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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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46話 英雄、推参②

「あーもー!うじゃうじゃわらわらシコシコときりが無い!邪魔!」


 魔王城にぞろぞろ入城する魔獣を迎え撃つ三騎士トリプルリッターの一人ピクシーだ。彼の持つスクラムハルバートによる打突斬撃は、魔獣ウニヒトデの強固にしてしなやかなその高野豆腐のような表皮をまるで豆腐の様に斬り、砕く。獅子奮迅の括約を見せるピクシーの背後に、一人の少年が近づいてきた。


「うわぁ、えっぐ。すごいですねピクシーさん」

「ラン!貴様何をしている!敵を迎え撃…ッ!」


 その激痛に遮られ言葉を紡げなくなるピクシー。ランの右腕がピクシーの胸を貫いていた。最後に言おうとしたピクシーの言葉を、ピクシーの胸の中で握り潰すように拳を握り、闘気を炸裂させる。そこまでしなくても既に致命傷であったが、ランは早くそれが欲しかった。故に速やかにピクシーの命を断つ。


「これ欲しかったんだよね、スクラムハルバード。Set!me!up!」


 ランは魔界金属製の鎧、スクラムハルバード・ブリガンディモードば奪ってその身に纏う。先代の軍団長トッシュが纏っていたスクラムクレイモアの後継機、ならば当代の軍団長としてこれを纏いたい。


「なにを遊んでおるラン。早く要塞へ往くぞ」

「そう急かさないでよパルパレオス。軍団長としてこの鎧は欲しいじゃん」


 道草を食うランを注意するのは軍団長の一人パルパレオス。グランガイザスに繋がっているという疑惑から取極された次元牢から一体いつ脱出したのだろうか。


「もはや軍団長なんて地位に価値は無いんじゃがのう。グランガイザス様のお力こそ魔王に相応しいんじゃよ」

「このスクラムハルバード、持ち主が死んだらすぐに僕の物になった。まるで誰かさんみたいだね。ころころ飼い主変えて、まるで道具だ」


 ニヤニヤとパルパレオス見つめるランの視線が腹立たしい、一体何様だろうか。この少年の力はパルパレオスが与えた力で、そして今パルパレオスに従ってグランガイザスへ下ろうとしているというのに。


「人のことをとやかく言えんじゃろうが!とにかく行くぞ!」

「一人で行きなよ。客が来たし」


 そこにいたのはランに軍団長の座を奪われたギャミだ。彼もまたこの戦場で戦っていたが、ランの不審な行動を察知してこっそりついて来ていた。可能ならピクシーを助けたかったが、あまりにも突然の出来事、躊躇いなくすかさずピクシーを貫いたランに、反応すらできなかった。


「てめぇら…裏切ったのか!よくもピクシーを!」

「そうだけど。君も殺してあげるよ」


 もはやランのコントロールは不可能と悟り、パルパレオスは一人天空要塞グランガイザスを目指す。


(ふん、力に溺れおって。あの程度の戦士なぞワシはいくらでも作れるんじゃよ、グランガイザス様のお力があればな…)


 そうしてランを置いてパルパレオスは無い体力を振り絞り疾走する。天空要塞グランガイザスの中枢に辿り着いた時、パルパレオスの鼻は、周囲に漂う血の臭いと臓腑の臭いに気付く。人体実験を嗜むパルパレオスにとってそれ自体は不愉快なものではない。むしろ心地よさを覚える懐かしい香りだ。


「なんじゃ…これは…」


 その中枢、天空要塞グランガイザスのコクピット部分にばらまかれた肉は、魔獣の物。まるで無理矢理引きちぎられたように乱雑に避けている肉片は、一体どんな力の持ち主による犯行か。


「俺だよパルパレオス」


 明かりの消えたコクピットの中央の暗闇から聞こえる声は知っている。魔王軍の幹部、魔神指令サガ!


「サガ…様!」

「裏切り者の処断と行こうか。貴様を刺身にしてやるよ」


 コキ、コキと骨を鳴らしながら向かってくるサガに、パルパレオスはすかさず命乞いに入る。あまりにもスムーズな土下座の姿勢、それはつい見事と感心してしまう美しさと速さである。しかし吐き出す言葉は、あくまでも上から目線だった。


「サガ様!仕方なかったのです!もはや魔王イクスの敗北は確定的!貴方も私と共にグランガイザス様の配下になるべきです!」


 グランガイザス軍の力は、サガにも不安があった。だからこそ、フォーゲルの提案する王国の残存軍との同盟を彼も承知した。そして拳を交えた強者、伊集院英雄と彼を従える王国の王子とも同じく同盟を結び、ともに魔王城へとやってきた。まさかもう攻撃が始まっているとは思わなかったので、急いで伊集院をバイクごと謁見の間にぶん投げたが、あの男なら大丈夫だろう。


「フ、我が方に負けは無い。そして貴様は許さない」

「ひ、ひいいいいい!」

 ・

 ・

 ・

 その戦いに乱入して10分ほど時間が経っただろうか。グランガイザスは伊集院英雄に追い詰められていた。魔王イクスが見る限り、あれほど自身の技を見切られていたというのに、それが伊集院相手には全く機能していないのは明らかだ。


(どういうことだ…?完全に後手後手じゃないか…)


 魔王イクスは伊集院との戦うグランガイザスの死角を突くべく移動するが、グランガイザスはその移動に対してはほぼ同時に対処し、不利にならない位置を保とうとする。


(やはり私の動きは読まれている…ふむ。あの見切りは少なくとも私にしか機能しないということか…いや、まさか…)


 その思考に辿り着いた瞬間、グランガイザスの顔色が変わった。その変化を見逃す魔王イクスではない。


(…!そうか、そういうことか。…合ってるんだろう、聞こえているんだろう、グランガイザス!)

(ぐぬぬ…おのれおのれおのれおのれぇ!)


 グランガイザスの持ち、委員たちに与えた聖石はただの石ではない。厳密には石ですらないのだが、とにかく力がある。それはまさに奇跡の力。人の身ではたどり着けない生物の限界を超える力を、持ち主に与える。尋常ならざる再生力を与える肝臓の聖石。無数の骨を生み出す骨の聖石。そして、グランガイザスが持つ脳の聖石が持つ力。


 脳とは思考を司る人体の中枢たる器官である。聖石はその器官がもつ能力に関連した力を持ち主に与える。脳の聖石は、脳が持つ思考を支配する力。それは周囲の生物の思考すらも己の物にするほどの、奇跡。そう、グランガイザスは心を読めるのだ。


 だからこそ、この力は伊集院英雄には、そして勇者ジャスティスには相性が最悪だった。


(螂エ縺ッ縺セ繧九〒蠑ア縺?シ√↑繧薙〒縺薙s縺ェ蠑ア縺?嶌謇九↓鬲皮視繧、繧ッ繧ケ縺ッ闍ヲ謌ヲ縺励※縺溘s縺九↑縺?シ√¥繧峨∴逵溷ョ悟殴?∝渚髻ソ蜑」?医%縺?縺セ?会シ)

(何を考えているのかいっちょんわからん!)


 異界の勇者が使う言語、ジャポニック語族に分類されるその言語は、一般的に日本語と呼ばれている。この四国大陸の言語とは全く異なる言語体系。ジャスティスも伊集院も、まずは言語の壁を超えることが勇者としての最初の試練であり、そしてその壁を越えた。が、生来の言語は日本語であり、その思考は変わらず日本語である。故に、日本語を知らない者にとっては読心術などただのノイズにしかならない。


「ぐわーっ!」


 伊集院が地面に突き刺した剣が、テコの原理により勢いよく上昇しグランガイザスの顎を斬り裂く。これは伊集院が編み出した真完剣の一つ、昇穂剣みずほ


「はっはー!貰ったぞグランガイザス!」


 昇穂剣みずほで上段に移動した刃を、今度は振り下ろす連続攻撃。真完剣・反響剣やまびこ!これでグランガイザスの頭部を砕けばすべてが終わる!勝利を確信した伊集院に、巨大な質量が投擲された!


「うお!」


 すかさず回避する伊集院。その質量は…魔族!巨大な肉体を持つ魔族の…死体!


「あ…誰だよ!?」

「クロホーン…死んでしまったのか…」


 魔王イクスはその投げられた死体が、かつての部下、軍団長の一人クロホーンだとすぐに分かった。魔王軍が今やっているのは戦争である。死人が出るのは当然だが、魔王イクスの胸中に生まれる感情は、やはり否定できない。それは済まないという謝罪の気持ち。魔王イクスを信じたからこそ、最後まで戦ったクロホーンの生きざまを否定することになるので、決してその言葉は言ってはいけないが、せめて心の中だけでは謝りたかった。


「いや、そっちじゃねぇ…あっちだ、アレ誰だよ…」


 魔王イクスはクロホーンの方に意識が全集中させられていたため、気付くのに遅れた。クロホーンの死体をぶん投げてきたその男。謁見の間の入り口に立っているその男の姿。


「…アレは…グランガイザスだな…」

「グランガイザスはここにいるだろ…どういうことだよ」


 伊集院の前で片膝を付いている男もグランガイザス。そして今現れた男も、グランガイザスだった。

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