41話 陵辱!産め、王の子を!②
「しかしかわいそうだね流星も」
グランガイザスにこれから抱かれる流星を心配するステロイド大公だったが、ガンゾウ子爵は大公の心配を切って捨てる。
「大した事ではない…早いか遅いか、惚れた相手かそうでないか、その程度の違いでしかない」
「おや、オフィーリア子爵は白状だな」
「…その名は捨てた。今の私はガンゾウだ、そう言ったはずだが」
爵位が遥かに上の大公へ向かって言い放つ子爵の言葉には、隠しきれない怒気が含まれていた。
「失礼、いや変な名前だなと思ってね」
「…我々には仕事が控えている。決戦は近いのだ。おふざけは控えてもらいたい」
「そうだな、流星を決戦で失いたくないから王さまも彼女を抱くわけだしな」
それから90分後、ガンゾウ子爵は私室で小瓶の中身を眺めている。小瓶の中は黒くぐずぐずとした粘着質な物体が入っていた。至る所に点在する穴からは膿のような液がじんわりと滲んでいる。
「なにが聖石か…うそつきめ。委員たちも所詮は道具にすぎんか。いや、おそらくはあのグランガイザスも…。まぁいい、私はそうはいなぬさ。超爵なんぞよりうまくやって見せるさ…」
・
・
・
時は90分遡る。アルとラファエルの決闘というよりは喧嘩のような二人の戦いを、アカネは困惑した様子で見ている。
(え?なんで?なんでアルくんがラファエルくんを?)
アルの怒りに任せた拳がラファエルの義手を殴りつける。
「ぐぅ…!こいつこの腕のことをもう…!」
ラファエルの右腕義手の前腕と、アルの右拳がまるで鍔迫り合いのように鎬を削る。
「…その右腕、アカネさんを苦しめた代償とでも言いたげだな」
「まさか…、この腕は茜ちゃんを守護するために手に入れた力だ…!」
「守護るっててめぇが言うとすっげぇむかつくんだよ…!」
アルの拳が強引にラファエルを押し込む。蹴りに行くのも左腕で掴むのも選択肢にはあったが、真向からぶち破る、アルは心情的にそれしか選択ができなかった。
「くっ…!」
ラファエルの義手に秘められた魔法エネルギーがガンガン消費されていく。初手のアルの魔法を吸収したことで余裕ができたのだが、アルはもうこの義手が魔法吸収効果を持つことをすぐに察したようでもう魔法吸収はさせてもらえない。このままではジリープアーである。
そのまま吹き飛ばされ倒れるラファエルに、アルが追撃のマウントポジショウンへ移行する。この二人の会話はもはやアカネにも聞こえないだろう。それくらい顔が近づいている。
「詫びを入れなきゃいかんのはわかっている…おれはそれだけのことをしたんだ…茜ちゃんが俺を憎むならそれで構わない、俺を殺すって言うなら殺されるつもりだ。でも、もし彼女が俺を受け凍てれくれるなら…」
ラファエルの言葉を遮るようにアルが怒りを孕んだ声で叫ぶ。叫ぶというのは静かな小さな声、しかしたしかにその声はアルの心の叫びを内包していた。
「ふざけるな…!それはてめぇの自己満足だ…!お前が楽になりたいだけだ…!お前がアカネさんを思うなら一生黙ってろ!アカネさんにあの時の記憶を絶対に思いださせるな!」
世界を改変する大時間魔術。外出から帰ってきたトッシュから聞いたその魔術が、もし自分にできるなら間違いなく3か月近く前の、アカネがゴート山賊団に攫われたその日を変える。アルにとってもそれだけ忌むべき記憶、自分のことではないからこそ、絶対に割り切れない記憶。一番苦しいのは本人なのに、それなのに自分がとても苦しいと思ってしまうのが許せない。わかっていてもどうしようもないこの葛藤が、アルの心を引き裂いてしまいそうになる。
「やめて!」
突如、アルとラファエルに届く声。声の方へ二人が目を向ける。アカネが二人に向かって叫んでいた。アカネはこの状況を止めるにはどうすればいいか考えていた。と同時に、もしかしたら…これは言ってもいいのかもしれないという期待もあった。ラファエルに助けられたとアルに説明し、そして搬送されたラファエルをアルの前で探し…そしてついに出てきたラファエルに突如殴りかかるアル…。これは…そう…この喧嘩原因は…!
「わ…私のために争わないで!!」
言ったー!ついに言っちゃったー!女性が行ってみたいセリフの第一位!ちなみに男性が行ってみたいセリフの第一位は、ここは俺に任せて先に行け!(中島調べ)である。いつかトッシュくんが言う場面があるかもしれない。