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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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42話 肝臓、超爵の聖石②

緑色の髪でメガネをかけた大人しそうな子が好きです

「ここは通さない!アルくんから出て行ってもらう!」


 アルの脳内に存在するミジンコより小さいミニアカネが、金属糸を繰り出し超爵細胞を拘束する。赤黒い粘着質の物体の超爵細胞は、自らを縛る糸の網目から小さく分裂し、拡散する。広がる細胞だったが、アカネの周囲に散布されていたハイパーチタニウム合金製のナノマシーンが細胞たちを攻撃し、その活動を制止する。


 その超爵細胞の一つが、人の形状へと形を変えていく。その姿は先ほどまで屋敷にいた超爵と似てはいるが、若い。全身の形を変えることができるのなら、自分の理想の姿、全盛期の自分の姿にもなれるのだろう。何とも羨ましい能力だ。


「…君の姿、全身銀色だな。あの魔道金属の四肢の欠片か…しかしなぜ…」


 先ほど、アルはアカネの手を握りしめた。その際、アルはアカネの義手にとある指令を下す。アカネの体内に存在する異物を殲滅しろ、と。アカネの義手となったハイパーチタニウム合金の現在の所有権者はアカネである。指令を下せるのはアカネのみであるが、とある条件下に限りアルも指令を出せる仕組みになっている。備えあれば憂いなし、万一のためにこの機能を設定しておいて良かった。


 その条件とは、アルとアカネの義手であるハイパーチタニウム合金が接触をしていること。手を握りしめた際に、アルの手をアカネの義手から製造した金属糸で接続、これにより常時接続となり、遠隔においても操作が可能となる。128kbpsもの通信量を誇るワイヤーにより細かな指示を義手から作り出したハイパーチタニウムナノマシーンへと伝え、アカネの体内を捜索する。しかし体内で、いや胎内と言うべきか、発見された異物はそのお腹に宿る新しい命だけであった。アルの脳裏にふと過る思考、アカネの幸せのためにやったほうがいいのではと考えてしまう。


(…ここで死産…させる…か…?)


 しかし堕胎すならアカネ自身がその道を選んでいる。その選択をアルが捻じ曲げることはできない。そしてこの新しい命は、絶望の中にいたアカネを支えた希望でもあった。死ぬよりも苦痛が続く日々の中、望まずして母となった身であった。最初は妊娠することを怖がり、それでも容赦なくアカネの中で果てる男たち。妊娠は避けられず、宿わされたその命が、嫌だった筈なのに、いつからか愛おしく思えるようになった。それは逃避、そう思い込まなければ耐えられなかったというだけの、脳が生きるためにもたらした反応にすぎない。


 それでも、アカネを支えてくれた恩人だ。


 なぜ、恩人を殺すことができようか。


 アルは戦いの中で戦いを忘れてしまった。アカネのことを思うからこそ、超爵細胞の襲撃に気付けなかった。超爵はアカネの体外、燃えるような赤い髪を結ぶ髪飾りに偽装していたそれが、アカネの意識を奪った。


 アカネを人質にとられたアルは、最後に自らの意識を失う前にワイヤーを通して自らが持つ魔力の97%をアカネの四肢に送信した。先ほど見た強姦魔ラファエルのマジックアームをヒントに、アカネの四肢を織り成すハイパーチタニウム合金へ送り込み、反応させることで超魔道金属へと変化したハイパーチタニウム合金。その変化によりアカネはこれまで以上に繊細な金属操作を可能となった。


 同時に、アカネの体内をパトロールしていたハイパーチタニウムナノマシーンがアルの危機をアカネに通報する。その信号を阻害していたのはアカネの体内へさきほど侵入した超爵細胞、こいつがアルに入るためにアカネから出ていく。その時、アカネは目を覚まし、アルを救うためにその手を握りしめた。


「守護されてばかりじゃない!私もアルくんを守護るんだ!」


 アルがそうしたように、アカネはハイパーチタニウムナノマシーンをアルの体内へと送り出す。全身の至る場所で超爵細胞たちとハイパーチタニウムナノマシーンたちが激突する。その中で、超爵細胞の…否、超爵の姿へと変わった本体細胞と、アカネを模したハイパーチタニウムマイクロフィギュアが本丸の脳で死闘を繰り広げる。


「なめるな小娘が!このブラッド超爵が持つ聖石の力は肝臓!人体最強の再生能力を持つ我が細胞の前では一度壊れたら終わりの貴様ら無機物など敵ではないわ!」

「ぐうううう!」


 超爵細胞たちの一斉攻撃にハイパーチタニウムナノマシーン軍をじわじわと押しつぶすように信仰する。これ以上すすまれたらアルの脳の中枢、自我を作り出す帯状回の中央部である。これはピンチか!否!ピンチはチャンスである!なぜ超爵はわざわざ自らの能力を解説したのか!そこに潜む勝機!


(本当に再生能力がすごいならわざわざ言わずとも勝ちは変わら無い筈…!あえて圧倒的だと誇示してこちらの意気を削るためか。じゃあ何のために?理由は一つ!戦力差はそこまで無いということ!再生能力の限界か、少なくとも長期戦は不利なのは間違いない!ここを凌いで押し返す!)


 最後の最後でしぶといアカネの防御を超爵は崩せない!土俵際が本当の相撲!土壇場の逆転など相撲においては珍しくもない!


「グググ…おのれぇ!」


 如何に超大な再生能力と言えども、無限の再生はできない。再生のための栄養がなければ何もできない。再生などもってのほかだ。想像以上の抵抗に細胞たちは栄養を失い、再生能力を失っていく。


「だがしかぁし!」

「え!」


 アルの手を握りしめ、アルの体内のハイパーチタニウムマイクロフィギュアやハイパーチタニウムナノマシーンの操作に集中するアカネ本人は、『それ』に全く気が付かない。アルの全身に纏わりつく超爵細胞が、アルへと飛びかかった!


 バチィ!しかしまるで高圧電流に弾かれたような音とともに、飛びかかった超爵細胞が真っ黒に焦げる。さしもの再生能力を持ってしても、もはや復活は不可能なのは目に見えて明らか。人間の体温が42度を超えると熱凝固が生じ生命に致命的な影響を及ぼす。この焦げ臭い匂いはその限界体温をゆうに10倍近く上回る熱量だ。


 その電流はアルの魔力を宿すアカネの四肢から生まれた。アカネにもアルにも影響を及ぼさない、対象を完全に選択したその電流は、そう、アルが生み出したものだ。アルの意識は無くとも、アルの全身に巡っているアカネの意思が、アルの気持ちを受け止める。


「そうだね、君が私を守護ってくれている。そして、私が君を守護る!」

「クッソー」


 もはや再生能力の限界に差し掛かった超爵細胞たちは、本体を守るようにアカネに立ちふさがる。本体細胞はすかさずアルの体外へと脱出し、首から上がとれた超爵の遺体を目指す。


「やあああああ!」


 アカネが超爵細胞たちを殲滅すると同時に本体細胞は超爵の遺体に到着、すかさず再生活動に入る。刹那の間を置き、アルが意識を取り戻した。


「アルくん…!」

「ごめん、アカネさん…」

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