41話 陵辱!産め、王の子を!①
アルがカルバリン男爵宅でバタバタしている頃、天空要塞グランガイザスで一つの陰謀が実行されようとしていた。
「流星、エイリアスボディでお前の能力のコピーができたわけだ、ここんとこ働きづめだったし休んでも良いぞ」
グランガイザスは手元に残った最後の勇者の子流星を気遣う。流星は魔王軍に属するイクスシェイドの空間転移による奇襲から要塞を守るために要塞を中心に半径200mの範囲に空術ジャミングを常に広げていた。空術ジャミングが効いている範囲では、空間転移は使えない。これは空術使いの闘いの基礎である。そう、イクスシェイドも王城周辺に同じジャミングを展開しているため、グランガイザス側も空間転移による奇襲はできないということである。
「…あの委員会の老人たち、か。王さまの聖石でパワーアップして、俺の能力もコピーして、俺はもう用済みってことかい?」
その気遣いは、流星にはリストラ宣言にも聞こえた。グランガイザスは流星の兄弟たちを不要と切り捨てた。自分も不要と捨てられるのか。希少な能力は量産され、流星は価値を失ったに等しい。捨てられるくらいなら全然平気だが、いろいろ知っているがため捨てるとは命を奪われることだろう。こんな事態のためにゼファーやビィを身代わりにしようと画策していたのだが、天空要塞グランガイザスの起動という想像していなかった事態にどう対処するかを考え、そして妙案はいまだ浮かばなかった。世話人や警護と称する見張りが付けられ、グランガイザスが流星を守るために張った時間結界は牢獄でもあった。この時間結界内では時間経過が遅く、ジャミングを解除してすかさず転移で逃げるまで2秒でできたとしても、外部での時間経過は3分になる。逃げ出す前に感づかれてとっつかまるだけだ。そしてとうとうその時が来た、と流星は観念するしかない。
「何を勘違いしているのだ?余はお前の能力を買っているのだよ」
グランガイザスが言っている最中にジャミングを解くも、すでに別の誰かのジャミングが周辺に張られていた。これでは流星が転移することも不可能だ。
グランガイザスの背後から、二人の委員がやってきた。一人はガンゾウ子爵。角の生えた面長な動物の頭骨を仮面に被る、その白い頭骨以外は真っ黒ないかにも謎の人物な雰囲気のこいつは、名前は男っぽいが声は加工されて性別すら不明。そしてもう一人はステロイド大公。超爵に次ぐ大公という地位は、王国貴族でも有数の権威を誇る。彼はその権威に恥じない筋力を誇り、デストロイ辺境伯と並ぶ王国でも珍しいパワー系の貴族だ。
「…ッ!」
聖石の力と流星の能力を持った二人の委員の登場に流星は身構える。二人だけではない。その二人の後ろには魔獣ウニヒトデもいた。
「警戒するな流星。余はお前の能力を誰よりも買っている…IIはまだ10歳でな…子を産むには早すぎるのだ…」
「…!」
グランガイザスが言い終えるより数舜早く、ステロイド大公が流星の背後に回り込み、両腕を拘束する。スチール缶すらも握りつぶすステロイド大公のパワーに抑え込まれる流星に、ガンゾウ子爵が変声機で加工された声でささやく。
「お前のその男のような口調、振舞い。それはもうやめにしよう。お前は王の子を産むのだ。…母になるのだから」
流星はこういう時が来るのを恐れていたのかもしれない。それが、彼が…いや、彼女が男のように振舞ってきた理由なのだろう。自分は男だと周囲に大げさに見せつけることで、貞操を守ろうとしていたのだろう。しかし、結局のところ彼女は女であり、その『子を産む母体』となる女性特有の能力を、グランガイザスは重視していた。
「やめろ…やめろ…やめてよぉ…」
ウニヒトデの毒を受け、立っていられない流星をグランガイザスは優しく支える。
「さあ休憩室へ行こう…」