45話 開戦、二人の魔王①
1ヶ月後、八卦五輪大武会当日
「しっかしアーウィンの奴一人で五人抜きするって大丈夫なんかね?」
「いや実際大分強くなってるさねアイツ。サンが現代に来たのと入れ替わりで過去に残って10数年、ずっと修行してたみたいだし天を除く七派をマスターしているのは大したもんさ」
「アイツも過去に行ったおかげで俺は現代に戻ってこれたんだよなぁ。過去から消えた質量の穴埋めになってなぁ。…過去から未来を変える戦いってのも面白そうだけどね」
小声で話しながら鉄甲館の内部へと侵入するトッシュとマユ。鉄甲館の前面に広がる武舞台に集まる八卦の士たちは、今か今かと開催を心待ちにしていた。鉄甲館内部の警備は無論しっかりと敷かれてはいるが、優れた闘士は大会に出場、審判、大会運営に大忙し。警備員は有象無象に過ぎない。アーウィンの狙いはそこにある。
「勝敗ではなく選挙で総帥が決まる以上、この大会の結果で俺が総帥になりあがることはほぼ不可能だろう。しかし大会の開催中はどうしても隙ができるもの。そこでお前たちに太陰の章と太陽の章を持ってきてもらいたいのだ」
奪うという言い方をしないあたり、アーウィンのこだわりがあるのだろう。元々太陰の章は魔界のダークストーカーの里に置いてるあるものだが、アーウィンはその頭脳により内容を九分九厘暗記している。それを書き起こし、天を復活させるために今のマスター・不知火に接触、マスター・不知火が図書室より持ってきた太陽の章と合わせて共同研究をしていたというのだ。太陰の章はともかく、太陽の章は奪うことになんら変わりは無いのだが。
(まあ、天の技は俺も知りたい。強くなれるなら手伝うさ)
もちろん、だからと言って何もしないわけではない。本当に八卦の士たちを感動させる技を、力を、舞を見せることができたのなら、心を揺り動かす見事な八卦を見せつけることができたなら。彼らはもしかしたら投票先を変えるかもしれない。そのための、五人抜き宣言というわけだ。
「トッシュ、待ちな」
「わかってる」
マユは廊下の突き当りから顔を少し出して見張りがいないかを確認する。総帥室の前には案の定見張りが張り付いていた。
「どうする姐さん?」
「こうするさ」
マユの手からバチっと静電気のような音が鳴る。八卦龍拳、雷の技により生体電流を乱し、視覚聴覚に干渉する。電気信号となった彼らの目に映る光景は脳に届けられることは無い。デリケートなコントロールが必要であるため戦闘中のように激しく動いている場合は使えないが、このように潜入任務には持ってこいだ。
「さて行こうかね」
「なんか前も姐さんとこういうことやったよね。あの時はまさかのグランガイザスが出て来るんだもんなぁ。野郎次会ったら絶対ブッコロだわ」
「はいはい、それよりお仕事済ませるさね」
総帥室の扉を開く。いかにも総帥って感じの部屋だ。虎の皮の敷物が部屋中央に敷かれ、鹿の首から先が壁から生えている。なんか高そうなおっきなおもそうな机だの何だの、いい生活してんだなぁと率直に思うトッシュだった。
「こっちの扉…おそらくここは仕事場で、この先が私室ってことなんさね。多分この中の金庫かなんかに入れてるんさね」
「人の気配は無いみたいだし、行きますか」
ガチャリと扉を開く。その視線の先、総帥私室の中にいた先客と二人は目があった。
「これはこれは…お久しぶりだな」
「先客かい。いないと思ってたんだけどねぇ…トッシュ?」
その先客の顔、トッシュは忘れもしない。かつて敗北を喫した敵の総大将。
「おっま…グランガイザス!」




