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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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43話 喪失、この手にあったその絆①

 二人は兄弟だった。王国の北部に位置する氷の国ヴァイスランド。別名火の国とも呼ばれる、王国を取り囲む風林火山四国の一国である。ヴァイスランドは四国大陸の5国で最も厳しく、幼い子供だけで生きていくことはできない過酷な国である。そんな国だからこそ、孤児を保護する政策も一応は充実している。物心ついた頃から二人は救貧院で過ごしていた。過酷な肉体労働、粗末な食事、そして孤児たち同士によるストレス発散の暴力。そこは、地獄だった。


「身体を見たいわ!その子の裸を見せてちょうだい!」


 ヴァイスランドの孤児を収容する救貧院でその日、二人は裕福な40代半ばといった太めの夫人の獣の様な目に晒される。二人は齢10代前半の思春期で、眉目秀麗な顔立ちをしており、さらに救貧院の肉体労働で鍛えられた体は幼いながらも程よい筋肉に包まれている。実に食べごろの時期で、実りも良い。夫人は満足し、救貧院に多額の“寄付”をし、二人を引き取る。決して気持ちのいいものでは無かったが、地獄からの脱出。二人にとってそれは渡りに船。だが、その船出は新しい地獄の始まりであった。


「いいわぁ…アスタバンちゃん。あなたほんとにかわいいわぁ…」


 兄弟の兄アスタバンは、弟ドゥバンを庇い、いつも夫人の遊び相手となっていた。夫人としてもたまには弟ドゥバンで遊びたかったが、いつもしゃしゃるアスタバンが弟を思ってのことだとわかっており、敢えてその目算に乗り、ドゥバンには手を出さない。ドゥバンは兄にいつも謝るが、兄アスタバンは弟を安心させようといつも大丈夫だよと声を掛け、二人寄り添って眠りに就く。この尊い兄弟の絆を、どう汚してやろうか。夫人は兄弟のお互いを思いやるやさしさと、かわいい寝顔に欲情し、自らを慰める。


 ある日のこと。夫人はアスタバンとドゥバンを呼び出す。アスタバンはいつものようにドゥバンを庇い婦人にバター犬の如くすり寄るが、婦人はアスタバンを止める。ついにドゥバンに手を出すのかと戦々恐々のアスタバンを安心させるように、婦人がやさしく囁く。


「アスタバン、大丈夫よ。私はドゥバンに何もしないわ」

「ほんとうですか!?」

「えぇ…ドゥバンを犯すのは貴方よ」

「!?」

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「さぁ、アスタバン…ドゥバンの唇に貪るようにしゃぶりつくのよ」

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「ドゥバン、アスタバンのをしっかりを嘗め回すの。もっと吸い付きなさい。アスタバンを気持ちよくさせてあげるのよ」

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 ・

「アスタバン、元気になったわね。さぁ、それをドゥバンに入れなさい。私にいつもしているように、さぁ」

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 その日の夜、アスタバンは夫人を殺害し、ドゥバンを連れて屋敷から逃げ出した。

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 ・

 ・

10年後。



「兄さん、ごめんなさい。僕が要領悪いから…」


 今日の仕事もアスタバンのおかげで大成功。脚を引っ張りがちなドゥバンは、アスタバンに謝る。本当に頼りになる兄に、誇らしくも嫉妬する気持ちも否定できない。そんな自分が情けない。ドゥバンの謝罪の中にはこの部分も含まれているのだろう。


「気にするなドゥバン。私がしっかりフォローをするから安心しろ。だから私が困ったときは助けてくれたまえよ」

「うん、もちろんだよ兄さん…」


 アスタバンはこう言っているが、アスタバンが失敗することは無かった。二人はあの後スラムで過ごしたが、生来の才能からスラムの王となり、その腕を買われて反社会勢力の傭兵となり、その反社を内部から崩壊させその資産を自らの物とし、大陸を転々と渡り歩いていた。王国でも屈指の傭兵であるベオウルフですら、アスタバンとドゥバン兄弟の名を聞くだけで逃げ出すほどに名を上げた兄弟だったが、その実アスタバン一人の実力で評判を得ていた。


 その日届いた新たな依頼は、『聖石』と呼ばれる貴重な石をフィリップ伯爵から奪うこと。依頼主は王国最強の貴族超爵の地位に就くブラッド・フォルファントリー36聖。そして忍び込んだ伯爵家で、アスタバンの運命が狂う。


 盗む前から、仕事は終わっていた。なぜかその手の中にいつの間にか握りこまれたその『骨』を、アスタバンは一瞬でそれが聖石だと理解した。理由はわからないが目的のブツを手に入れたのならばすぐに逃げるが吉。しかし追手が迫る。超爵から聞かされた伯爵の持つ最高戦力、『東方不敗ロードゼファー』の異名を持つ少年兵だ。


 勝ち目はない。まともに戦えばドゥバンも殺される。だからアスタバンはドゥバンに聖石を託し、ゼファーを食い止める。結果は案の定、首を刎ねられ殺されてしまった。しかしドゥバンはどうやら逃げ延びたようだ。ドゥバンが生きているなら、それでいい。


 しかし妙だ。なぜ既に死んだはずの自分が、ドゥバンが逃げ延びたという現実を把握しているのか。なぜ今もドゥバンのことを考えているのか。なぜ、刎ねられた首が繋がっているのか…。なぜ、ドゥバンに託した聖石が、この手の中にあるのか…。


「アスタバンよ、お前は選ばれた」

「…選ばれた?何に…?」

「お前が押し殺してきた心が、聖石ワレを呼び起こした。さぁ己の心を解放しろ。新しい人生を思うままに生きるのだ」


 そして目覚めたアスタバンは、アスタバンではなくなっていた。狂ったアスタバンを救うためにドゥバンは戦いを挑み、そして敗れる。


「私が困ったときは助けてくれたまえよ」


 兄の言ったその言葉、交した約束。守ることもできずに死んでいくドゥバン。彼はその約束を、見知らぬ誰かに託すことしかできなかった。

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