46話 英雄、推参③
「よう脳の俺、すっかり敗けそうじゃあないか」
「フン、相性が悪かったから仕方ない。あの人間はお前に任せるぞ。魔王イクスは俺がやる」
全く同じビジュアルの二人が仲睦まじく助け合い、今また伊集院と魔王イクスに力を合わせて立ち向かわんとする。
「なんで増えたの?アレ」
「知らないのも無理はない。奴はどうやら同じ力を持つ存在を増やすことができるんだ。ウチにいた裏切り者のおかげでな」
パルパレオスが魔王軍から離脱したトッシュの力を再現した新たな軍団長ラン。そしてイクスシェイドが魔王イクスと戦った際に遭遇した勇者ジャスティスの力を再現した少女。ならばグランガイザスが自らを増やすのもあり得ない話ではない。
「ありえないわ!」
ちょっと前に開催したグランガイザス対策ミーティングにおいて、勇者ジャスティスはそれを明確に否定した。
「あの自己中が自分を増やすわけないわ!どいつもこいつも自分勝手で内ゲバをやるのは目に見えている!あいつが欲しいのは横見て笑いあえる仲間じゃない、下見てあざ笑える手下なのよ」
しかし現にグランガイザス同士のタッグチームが目の前に存在している。いやそれだけではない、おそらく城内の至るところにグランガイザスがいて魔王軍の精鋭たちが今も死闘を演じているのだろう。内ゲバをしている様子は全く見えない。何とも中良さそうにしているこのお二人、今にもお手手を繋ぎかねないとすら思える。
「…変なこと考えないでくれるかな…イクスさん」
もはや心を読んでいることを隠そうとすらしないグランガイザス。ややこしいので読心する方をグランガイザス甲、今しがたやって来た方をグランガイザスAと呼称する。Aは伊集院と戦うようだ。
「さぁ、またクソゲーをやろうか魔王イクス閣下…」
「めんどくさい…さて、どうしたものかな」
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「アハハ、どうしたんだいギャミさん。やっぱり君は勝てないんだよ」
売られた喧嘩は買うのが男の礼儀。ランはギャミに対して恨みも何もない。別に放っておいても良いのだが、この男は明確な殺意を自分に向けている。少し前の自分なら怯えて何も出来なかった。お前は男じゃないと罵られ、実際女の子みたいな顔をしていたランは、じゃあ女にしてやるよと男たちから凌辱を受けていた。でも今は違う。あの頃の自分とは違う。力がある。自分は強者だ。弱者の殺意など畏れるに足らず。1人の男として、真っ向から答える力がある。
「へへ…借り物の力で調子こいちゃって…かわいいねぇ…」
「…減らず口だね。この力がどういう課程でもたらされたかなんて関係ない。今僕は君より強いんだよ。死にたくないなら…そうだ、君もこっちに来ると良い。口利きしてあがるよ。僕の部下としてね」
自分を強いと思っている奴の心をへし折って跪かせたい。それがさらなる強さを持つ者の特権だ。グランガイザスは強いらしい。でもグランガイザスより強くなったら、逆に支配してやる。今は勝てなくとも、決して心は折れない。心が折れた時が真の敗北。だから、今は、このギャミの心を折りたくて仕方がない。
「お前の気持ちはわかるぜぇランよ…俺も同じだからな…」
「ハァ!?バカにしないでくれる!?知ってるよ、君は魔界のなんとかって大会で準優勝するくらいの武芸者だって。そんな才能ある奴にそんなこと言われたくないね」
「そうさ、俺は自分のことを強いって思ってた。それをあのトッシュに負かされたんだ。屈辱だった!」
「僕が味わった屈辱と比べたら屁でもないじゃないか。そうさ、君はまたトッシュクンに撒けるんだよ。僕の力はトッシュと同じだからね!」
「いいや違うね」
「?」
どうせお前の力はただのコピー、トッシュ本人には及ばない、そんな言葉が来ると思っていた。
「お前はトッシュより強いからな。だって俺はトッシュといい勝負してたんだぜ?なのにこないだ俺はお前に完敗だった」
「へぇ…で、勝ち目のない戦いを続けるわけかい?これ以上やるなら本気で殺してもいいんだよ?」
今まで遊んでいたのだろう。先ほどまでとは全く違う、明確な殺意がギャミに返ってきた。トッシュには無い力。無邪気なまでの純粋な殺意。子供が虫の羽をちぎるような、トンボの首をもいでシーチキンとか言っちゃうような、残酷な殺意。このまま続けたらピクシーのように殺されるのだろうか。
「上等だ…せいぜい足元掬われンなヨ…」
ギャミのプライドが、恐怖に立ち向かう。彼は危機に瀕する魔王軍を救う英雄へとなり得るのだろうか。