51話 八紘、時の果て①
「うおおおおおおお!!イクシェイドの空間転移は一瞬だったのに!これは酔う!酔ってしまう!吐く!ごめんなsオロロロロ!」
上下左右裏表の感覚がぐちゃぐちゃになり平衡感覚を失ったトッシュはとうとう吐しゃ物を吐きだしてしまう。10時過ぎごろにいっぱい食べた朝食のぜんざいはもはや原型はなく、液状化してすっぱい香りとともにこの得体の知れない異空間の彼方へ吸い込まれるように消えていく。この空間の果ては現実世界のどこかに繋がっているのだそうだ。誰かに迷惑をかけることないようにと祈りながら、もし誰かの目にでも入ったらごめんなさいと謝りながら、トッシュは吐しゃ物を見送る。吐しゃ物が完全に見えなくなったと同時に…ようやく転移の終わりが見えてきた。進行方向の先、少しだけ見えた光が徐々に大きくなっていく。その光はまるで枕に染み込む寝ゲロの如く広がりを見せ、そしてトッシュを覆いつくした。
真っ白の光に覆われながら、現実世界への帰還を待つトッシュ。彼は無性にイラついてきた。なんでこんな思いしなきゃならないのか、これはグランガイザスのせいだ。ならグランガイザスにこの魔剣ブラックソード・ゼロをケツにぶち込んで鬱憤を晴らさせてもらう。浮遊感があった肉体に、重力が働いてきた。いよいよ現実世界だ。世界に色が戻っていく。とても暗い色だ。屋内の光の届かない空間なのだろう。マッドドクターの巣なのだからさもありなんだ。そしてトッシュは到着した。
「よっしゃあああああ!ぶっ殺してやるグランガイザス!」
叫びと共に世界に降り立つトッシュ。すかさず帰ってる返事。
「吠えたな小僧!誰だか知らんがぶっ殺返してやる!」
ガキン!と派手な金属音をたて、二人の剣が交錯する。突然の来訪者に平然と対応する、先代の魔王は伊達ではないということか。グランガイザスがこうして斬りかかってくるなら、作戦は案の定失敗したのだろう。ならばゲロは…じゃないクソ…でもない、ケツは拭いてやるから感謝しろよとトッシュの闘志が燃え上がる!
「ぬう!ベンタブラックの刃!魔剣ブラックソード・ゼロか!?」
「そうさ!テメェのケツにぶち込んでやる!」
「笑止!魔王グランガイザスを見くびるなよ!」
グランガイザスの振るう鈍器がトッシュの剣を弾く。ゴガギンと鈍い音を鳴らし、トッシュはノックバック。そしてグランガイザスとの距離が離れたことで、違和感に気付く。
「あれ?ここどこ?」
マッドドクター・ギロチネスの診療所の、その奥。ギロチネス研究室…に到着しているはずだが、この空間は全く別物。たしかにマッドサイエンティストの研究室みたに暗いのだが、部屋の中の悪趣味な装飾は研究室らしからぬ…そう、まるで魔王の城のような様相だ。
「魔城ガイザスと知らないでここに来たのか?空術で跳んできたとでもいうのか?おかしいな、空間ジャミングは万全なんだがな」
「…どういうことだ。一瞬で城作ったのか?時術ってそんなに便利なのか?」
「…一瞬?まぁ魔族が持つ悠久の時間からすれば数年なぞまるでハムスターの一生の如き刹那ではあるが」
お互い困惑する状況のこの空間に、新たな来訪者の足音が近づいてくる。その音から4人、こちらに向かってきているようだ。そして入り口前で止まった足音の主は、勢いよくそのトビラをこじ開ける。
「グランガイザス!覚悟なさい!」
「フン、もう来たか」
「ジャスティス!?なんか老けてる!?」
トッシュが知るジャスティスの面影を持ちながら、年齢が5つほど老けた要望の勇者ジャティスの姿が、そこにはあった。