54話 猛獣!ブラスターアームオオカミ!①
「ハッ!」
トッシュの三花仙を受け気を失っていたアッシュ。どれほど時間が経過しただろうか。トッシュを呼び出したのは草木も眠る丑三つ時。アッシュはその顔にかかる日差しで目を覚ました。もはや闇は晴れ、新たな一日が始まる。その清々しさは、アッシュの心そのものだった。
「ギャミくん…すまない。僕の完敗だ」
「アッシュさん。別に俺はアンタの復讐の邪魔をするつもりはないよ。手伝うつもりもないけど」
「そうか。なら今日見せた二つの花鳥風月は誰にも言わないでほしい。もちろんジャスティスたちにも」
「わかってますって。でも外伝・花鳥風月の4発目は結局見れなかったなぁ」
「ふふ。それは秘密だ」
全力を尽くし、そして負けた。不思議なことに悔しさはない。今まで誰にも言えなかった秘密を打ち明けたからだろうか、妙にすっきりした気持ちである。この朝日にも負けない清々しさ。晴れた心は、アッシュの技を一つ上のステージへと上げているが、今はまだ気付いていない。
「いたいた。男二人で何やってんのよ。いやらしい」
「うぉわ!」
トッシュたちの背後からやって来たのはジャスティスだった。トッシュはその突然の出現に驚いた。トッシュは不意打ちを予防するため常に周囲に闘気を薄く広げている。トッシュ本人の闘気が空っぽになってもブラックソード・ゼロの闘気を活用して、常にそれをやっている。ブラックソード・ゼロを使った場合はトッシュ本人の闘気ではないため精度が落ちるが、今は闘気も多少回復しているので自分のでできている。つまり高精度の気配探知をしているのだが、ジャスティスの存在に反応ができていなかった。トッシュは自分の気配探知は蟻の子一匹の動きも、筍一本の伸びも見逃さないほどだと自信満々だったのにだが。
「不思議か?」
「え!?」
トッシュの驚愕を見透かしたように、ジャスティスがトッシュに顔を近づけながら言った。
「アンタの気…なんかアタシの気に似てるんだ。不思議だね」
「お…おぉ…」
ピンク色の面に黒色を入れたら明らかに異色だとわかる。しかしピンクの面にマゼンタの色を入れたらどうだろうか?なかなか判別がつかないはずだ。そういうことだと言いたいのだろう。まぁジャスティスは母親なわけだから、似てて当然なのかもしれない。年下の実母。しかも現代で会った10歳のガキではなく、16歳くらいの、こう、なんというか…まぁ、母親だからやましい気持ちにはならないが。と、トッシュは自分に言い聞かせる。
「アンタたちが何やってたのか知らないけど。急いで東に行くよ」
「ヴァイスランドとシャンバラの国境沿いか?僕らが行かねばならない理由があるんだな」
「そうよ。ブラスターアームオオカミの群れが人里を襲撃している。家畜への被害も甚大で、このままでは住人にも及ぶかもしれない。今さっき救援の要請が届いたのよ」
ブラスターアームオオカミ。四国大陸に生息している最大のオオカミである。当然オオカミなので社会性を持ち群れを形成、その連携は牙無き人はおろか、一流の戦士ですらも危険な相手である。おそらく魔王が消えた影響もあるのだろう。魔王が消え、魔族や魔獣たちもまた領地や縄張りを捨て散り散りになってしまった。魔族と戦う人間たちも、魔獣と戦っていた猛獣たちも調子に乗り始めるころで、潜伏した魔族魔獣たちの暗躍もあるだろう。勇者として、次はこの混乱を沈めるために力を尽くさねばならない。
「ブラスターアームオオカミ…あの魔王グランガイザスの手下、五十人衆の一人もその群れに襲撃されて命を落としたという。危険な相手だな。確かに僕らが行くしかないな」