46話 英雄、推参①
天空要塞グランガイザスが突撃した魔王城に、今また何かが飛来してくる。それは機械と呼ばれるもの。バイクという呼称を持つ異世界の乗り物。CBX1000という名前の、ちょっと前に発売された所謂旧車と呼ばれるバイクだ。それに跨るのは同じく異世界からやってきた青年、伊集院英雄。魔王と戦うために呼び出された彼は、魔王城へ向かって、というより飛ばされて魔王城目前まで来ていた。
「やべえやべえやべえ!このままじゃ死ぬ!死んでしまう!」
一体時速何マイルの速度が出ているのか分からないが、とりあえずCBX1000のスピードメーターは時速kmではなくマイルになっているため、彼はあえてマイルと言うようにしている。実につまらないしょうもないくだらない拘りである。
「ええいやるしかない!不要部分!収納!」
その声に反応し、キエル市の魔じゅちゅ師やら何やらに改造されたCBX1000は変形を開始する。あちこちがあちこちに収納され折りたたまれ、チェーン部分がエンジンの上に移動し、アクセルがエンジン下部に移動し、エンジンも各部の収納により折りたたまれ、そして1台のバイクは1本の剣に変形した。CBX1000の乾燥重量249kg。小さい剣に変化したそれの重量は2.49kg。およそ1/100の質量への変化。空術の応用(空間ジャミングされている区域でも発動できるが、バイク自身にしか使用できないという都合の良い設定)により、各部を異空間に収納することで変形を可能にした。新たな勇者の剣の名、大炎陣ソード!
「エンジン全開!」
柄にしたアクセル部分のセルスイッチを回し、刀身部分のチェーンが高速回転する!
「いっくぞぉー!双隼剣!」
伊集院が編み出した勇者の秘剣、真完剣・一ノ技!その名、双隼剣!一振りで二つの斬撃を生み出す効率の良い技により一瞬で王城の壁面を細切れにし、伊集院は決戦のバトルフィールドに推参した!
「うおあああああ!!!」
悲鳴じみた絶叫を上げながらなんとか着地した青年。突然の出来事に戦いを一旦停止した魔王イクスとグランガイザス。二人とも見知らぬ顔のその青年は、呼吸を整え平静を装うと努めているが、青ざめたそ表情はその焦りを隠しきれていない。
「ハァ!ハァ!えっと、魔王イクスさんはどっち!?俺は魔王と戦うためにこの世界に来た伊集院英雄!ヨロシクゥ!」
誤魔化すように剣を構え、啖呵を切る。とりあえず目的の魔王はどっちなのかわからないので、わからないことは聞かなきゃならない。たぶんボロボロのマントの方がそうなのかなぁって気はしている。
「これはこれは、急な客人で驚いたな。魔王イクス閣下はそちらのボロボロのマントを羽織った紳士だよ」
グランガイザスは元魔王だが、現在の魔王はイクスである。あえて火の粉を自分が浴びる必要もあるまいと判断し、魔王の座をイクスへと譲った。
「フ…魔王の座を諦めたかグランガイザス。貴様の負けだな」
「あー、アンタ様が魔王イクスさんね。じゃあ早速、喰らえ高速剣!」
キン!と甲高い音と共に繰り出された飛ぶ斬撃は、真空破となり伊集院から数m離れたグランガイザスと斬り裂いた。
「グハァ!貴様何を…!」
「言っただろ、俺は魔王と戦うために来たんだ、サガとの約束でね。いやー魔王と戦うために呼び出されたのに、魔王と戦うことになるなんてね。真逆だねHAHAHA!」
「君は…他人の嫌がることをすすんでやるタイプかい?」
グランガイザスを嗤う伊集院に、魔王イクスはつぶやく。気持ちのいい笑顔で答えが返って来た。
「おう、どっちの意味でもな!」