51話 八紘、時の果て②
「君…誰さ?」
「ジャスティス!俺俺!俺だよ俺!」
「知らないなぁ…とにかく邪魔だからどきなさい」
「お姉さま、こいつグランガイザスの手下じゃないのかな?だったらボクがやっつけとくよ」
ジャスティスの後ろからひょこっと出てきたのは、ジャスティスとは逆に少し幼くなったような聖女サンの姿。そしてよくよく見ると、さらに筋肉モリモリの汗臭そうな男と、頭からつま先まで真っ黒いコーディイネートでかっこよくキメてるもののなんか影の薄そうな人が続いていた。
「ダメばいサン、お前んなんかあったらいかんて。あぎゃん雑魚なこん戦士グレゴリオがくらわしてやっぞ…どぎゃんしたと?アッシュ」
「…あの剣、魔剣ブラックソード・ゼロか?では彼は魔界の…」
聖女サン、戦士グレゴリオ、黒騎士アッシュ。昔ジャスティスについていた勇者の仲間ご一行様。トッシュはようやく理解した。なんとなくそんな気はしていたが、確信した。
(また来たのか…こないだよりもさらに前に…)
ジャスティスの味方たちの様子を見て、その状況を利用すべくグランガイザスは号令を上げる。トッシュを自らの部下だと思わせれば、つぶし合いになるはずだ、と。
「そうだー!これこそ我が魔王の切り札よ!行け魔界の殺人ソルジャー・デビルガッデムよ」
「あっ!テメ!ふざけんな!」
ジャスティス一行がトッシュと交戦を始める前に、それを聞いたトッシュはグランガイザスに魔剣ブラックソード・ゼロをぶん投げた!さらにトッシュはグランガイザスの腹部にザクっとぶっ刺さった魔剣に秘められたエネルギーをほんのちょっぴり解放!全力解放したら半径10kmほど吹き飛びそうなので、ほんのちょっぴりだけ、半径1mを焼き尽くす程度に開放する。
ジュッ!とグランガイザスの肉体を包む光、そして熱。黒い色は光を集める性質がある。故にこの魔剣ブラックソード・ゼロ、熱と光を得意とする剣だ。
「やったか!?…うおっ!」
しかし、これで終わらないから魔王である。光の中からシュッっとトッシュに向かってブラックソード・ゼロが投げ返されてきた。反応が遅れていたらトッシュの頭を貫いていたやもしれないが、トッシュは無刀取りができるし、加えてブラックソード・ゼロにはトッシュの闘気もふんだんに盛り込まれているので位置を感覚で理解できる。ギリギリの7歩手前くらいでブラックソード・ゼロをその手に掴み取った。
「クソガキがァ!よくもこのグランガイザスにぃ!」
「おー、キレてらっしゃる。まるでキレたナイフだ」
へらへらしているトッシュに、今まで黙っていたジャスティスがついに口を開く。
「ねぇアンタ邪魔よ。アイツとやれるのは私だけなの。下がってなさい」
「お…おい、ちょっと待て…」
つかつかグランガイザスのもとへ歩行を進めるジャスティスに掴みかかろうとするトッシュを、黒騎士アッシュが制止した。
「やめろ…奴にはジャスティスしか勝てない…」
「それって、どういう…」
「奴は心を読む。だから奴に理解できない言語を使えるジャスティスじゃないとだめなんだ」
「あー…そんな破廉恥な能力があんのかよ、ずっこいなぁ。よーしジャスティス、ぶっ殺してやれぃ!」
己の不利を悟り剣を収めて応援の構に移行するトッシュ。そんな彼に3人の視線が刺さるのだが、彼は気付いていなかった。
(一体なんなのかな?この子)
(なんなんね?こんにくじは)
(何者なのだろうか、彼は)
本来この場所に存在するはずの無い少年に、勇者一行はどうもペースを崩されてしまうが、今はそれどころじゃない。ジャスティスを守るために、この部屋に押し寄って来るグランガイザスの配下、十三人衆…通称ステイツを足止めしなければならないのだ。
「えー、なんで?普通ここは俺に任せて先に行けーとかやらない?俺はやりたいけど」
「あんな、13人もおっとぞ!そぎゃんこつしてても人手が足らんて!だけん一気に突破するっきゃなかったとぞ!」
「うるせー!お前何言ってんのかわからねぇよ!ていうかお前は…!」
ここまで言って、言葉を呑み込む。この訛りのひどい男は戦士グレゴリオ。魔王討伐後、ジャスティスを裏切るクソ野郎で、隙あらばぶち殺すつもりではある。しかし堂々と宣言してはいけない。今は勇者の仲間という立場なのだから。
「…ところで君、名前は?私はアッシュ。人は私を黒騎士と呼ぶ」
「(そんだけ真っ黒だったらそう呼ばれるわな…)えっと、俺は…なんだったかな」
ここで本名を名乗るわけにはいくまいて。もしジャスティスがお腹の中にいる子供(昔の自分)の名前を既に決めていたら、歴史が狂うかもしれない。もう手遅れ感はもちろん否めないが、せめて歪みは極力減らすべきである。
「…ギャミ!俺はギャミだ!」
「ギャミ。君も闘ってもらうぞ。さぁ、ステイツが来る!」