45話 開戦、二人の魔王③
「往くぞ!これが余の力!正に世界を支配する力ぞ!」
叫びと共にグランガイザスの力が発動する。時術、時に干渉する秘法。魔界の歴史においてこれを行使できたものは片手で数えるほどしか存在しないその力、抗う術はなし!
制止している魔王イクスの背後に回り込み、秘拳ガイザスハンマーを背後からぶち込む。時間制止している今の魔王イクスはあらゆる物理的・魔術的干渉も受け付けない。時間が止まっている。つまりはその状態を絶対に維持する。一応動かすことは可能ではあるが、制止する時間はほんの数瞬。ちんたら動かして肥溜めに落とすようなゆとりはない。背後に急いで回って殴る、これでギリギリなのだ。このタイミング、制止が解除された直後にグランガイザスの両手を組んで振り下ろすガイザスハンマーが脳天に直撃だ。
ゴッ!その鈍い音は、骨が逝ったかもしれない。
「ぶぷっ…!」
グランガイザスの顔面にめり込む魔王の裏拳は、グランガイザスの鼻を折った確かな感触を魔王に伝えている。ガイザスハンマーは宙を空振りし、腰のあたりで止まっていた。
「ばかな…!」
「ふん」
ガイザスハンマーを交してぶち込んだ魔王裏拳を下げ、すぐさま体を捻り魔王回し蹴りをグランガイザスの首に入れる。
「ぐえっ」
まるで車に引かれたカエルのような悲鳴をあげ、グランガイザスは地面に倒れる。
(グランガイザスの能力のネタはもう割れている…これだけなら怖い相手ではないが…)
グランガイザスの時術。本人は世界を支配する能力と宣っているが、それは事実ではないことを魔王イクスは知っている。グランガイザスと交戦したイクスシェイドから提言された予測、そしてかつてグランガイザスを滅ぼした勇者ジャスティスからもたらされたかつての戦史。それはグランガイザスを丸裸にしたに違いない。
その支配は世界に及ばない。トッシュやイクスシェイドが体験した、目の前のグランガイザスが一瞬で位置を変える、まるで時間を飛ばしたかのような移動、そしてイクスシェイドが投擲したナイフが、次の瞬間いつの間にか地面に突き刺さっていた違和感。今目の前にいる相手の時間のみを止めているわけだ。時間を止められているのだから、時間が飛ばされたような違和感はまさにその通りである。当人にとってその間の時間は存在しないのだから。
並の相手ならば、その一瞬の隙は致命的なまでに優位だろう。しかし相手は魔界を統べた魔王と称されるイクスである。彼を魔王にのし上げた肉体の神秘。それがグランガイザスの優位を揺るがした。
光速のニューロンと呼ばれる魔王イクスの反射速度は、捉えた情報を刹那で理解し最適な行動を選択することができる。彼にとって1秒の世界は、常人の7秒に相当するほどに圧縮された世界である。グランガイザスがギリギリのタイミングだと思った行動は、魔王イクスにとってはあくびが出るほどまでに隙だらけなのである。
(伊達に魔王を名乗っていないか…だが、まだ終わらんよ)
地に伏せるグランガイザスの頭部を踏み潰すべく、右足から繰り出す魔王スタンプは、次の瞬間地面を踏んでいた。しかし光速のニューロンを持つ魔王イクスは、グランガイザスがどこに移動したのかを一瞬で察する。イクスシェイドほど気配察知を得意としていないが、倒れた位置、体勢、そしてグランガイザスの移動スピードから察した止めれあれる時間の長さから超速で情報を解析し、その地点へと目を向ける。片膝を付くグランガイザスの姿が、そこにあった。既にダメージを負い、まるで生まれたての小鹿のように蹲るグランガイザスの哀れな姿だが、魔王イクスは不安があった。
(能力が割れていることくらい察しがついているだろう…何かあるに違いない…)
ズオァ!とその哀れな姿のグランガイザスからは想像できないほど、圧倒的に放出される邪悪な気配!やはり何か持っていた!
(グギギ…まさかもう使うことになるとは…余の聖石…脳の聖石を…!)