミはトッシュを賞賛する。ギャミにとってトッシュはライバルだった。超えるべき目標だった。切り札が無いからといってすぐにやられてしまっては困る。スクラムクレイモアは核である二本の剣と全身に纏う鎧のパーツで構成されている。この剣のみでは当然ブリガンディフォームにはなれない。トッシュ的には全身の鎧へ変形したブリガンディフォームが本命なのだ、つまり今のトッシュは弱体化している。トッシュは剣が苦手だ。ブリガンディフォームで殴りに行くのが本来のトッシュのスタイルである。
「ギャミ!てめえに思い出させてやるよ」
トッシュはその手に持つ剣を放り投げる。トッシュの後方3mほどの距離に突き刺さる剣。
「剣の流派暗黒新陰流じゃなく俺の本分はこの拳!暗黒真拳だということを!」
トッシュは両の拳をぶつけ、息を吐きゆっくりと構える。鎧なし爪(拳に装着する武器のこと)なしではいかに得意であっても凶器をもつ相手では油断はできない。一太刀もらうだけで致命的だ。ギャミの剣を見逃さないよう意識を集中させる。
「なめるな人間!剣道3倍段を知っておろう!無手は剣相手に不利!俺は暗黒新陰流スコア750だぞ!」
「…」
ギャミが煽るがトッシュは返事をしない。その表情雰囲気の変化をギャミが察知する。驚異的な集中力によりもはや周りが目に入っていない。完全にギャミを殺ることのみに意識を向けている。所謂トランス状態になっているのだ。トッシュの構えは暗黒真拳・マグナムの構え。右半身を前に右手を突き出し左手を腰だめに置き、足を広げ重心を落とす。暗黒真拳は暗黒新陰流の一派、武器を失った騎士が無手で敵を撃破した経験を発祥とし、武器を持つ相手への無手での戦い方を極めた流派である。当然暗黒新陰流を塾で学んだギャミもその戦い方を知っている。暗黒新陰流極伝・無刀取りもまた暗黒真拳と同じ発想から生まれているのだ。
(奴が狙うはおそらくこの剣…無手同士ならば自分が有利になると考えているだろう。だが、無手での戦い方を極めた暗黒真拳があるならば、当然暗黒新陰流にも無手を相手にした戦い方があるのだ!)
無論、トッシュもそれを知っている。つまりお互いの手を熟知した者同士の闘いである。ならば有利不利の判定はやはり武器の有無だろう。トッシュのマグナムの構えは攻撃を重視するスタイル。相手にするならば、守りに入るよりも攻撃する方がベター!
「きぇええええええ!」
ギャミが駆ける!繰り出すは暗黒新陰流・本駒駆け。高速の突きによる点での攻撃、攻撃面積が小さいため防御が難しい反面、当てるのにも技量が必要である。当然トッシュもすこし横に動くだけで簡単に避けることができた。トッシュの腰だめに構える左拳の上をギャミの剣が通過する。
(ばかめ!)
ギャミの狙い通りの躱し方だ。マグナムの構えは左手を奥に構える。つまり左拳から繰り出す一撃がメインディッシュである。この拳を当てやすい位置を取るにはギャミの右手の突きを自分の腹側に来るように回避せねばならない。つまりトッシュの左手とギャミの剣がすごい近い位置に来るのだ。
「シャア!」
ギャミはそのまま突きを繰り出した右腕を強引に下に落とす!狙うは剣の真下にあるトッシュの左手!このまま手を切り裂いてやる!ヒュン!剣がトッシュの左手の一刺し指を中指の間に入る!このままざっくり真っ二つ!
「な!」
しかし指に挟まれ剣は止まる。トッシュの狙い通りの行動をギャミは送ったのだ。無刀取りは当然ギャミも警戒している。ならばあえて攻撃重視のマグナムの構えで防御を捨てギャミの攻撃を誘う。無刀取りがやりにくい点での攻撃、つまり突きを繰り出してくると予想する。そして突きは回避されやすいため回避直後のカウンターも警戒しているだろう。間を置かず追撃が来るに違いない。となれば突きからそのまま水平に斬りを繰り出せる平突きか?もしそうならマグナムの構えにより前に出ている右手でギャミの右手を掴めば容易に追撃を防げる。当然ギャミもわかっているに違いない。ならば追撃は下。それならば下に拳を動かすため掴みも防げて同時にトッシュの左手を斬ることも可能。おそらくこれがギャミの攻撃だと呼んでいたのだ。一応念のため平突きで来た場合はあえて回避せず肩を貫かせ、分厚い肩の筋肉で固定する筋肉無刀取りを備えておく。
「貴様!最初からこれを!」
「捕まえたぞギャミィ!」
指に全力を込め絶対に離さない。すぐさま剣を離せばギャミは逃れることができただろうが、その判断が一瞬遅れたその刹那。トッシュの右の掌がギャミの右肘に炸裂!
「ぬぁ!」
ギャミの手から剣が離れる。トッシュは左手を開いて剣を捨てる。それを見てギャミはハッ!とする。本命の左拳が完全にフリーなのだ。
「当たると痛ぇゾ!飛べ!」
ゴッ!トッシュの本命、ジェットアッパーがギャミの顎に炸裂!その勢いでギャミは吹っ飛んだ!
(浅いか!)
トッシュの繰り出すジェットアッパーをギリギリのところで察知したギャミは直撃を避けるため自らも後方斜め後ろへと飛んだ。そのためジェットアッパーは当たりこそしたものの決定打にはならなかった。暗黒新陰流のスコア750は伊達ではない。
そのままギャミは宙でくるりと周り着地する。全力のジェットアッパーのため技後の硬直があり追撃に移れないトッシュはそのままギャミの反撃を警戒する。ギャミもまた直撃を避けたとは言え顎に食らった一発はノーダメージとはいえず、その場で踏みとどまりトッシュを睨む。
「ぬう!腐っても元軍団長!やるじゃねーか!」
「ギャミ…こうやってタイマン張るのはいつぶりだったかな」
~5年前~
「ぐわぁー!」
「勝負あり!」
「すげぇ!ギャミの野郎が手も足も出ねぇ!ただの人間じゃねぇぞ野郎!」
暗黒新陰流全国大会決勝戦。魔界の各地方を制した代表選手たちが最強の暗黒新陰流王者の座を競うその大会の決勝が二人の出会いだった。白虎の方角、魔界東北地区王者ギャミ。圧倒的な技量で全国大会優勝候補の本命と謳われ、そのオッズは1.01。その評価通りに大会最速記録で決勝へと参上した。そして青龍の方角、魔界センバツ21世紀候補のトッシュ。政治力で出場するその枠の選手は毎回一回戦負けするような連中である。しかも人間と来たものだからそのオッズは400。誰も注目していない大穴中の大穴。そんなトッシュもまた、大会最年少で決勝へと駆けあがった。そして軍配はトッシュに上がった。
「ぐぐぐ…見事だ、人間。いやトッシュ!お前が次の暗黒新陰流の王だ!」
「いや、俺は暗黒新陰流は継がないよ。器じゃない。」
「何!この俺を圧倒したその剣椀だというのに!」
「ギャミ、お前が継げばいいだろ。俺は人間だし」
「…!き、貴様ァ!馬鹿にしてェ!お情けで恵んでもらうほど落ちぶれちゃいねぇ!いいか!絶対テメェを負かすからな!来年覚えてやがれ!」
大会表彰式にてトッシュは王者の地位を辞退、そしてギャミもまたトッシュのおこぼれはごめんだと辞退した。ギャミは翌年の大会に備え地獄の特訓を乗り越え、そして全国大会を制覇する。トッシュは出場していないその大会は、ギャミにとって無意味なものだった。トッシュが魔王軍にいると知ったのはその大会から数日後のことだった。
そしてギャミもまた、暗黒新陰流を捨て、各地の道場を巡り自らの剣を鍛えた。そしてさらに魔界に伝わる古文書から失伝した古流剣術の息吹を読み取り、自らの奥義をした。いずれ来るトッシュとの決着のために。魔王軍に入隊し、既に軍団長へと出世していたトッシュと幾度か繰り広げた模擬戦。トッシュは武器に頼る剣術を捨て体術を身に着けていた。剣を持つからこそ自らに油断が生まれ、剣を失うからこそ敵に油断が生じる。その隙を突く実践を主軸に置いた戦闘術。これがトッシュの奥義だ。いずれ来るトッシュとの決着のためにトッシュの闘いを観察し、自らの奥義はひたすら隠す。暗黒新陰流以外の技をギャミは決して見せなかった。今日までは!
~回想おわり~
「フフフフフ。トッシュ、素直に認めよう。貴様は強い。人間でありながら軍団長まで上り詰めるその強さは決して偽モンじゃない!俺が目標とするライバルだ!」
「…認めたライバルにする仕打ちじゃねぇだろ魔王軍から追い出すようなズルしやがって」
「だからこうしてタイマンを張っている。お前を殺すために身に着けたこの技で、俺は本物の軍団長になるのさ!」
「!」
ピュン!と突如トッシュの頬から血が噴き出す。ギャミとの距離は10mは離れている。飛び道具の類は持っていない。ギャミはその手の剣を振っただけだ。つまりは。
「そう、俺は間合いに入らずとも貴様を斬ることができる。これが俺の奥義よ!」
「…へぇ。舐めプじゃねぇか、今ので首切ってればよかったのによ」
「フン、暗黒真拳集気法くらい知っているに決まってるだろ。どうせその程度の傷は回復するからな。それに見せておきたいのさ。言い訳させないためにな!そらそらそらそらそら!」
「…ッ!」
ズバズバズバと10m先でギャミが剣を振り回すたびにトッシュの身体から血が噴き出す。魔術でも飛び道具でもない、その剣のみで繰り出される飛ぶ斬撃にトッシュは防戦一方だ。
「クソ…!言い訳させないためならスクラムクレイモアブリガンディも使わせろよ!」
「それはダメだずるいぞ俺は持ってないんだぞ!」
そんなことを言った所で無い物は仕方がない。トッシュは後方に飛び先ほど捨てた剣を手にする。幅広のその剣を盾にトッシュは前進しギャミを殴りに走った。
(フッ!剣に頼るとは自らの奥義を捨てたか!この勝負貰った!)
ギャミの飛ぶ斬撃がトッシュの剣に集中する。しかしトッシュのこの剣は魔界の希少金属スーパーチタニウム合金製だ、多少の剣撃で崩れるほど脆くはない。ギャミも悟ったのか連射をやめ、大上段に剣を構える。おそらく大技が来るとトッシュは悟る。
「喰らえ鎌鼬ブレイク!」
「うおおおおお!」
全力で振り下ろされた剣から生じる強大な衝撃が空を裂き地を砕きながらトッシュに炸裂!真下に走る強大な衝撃波は直撃を避けたトッシュをそれでも吹き飛ばした!
「ハハハハハ!これぞ古来に失伝した伝説の剣術!サンダー流刀殺法奥義・鎌鼬!古文書より読み解き俺が復活させた最強の剣術!貴様は俺に近づくことすらできぬ!鎌鼬アロー!」
ガキンとトッシュが盾にする剣に衝撃が走る。おそらく鎌鼬アローというのが先ほど連射された飛ぶ斬撃だろう。これは当たる位置され気を付ければ致命打にはならない。しかし接近したときには先ほどの鎌鼬ブレイクで吹き飛ばされる。ブレイクは飛びはしないがその分高威力というわけだ。まさに攻防一体!奥義と呼ぶに相応しい大技だ。
(…ちょっと舐めてたな。あいつの本気は強い。さて…やらなきゃいかんかな)
トッシュはギャミを強敵だと認識を改める。自らも奥義を使わなければ勝てないかもしれないと。