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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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47話 死線②

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 結論から言うと、ギャミはランに斬り裂かれてしまった。ギャミは裏切りの騎士トッシュとの決闘を思い出す。あの時のギャミが斬り裂いたトッシュのように、今ギャミは斬られてしまっている。右肩から左の脇腹にかけて走る一筋の線。ランの白刃が作り出したその線が、ギャミの青い肌を破壊し、赤く染め上げる。出血がひどくて動けない。下手に動こうものならワタがもろっとこぼれ落ちそうだ。


 死。


 ギャミの脳裏によぎる恐怖。あらゆる生物が抱える根源的な恐怖。蟻さんのような下等生物とかは、個体一人一人各々が死の恐怖を抱えているのだろうか。人は蟻さんではないからわからないが、少なくともあの子たちにとっては己の属する群れこそが本体であり、群れを守るために命を投げ出すのを厭わない。あの子たちにとっては群れの崩壊、群れの消滅こそ死なのだろう。


 死に直面するといろいろと考えがよぎるものだ。走馬灯ともいうのだろうか。一説には走馬灯は極限状態の中で生きる手段を見つけるために脳内をいろいろ検索しているのだという。そしてギャミの脳が見つけ出した可能性は、憎み焦がれたトッシュ…ではなかった。


 その可能性に気付いたギャミは、傷口を縫いながら立ち上がる。縫いながら身体に備わる治癒力を闘気で強化する治療術、集気法で傷を塞ぐ。縫わずに集気法では治りが遅いし、治らないかもしれない。


「縫うんだ…痛そう、すごいや」

「…」


 素直に正直に率直に、ランはギャミをすごいなぁと思い、賞賛するも、ギャミからの返事は無い。まるで屍のような不気味さに不快さを覚えるランは、もう終わらせようとトドメに走る。油断せず、見せるは先ほどと同じ暗黒新陰流最速の技、浮橋。


 そして、ギャミが見せるは先ほどと同じ極伝・無刀取り。唯一の違いは結果だ。ギャミの両の掌に挟まるランの刃。


「そんな…!」


 驚きのあまり反応が遅れてしまった。それが致命的だった。刃を持つランの両腕に絡まるギャミのサブミッション!メキィ!と関節を極められ刃を落としてしまう。


「痛い!」


 続けて足を払いランを地べたに押し倒す!ギャミはこのまま寝技で絞め殺す勢いだ!まるでカマキリに捕まったゴキブリの如くもがくラン。ゴキブリとカマキリは横から見るとわりとそっくりであり、その事実に気付いて以来カマキリも気持ちが悪い。やっぱハリガネムシを腹で買ってるようなやつはダメだ。


「一体何が…!さっきまでと全く動きが違う!」


 ランの言葉はギャミの耳にはやはり届いていない様子である。それもそのはず、ギャミの耳にはランの言葉を言葉として受けとる能力が欠落していた。


(全く何て言ってるかさっぱりわからん…もうちょっと早くしゃべれ)


 超速思考。魔王イクスを魔王たらしめるそれは、技や術などではなく、鍛えたからといって辿りつける領域ではない。到達したものはこう呼ばれている。…超人と!


 死の間際、生き残るべくギャミの脳が全力で、普段使っていない領域までフルに活動した結果!ギャミは辿り着いた!それは超人的な速度による思考!今ギャミは究極の集中力により世界が遅く見えている!暗黒新陰流最速の刃だろうとも、今のギャミにはゴキブリが飛んでくる程度の速度で認識ができるのだ!故に、飛んでくるゴキブリをその手で掴むがごとく無刀取りすらも容易いこと。いや、ゴキブリを掴む方がよっぽど難しい。だってゴキブリなんだから。


 今のギャミにはランの言葉など、子供の頃の貴花田の言葉のごとくゆっくりと聞こえている。それは彼にとってもはや言葉として認識ができないのだ。

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