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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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53話 流麗、花鳥風月①

 ~30年ほど昔~


 暗黒新陰流東西対抗戦。西と東の新陰流の使い手が一堂に会し、本家の前で鍛えぬいた技を披露する暗黒新陰流の恒例行事。その場で、事件は起きた。対抗戦後に本家の跡取りが魅せる演武に一人の少女が飛びこんできたのだ。


「若様…暗黒新陰流本家の技で私と演武をしてもらえますか…?」


 突然の乱入者に若様の付き人は激怒する。


「痴れ者が!分をわきまえよ!」


 そんな付き人を、若様は制止し、乱入者へ言葉を返す。


「いいよ、演ろうか。ただしやるからには手加減はできないよ」


 そして、若様は敗れた。


「おお!なんということだ!本家の坊ちゃまが!」

「しかしあの少女、なんという美しい技を魅せるのだ!いったいどこの使い手か!」

「なにィ!裏暗黒新陰流だと!なぜ裏の者がこのめでたい場に来ているんだ!」


 その少女は暗黒新陰流の影。暗黒新陰流の栄華のためにその手を血に染めた暗部。少女は暗黒新陰流の歴史から抹消されるべきとして廃絶を言い渡された、存在しないはずの裏暗黒新陰流。


 少女はその後父と共に魔界を追放され、人間界で剣の道場を運営していたという。


 数年が経過し、貧しいながらも人間界で穏やかに過ごしていた裏の父娘。しかしその心中には今も消えない怨嗟があった。


「父よ、私の中に確かに命が宿りました。この子に、我らの裏の技を、そして本家を打倒する必殺技を伝えて見せます」


 病に倒れ、もはや長くない父に娘は誓いを立てる。父が死にゆく今、娘は子を宿すことを決意し、そして孕んだ。


「うむ…その子は私とお前の裏の血が凝縮された、裏の申し子。きっと裏の歴史上にも比類なき技を修めてくれよう…あとは頼んだぞ」


 そして生まれた男の子は、アッシュと名付けられた。

 ・

 ・

 ・

「祖父も母も、暗黒新陰流の影として生きていくことを不本意には思っていなかった。それが家の役割だと、そう信じて暗黒新陰流のために剣を振るった。だのに、奴らは切り捨てた!年金も貰えず今まで過ごしたことの無い人間界での慣れない生活!許せないのだよ!」

「母の復讐、気持ちはわからんじゃない。…なら、お望み通り暗黒新陰流の技だけで相手をしてやる」


 トッシュは暗黒真拳だのサンダー流刀殺法だの八卦だのと、いろんな技を半端に身に付けている。しかしそういった他の技を使うのではなく、純粋に剣だけで優劣を決めるべきだと判断した。純粋に剣で負かさないと、彼はきっと納得しないだろう。


「いくぞ!てやああ!」


 アッシュの技は暗黒新陰流・雪風の太刀。降り注ぐ雪の如く柔らかな太刀筋が、落雪のごとく捉えどころのない斬撃を振り下ろす。


(雪月花か!)


 暗黒新陰流極伝・雪月花。雪風の太刀、古月斬り、三花仙を連続で繰り出す無刀取りと並ぶ極伝。これをまともに受けては致命傷間違いない。トッシュも咄嗟に前進し、雪風の太刀が振り下ろされる前に剣で受け止める。


 ガキンと剣がアッシュの頭上で交差する。いつものトッシュならこのまま前蹴りをアッシュの腹に打ち込むところだが、剣の勝負なので自重する。


「くっ!やはりそうくるか!」


 アッシュはすぐに後退し、脇構えに姿勢を変える。剣を後方に向け、自らの身体を前にするその構えは当然危険である。自らの身体を囮にし、反撃に転じるその構えから繰り出すのは、雪月花の花。


「散花閃!」


 当然その構えの意図はトッシュにモロバレなので、反撃ではなく積極的に攻撃に移る。後方に構えた剣に勢いを付けて相手の横を駆け抜けながら斬り裂く攻撃力の高い技だ。


「なんの!」


 トッシュは自分の胴体に振り抜かれるアッシュの剣を打ち下ろすように迎撃!体制を崩したアッシュは、まるで酔っ払いの千鳥足のようにふらつきながら、トッシュの脇に倒れようとしている。


(よしもらった!)


 しかし、斬られたのはトッシュだった。体勢を崩したアッシュが、信じられない体勢から剣を振り上げてきたのだ。剣を振り上げた勢いを生かし体制を立て直したアッシュは、上段に構える剣を振り降ろす。雪風の太刀。今度はトッシュの背中をざっくりと斬り裂いた。そのまま連続技は続く。今度はバク宙で下段にある剣を強引に振り上げ円を描きながらさらに斬る古月斬りでシメ。


 これぞ暗黒新陰流本家を倒すために編み出した裏の技。大技の散花閃から出すことで連続技の警戒を解いた相手に、4連撃をかます裏暗黒新陰流超伝・花鳥風月である。雪月花には無い2連撃目。裏暗黒新陰流真伝・千鳥舞い。散花閃の後の硬直、または散花閃を迎撃された後のバランスを崩した状態から繰り出すその技は、まるで酔っ払いの千鳥足のような足運びから、千鳥舞ちどりまいと名付けられた。

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