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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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45話 開戦、二人の魔王②

 その頃、八卦五輪大武会。


 実況プラトン(八卦龍拳水派2級、声がイケメン)がアーウィンのマイクパフォーマンスを聞いて、驚きの声をマイクに乗せていた。


「おーっと!なんと地風派首領アーウィン、先鋒を務め、さらにまさかの5人抜き宣言だー!これはどうなんでしょうか解説のメンデルさん!」

「いやー、いけませんねプラトンさん。この五輪大武会の基本的なルールは5対5の星取り戦です。なぜなら勝敗自体が重要ではなく、3000人もの八卦衆の心を動かす技を見せることが肝要。全員が平等に技を見せなければ投票先を判断する情報に差ができてしまいますからねぇ」

「なるほど、ではこの提案は却下されるのでしょうか?」

「いえ、これは明らかにマスター・不知火への挑発ですね。この提案を蹴ると八卦衆たちにあれ、マスター・不知火って臆病なんじゃ?と思われてしまいます。そしてこの提案をしたということは、地風派の他の代表4人にはナシを付けているのでしょう。そしてこの投票先、こんなことを言ってしまっていいのかわかりませんが、皆さんの投票先はだいたい決まっています。つまり5人抜きを果たすことで八卦衆にその力を見せて投票先を変えさせようとしているのでしょう」

「なるほど、これはもう引き下がれませんね…おっと、マスター・不知火が立ち上がった!」


 会場の白虎の方角に立つアーウィンに返答するために、清流の方角にマスター・不知火が歩みを進める。そしてマイクを握り、堂々と、悠々と答えをアーウィンに返す。


「その提案、承る!アーウィンよ、初戦はこの不知火が相手をしよう!」


 マスター・不知火の返答に、実況プラトンがマイクに絶叫を放つ。


「あーっと!なんとマスター不知火!自身も先鋒としていきなり出場だー!これはどういうことでしょうか解説のメンデルさん!」

「おろらくですが、このままアーウィンの提案を呑むだけでは完全にあちらのペースなってしまうと思ったのでしょう。彼に下手に4タテされてしまえば消耗が激しかったからマスター不知火が運よく勝てた、なんて思われるかもしれません。故に完全に平等な条件での勝負に出たというわけです。これで条件は五分、あとはお互いの地力で決まりますよ」

「なるほど!つまり八卦七派を極めたアーウィンと、失われた八卦の天を極めたマスター・不知火の全力の勝負!これは楽しみですねぇ!」


 マスター不知火の返答に会場は盛り上がる。双方の大将と思われた2人がいきなり激突することになったのだ!これは事実上の決勝戦である。もはやこの勝敗次第では、出来レースかと思われた選挙結果に変化があるかもしれない。


 そして審判の試合開始の宣言!共にゴングが鳴ると同時に、鉄甲館最上階総帥室が爆発!爆炎と共に鉄甲館から1人の人影が鉄甲館前の会場へ落ちてきた!


「な!なんだ貴様は!…それは!」


 マスター・不知火は、その会場に落ちてきた男が手に持つ三冊の書物に気付き、叫ぶ!


「者ども!奴を取り押さえろォ!」


 わーっと八卦衆たちがその男、魔王グランガイザスへとなだれ込んだ。


「奴の手の書物!太陰の章!ではあと二つは…そうか!」


 何かに気付いたアーウィンの背後にマユが一瞬でやって来る。


「アーウィン、アイツが魔王グランガイザスさ。ここで仕留めるよ!」

「フ!無論だ!奴があの書物を持っている以上、殺すしかない!」


 会場で八卦衆たちがグランガイザスにブッ飛ばされる様を総帥室で見ているのはトッシュだ。トッシュはグランガイザスの能力が機能しないようにあの会場に聖拳の力を使って吹き飛ばした。おかげで闘気はすっからかんだが、この時のために今まで1ヶ月間学んだ八卦がある。


「見てろよグランガイザス!今回は敗けん!」


 トッシュがグランガイザスと出会う30分ほど前である。、魔王イクスにもまた一つの出会いがあった。


「お初にお目にかかります…魔王、イクス閣下…」

「こちらこそ初めましてだな。名乗らなくとも良い。そなたが何者なのかすぐに分かったよ。………グランガイザス殿」

 ・

 ・

 ・

 八卦五輪大武会開催の1時間ほど前に、時は遡る。王都の中央、魔王イクスの軍が陣を敷く王城改め魔王城南西の上空から、もう一つの魔王城が現れた。


 天空要塞グランガイザス。かつての魔王グランガイザスが作り上げた天空の城。82m×76m×35mという空を飛ぶにはあまりにも大きすぎて現実感を喪失してしまうその質量は、ゆっくりと魔王上にぶつかるように降って来た。ばちこーんと轟音と共に抉れる魔王城、その魔王城にがっつり食い込んだ天空要塞グランガイザスからヴィーンと細い管が一直線に伸びる。その管の先にはギザギザした円錐状の高速回転する突起が備わっている。硬い城壁に差し込み穴を開けるマシン、すなわちドリルであるが、半壊して中身が露出した城相手に特に出番は無く、すぐにその先端部分がパカっと開き、内部から魔獣がぞろぞろと魔王城へと侵入を果たす。ビー!ビー!とけたたましく城内に鳴り響く緊急警報アラームに、魔王軍の兵士たちは侵略者の迎撃を備える。


「野郎!いきなり来たわね!」


 ジャスティスは魔王グランガイザスの性格を知っている。その性格が変わっていなければ、間違いなくこのカチコミに参加していると、知っている。


「イクスさん!私はあの野郎をブッコロすから!」


 返事を聞かずバタバタと謁見の間から飛び出すジャスティスを見送り、イクスは腹心イクスシェイドに指示を出す。


「…よいな?イクスシェイド」

「しかし…それでは御身に危険が…」

「よい、こんな時の為にサガにも頑張ってもらっていたのだ。それよりもジャスティスのことを奴が警戒していないとは思えん。お前が守ってやれ。お前が父親のように接してきたトッシュの母親だ…」

「魔王イクス様のお言葉は、全てにおいて優先されます…。どうかご無事で…」


 そしてイクスシェイドもジャスティスを追って走り出した。王都周辺にはイクスシェイドの空間ジャミングが働いているため空間転移は不可能であり、それは術者本人も例外ではない。故に魔王もこのような直接カチコミをやってきたというわけだ。


 自身一人となった謁見の間に、そして来客が訪れた。その者こそ先代の魔王、グランガイザスである。

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