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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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48話 超人、理を逸脱せし者①

『超人』


 人(人間、魔族ら知恵ある生命体を総称してそう呼ぶ)としての限界を超えた者たち。


 常人を遥かに上回る思考速度により、世界の速さすらも置き去りにするほど刹那の合間に慮る者。


 死の間際に走馬灯を生み出す極限の集中力を思考速度に回し、超速思考を得た者。


 そして、この男もまた、超人の域にいた。


「グヘェ!」


 ドボォ!と腹部を貫く音が脳内に響く。肉体を貫通はしてはいないものの、深く打ち込まれた拳は呼吸すらも困難に陥れる。なんという速さだろうか。見えないわけではないが、気配を探知はしているが、人間としての反応速度では対処できないほどのまさに疾風迅雷。超人的な加速。


「シャア!」


 さらに続けて二打、三打と打ち込まれる拳、脚、肘、頭突き。その技自体は型も何もないデタラメな素人の喧嘩程度、武術を身に付けていれば対処は容易い筈。しかし人間離れしたその速さに思考が追いつかない。さらには素人の技に過ぎないのなら罠を仕掛け狙った場所に攻撃を誘うものの、ギリギリのタイミングで逃げられてしまう。見切られているわけではない。まるでこちらの動きがゆっくり見えているかのようだ。いや、実際そうなのだろう。


(こいつ…俺の時間を止めようとしていない…!)


 時術使い、グランガイザス。一度交戦したトッシュは、イクスシェイドやジャスティスとMINE(念話の応用によりグループでチャットができる魔術)で情報を共有し、時術対策をいくつか考えていた。しかしそれが全く活かせない。期末テストでここが出るはずだとヤマを張った部分が、全く出ない絶望感。今トッシュはグランガイザスの猛攻に、ついに跪いた。


「ハァ…!ハァ…!」


 グランガイザスはおそらく、いや間違いなく、時術を己自身に使っている!自らの時間を加速させることで思考と肉体両面とも超人の域に到達したのだ。何というイカサマだろうか。己の肉体を鍛えずに魔術でドーピングするなんて…卑怯者!


「余を卑怯者とでも言いたいか?トッシュ」

「…!」


 その言葉にトッシュは違和感を感じた。まるでイカサマはしていませんとでも言いたげなグランガイザスの言葉。魔術も自らの才能、それで肉体を強化するのは秘境でも何でもない、そういうことだろうか。


「フフフ、全くあのドサクサで太陽の章、太陰の章、そして大極の章がどっかに行ってしまった…探すのも骨だぞ。まぁいい、『時間』はいくらでもある…特に余はな…」


 トッシュがグランガイザスと戦う前、グランガイザスは八卦衆の連中と大立ち回りを繰り広げていた。アーウィン、マスター不知火、マユ姐さん、その他大勢の八卦モブたちとの乱戦は、グランガイザスもかなり苦戦を強いられていた様子で、その手に持っていた三冊の書物はいつの間にか手元を離れ、湧いてくる八卦衆に顔面とか殴られるわ、ローキックされるわでもう大変。トッシュはその乱戦を観察し、グランガイザスの戦力を分析し、時術は一人にしか使えないこと、一度発動したら次の発動までインターバルが必要なこと、そして連続使用はかなり燃費が悪いことを推測できた。だのに、全く対策が使えない。まるで実力を隠していたかのよう…にしてはおかしい。いかに実力を隠すためとはいえ顔やら足やら殴られるのを我慢できるだろうか。けっこう痛そうだったし、再生能力があっても痛いものは痛いはずだ。待てよ、どうも最初は数の暴力で押されてたのに、終盤は逆にミツバチを蹴散らすスズメバチみたいに無双してたし、なんか体が大きくなってる気がする…!アハ体験!そうだ、こいつ短時間で成長してた!と、良いとこまで思考していたが、グランガイザスがその思考を遮る。


「空術が使えないのもどうやらお前の仕業のようだなトッシュ。とりあえず貴様を殺してその後空術でじっくり本を探すとするよ」


 空術が使えない。これは空術対策のための空間ジャミングが発動しているためだ。トッシュは自身が持つ空間ジャミング装置内蔵アミュレットが発動していることに気付いていた。これはイクスシェイドから念のためと渡されたもので、およそ4時間のチャージで最大12時間連続で発動でき、空術を探知したら自動で発動する。トッシュは何者かが空術でこの鉄甲館にやってくるのではと思ったが、今の言葉でその逆、グランガイザスがこの場から空術で跳ぶか、空間を操作しようとしていたのだろうと理解する。グランガイザスは空術も使える、この情報は重大なものだ。いや、裏切り者パルパレオスの技術が流出していると考えるなら、むしろそれが自然か。


「さらばだトッシュ!ガイザスソード!」


 グランガイザスの手刀がトッシュを斬り裂くべく振り下ろされる。トッシュは聖拳を使ったことで闘気はガス欠、グランガイザスの超速で繰り出されるその手刀を無刀取りは無刀取りも困難。絶望的な状況にトッシュは一か八か、空間ジャミング装置内蔵アミュレットを盾に構える。グランガイザスはその緩やかなのんびりしたガード動作を見、そのアミュレットが空間ジャミングを発生させている根源と気付く。ならばこの防御を無視して無防備な部分をぶん殴るのではなく、このアミュレットごとトッシュを粉砕する方が効率が良いと考えた。


 グランガイザスの手刀がアミュレットの表面を斬り裂いたその瞬間、アミュレット内のバッテリーが暴走する!膨大な魔力を密封する外壁に穴が開いた瞬間、それはまるで風船が割れたかのようにグランガイザスの方へ魔力を噴出する!その魔力の閃光はグランガイザスの目を眩ませた!


「ぐわあああああ!」

(好機!)


 トッシュはようやく、ここ一ヶ月の八卦の修行で身に付けた技を発動できる好機に喜ぶ。これがトッシュオリジナル八卦、その名も『烈』!


 如何に超速で思考できようとも、目が見えなければ対策は不可能!グランガイザスがこの場から逃げようとする気配をトッシュは察知し、逃がさないよう対策を講じる。グランガイザスの目が機能していたらこれも避けられたに違いないが、見えないのなら話は別!


 グランガイザスはまず空術で跳ぼうとするはず。だからトッシュは空間を縛る。トッシュは空術を使えないが、空術…というより時術を含めた魔術全般対策のために身に付けた八卦の技。その名はWORLD。トッシュが指定した空間内における魔術の発動を阻害する。あくまで対象が外部に向けて発動する魔術を阻害するだけであり、対象内部に発動する再生やバフなどは無効化できないのが困り者だ。そして当然連続使用もできないので、使いどころを見極める必要があるのも困り者だ。


 {???!!!」


 空間跳躍できずに困惑するグランガイザス。トッシュはその隙を逃がさない。次の手は、グランガイザスの周囲の空間を圧縮する!同じような術が空術にもあるが、これは魔術ではないので発動可能!八卦は魔力ではなく、大地に走る霊脈レイ・ライン、大気に満ちる霊絡レイ・エナジーを作用させる技だ!


「潰れろォ!!!」


 トッシュは両手を合わせることで、グランガイザスの周辺の空間がペタンと潰れる様をイメージする。四方八方から迫る圧力は逃げ足を塞ぎつつ、そのまま押しつぶす攻撃にもなる。勝負ありか!


「がああああああ!」

「何ィ!」


 が…!ダメ…!先ほどに比べグランガイザスの身体がさらに体が大きくなったように空目する。それはグランガイザス周辺の空間が歪んだためそう見えたのか。そうではない。これは空目ではない。確実に、グランガイザスはまた大きくなった!その膨張でグランガイザスの衣服がビリっと破れたので間違いない!その正体は筋肉だ!トッシュは確信した!グランガイザスはダメージを受けるたびに筋肉が膨れ上がっている!

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