53話 流麗、花鳥風月②
スバっと斬り裂かれた傷から噴き出す鮮血!勝負あり!剣士としてトッシュは敗北!
「見事…!剣士として…俺の敗北!」
アッシュにとってトッシュという人間は別に憎い相手ではない。命まで取る必要はあるのだろうか…。しかし彼には理由があった。なまじ実力が伯仲していたが故に、その首を斬らねばならない。新陰流本家にしか使ってはならないはずの極伝、花鳥風月。それを秘匿するために。見た者は生かしてはならない。来たるべき決戦に備えて。一族の悲願のために。剣士としての単なる勝利だけに満足するわけにはいかないのだ!
「その命もらい受ける!御免…!?」
そのまま首を抉ろうと剣を構えるアッシュだったが…違和感!おかしい、血が少ない。内臓まで達するその斬撃、出血は止まらず辺り一面赤黒くなるはず…。だが、まるで280mペットボトルの中身を全部零したよりも明らかに少ない血液量!
「だが、ここからは俺の全てで勝負する!」
ここから先は剣士ではなく、拳も闘気も八卦も解禁した本当のトッシュが相手だ!トッシュは斬られた瞬間、暗黒真拳・集気法で傷をすぐさま塞ぐ。あまりにも重症だったため闘気はやはり空っぽだが、剣縛りから解禁された現状、剣士トッシュよりも22%増しの性能だ!
「なに!」
突然のトッシュの復調にアッシュは動きに混乱が生じる。その隙を狙ってトッシュが繰り出すのは暗黒真拳対地の拳!メテオボンバー!飛び上がり、重力を友達にし下界の敵に右拳を振り落とす!しかしその大きなモーションに、アッシュは後れを取り戻し見事右へ回避する。が、トッシュもわかっていた。あえて、自分の左に逃げられるよう、やや右よりに拳を狙っていた。このメテオボンバーは囮。左側のアッシュへ向かって、左手の魔剣ブラックソード・ゼロを突き出す!
ガシィ!しかしアッシュも裏暗黒新陰流の達人!極伝・無刀取り、弐の巻・白刃取りでブラックソード・ゼロを止める!いかに無手が強かろうと、剣道三倍段!剣の持つ攻撃力には叶わない!本命は剣に違いないとアッシュは読んでいた。崩れた体勢から放たれる剣ならば、無刀取りの中でも難度の高い白刃取りも容易!
(…!?)
…裏をかいたつもりのアッシュだったが、ブラックソード・ゼロもまた、トッシュの囮だった。裏の裏は表。トッシュの本当の狙いは…拳!白刃取りをされた瞬間、トッシュはブラックソード・ゼロから手を離す。今のトッシュの体勢…左手を開き前に突き出し敵をロックオン。右手は腰だめに。腰は落とし、肩幅程度に開いた両脚。右拳に力を込め(闘気ではない。闘気はまだ空のまま。しかし絶対勝つという気合が入った拳には自然と力が込もる。それは時に、闘気をも超える力となる!)、放て!必殺の拳!
(もはや回避はできん!耐えろォ!)
トッシュの左手の位置から、狙いをボディと察したアッシュはムキムキと腹筋に力を入れる。アッシュ自慢の7つに割れた腹筋で勝負する様はまるで故事成語の矛盾の如く!
「マグナムブロオオオアアアアア!」
白刃取り後の硬直。無防備なアッシュの腹部にドゴンと決まる最強の矛!衝撃に真っ向から挑む無敵の腹筋!