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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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41話 陵辱!産め、王の子を!③

 以前のアルは感情が無かった。今のアルは感情があるが記憶が無い。魔術のコントロールには感情の力が作用する。アルの魔術の才能を危険視したグランガイザスの呪いにより、感情を封じられた結果、人形のように生きていた…らしい。アルにとって人形時代の記憶は、たとえ覚えていない今でもロクなものでもないだろうと察しており、記憶を取り戻したいという感情は1mmも湧かない。感情が、喜び楽しみがあるから人生は楽しいのだから。


 そして逆も然り。怒りが悲しみがあるから、人生は辛い。感情が無い時代のアルは、その双方向に極端な感情を抱くことでグランガイザスの封印を解除することができた。解除しようとしたものではなく、結果そうなっただけ、ではあるが。


 アカネと出会ったあの日。心と体に深い傷を負ったアカネという少女との出会いが、アルの心に刻んだ傷。新しい命をお腹に宿しているアカネの絶望、生きたいと願ったからこそ生まれたアカネの絶望。あまりにも不快な畜生どもの所業。


 だから、アカネを守護りたいと思った


 故に、アカネと一緒にいたいと望んだ。


 そして、アカネの幸せを願った。


 そのために、無かったことにはできなくとも、二度と思い出させたくない絶望の記憶を。よりによってその絶望を与えた賊の一味たるラファエルが何を血迷ったかアカネを守護ると宣っている。アカネの悪夢を砕こうとするアルの拳を止めたのは、他でもないアカネだった。


 私の為に争わないで


 たしかにアカネのためにやっていることだ。でも、これは本当にアカネのために拳を振るっているのだろうかと、アルは同時に考える。自分が吐き出せないこのつらみを当たり散らすのにラファエルがちょうどいいからそうしているのかもしれない。そう、八つ当たりだ。本当に辛い思いをしたのはアカネ自身なのだから。自分がやっているのは断罪でも誅罰でもないのだ。


 本当に、アカネが望まなければ、このラファエルを殺してはいけない。いまラファエルに親しみを感じているアカネの心に新しい悲しみを刻んでしまう。こんなことならあの時に逃がさずに殺しておけばよかった…でもそうしたら、結果論ではあるがアカネはペロの仲間に攫われていたかもしれない。


「アカネさん…君は、俺がこの男を殺したら許せないか?」

「…何か理由があるんだよね。アル君が何も考えずにそんなことする子じゃないってわかっているから」

「…」


 しばしの沈黙ののち、アルに跨られているラファエルが口を開く。


「アル…俺は後悔しているんだ。だから茜ちゃんを、茜さんのために生きたいとそう思ったんだ」

「ラファエルくん…?」

「アル、頼む、何も言わないでくれ。勝手なことだとわかっているが、それでもこれを言わないとダメなんだ。結果どうなろうと俺は、受け入れる。受け入れなきゃいけない」


 アルは全身に力が入らない。ラファエルはアルを押しのけ立ち上がり…そしてアカネへ向かって頭を地面に擦りつけるように跪く。土下座だ。


「茜さん、貴方をあの山で攫ったのは私です!貴方に一生消えない傷をつけてしまった許されない男です!許してくださいとは言いません!ただ貴方に謝りたかった!本当に申し訳ありませんでした!」


 アルの耳に入る自分勝手で不愉快な謝罪の弁。もしアカネが許すのなら、それはアカネが望んだこと。アルは受け入れるつもりだった。そして、幸いにもアカネはそこまで愚かではなかった。


「最低」


 その言葉にラファエルは目を開く。地べたに張り付いているため見えるのはカルバリン宅の屋上の地面だ。このまま前を向いてアカネの顔を見たいところだが、ラファエルはそれも今の自分には許されないことだと理解し、そのままの姿勢でアカネの言葉を聞く。


「あなたにされたことで私の人生は狂いました。私だけならまだ我慢もできました。でも、あなたたちは私の他に多数の女性をレイプして、奴隷商人に引き渡してます。それは私だけで許せることではありません…。あなたたちがいままでその毒牙にかけた人たちをみんな助けるまで、二度と私の前に現れないで!」


 アカネもまた、アルと同じだった。自分のことなら許せる。しかし、被害者は自分だけではない。自分以外の人が受けた苦しみを、自分が許せるような傲慢さは持っていない。…というのは建前だ。アカネは純粋に自分を何度も犯したあの山賊一味を、ずっと許すことができない。


「わかりました…私たちが傷つけた女性皆に謝るために、みんなを助けてみせます…!」


 ラファエルは自らの顔がアカネの目に入らないように器用に立ち上がり、そのまま屋上から飛び降り姿を消す。後に残った静寂を破ったのはアカネだ。


「アルくん、知ってたんだね、アイツの正体…。」

「…」

「私バカだなぁ…アイツのこと、いい人だなって思って…」


 アカネの目に涙が滲んでくる。アルはアカネを抱き寄せようと手を刺し伸ばし、躊躇う。腕を戻してアカネを落ち着かせるようにささやく。


「アカネさん、もしアイツが全員を助けたとしても、君はアイツを許す必要はないよ。いや、アイツラに攫われた人たちはみんなアイツを許さないと思う…」

「うん…ごめんねアルくん、私がこうなるから黙ってたんだよね…。でも知ってよかった。納得するってことは何よりも大切だ。わかったからアイツがいなくなってせいせいしたよ。知らなかったらアイツを心配してたんだなって思うし」

「そう…だね。じゃあ、少し下がってて。あの野郎がまだ生きてるから」


 暗闇の奥に、それはいた。頭部を踏み潰したというのに生きていたそれが、ベオウルフの肉体を乗っ取り、そこにいた。


「茶番は終わりか。さて、アルよ。親子の話を再開しようか」

今朝のニュースでぼくのはじめての彼女の処女をレイプして散らせた男の名前とコメントと画像が出てきました。すっかり人生の成功者で年収一千万とかあるんだろうなぁと羨ましく思いました。とりあえずマイナンバーカードは申請しないことにしました。

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