4話 急襲!ゴート山賊団をやっつけろ!
「ブヘヘヘ!今日もご飯を貰いにやって来てあげたぞ!さぁ寄越したまえ!」
ゴート山賊団部長級ファイターのランスロットが12人の手下を引き連れてやってきた!今日もインサラウム村から酒か女、いやその両方を奪うために。村の門は過去の襲撃で既に破壊され自らを守る術がない。村長がランスロットの前に平伏する。
「ランスロット様…あいにくこの村にはもう食料も酒も残されておりませぬ。」
「嘘はいけねぇなぁ!知ってるんだぞまだこの村にはお米があるてことくらいよぉ!」
「…これは村人の命を繋ぐための最低限の備蓄にございます…。村人が飢えて死んでしまってはランスロット様に今後献上することすらできませぬ。なにとぞお目こぼしを…。」
「俺はお米を持ってこいって言ってんだよォ!あと女ァ!」
ゴート山賊団はこんな調子で過去いくつも村を壊滅させた蝗害のような連中だ。自らのエサを自分たちの手で壊滅させる頭の悪い奴らだ。そんな悪い頭は付いている意味が無い。突如飛んできた片刃の剣がランストットの頭部を貫いた。足りない頭ならなくなっても差し引きゼロである。
「な!ランスロット様が死んでしまった!」
ざわめくゴート山賊団の前に現れたのは、先ほどミサキと一緒に村にやって来た少年。10代中ごろといった風貌の、記憶喪失の少年。山賊に襲われたミサキを救ったという彼に村長は感謝を示し、村での生活を許可した。そんな彼が突然山賊に反旗を翻したのだ。えらいことになったかもしれないと頭が痛くなる。こんなことならよそ者を招くべきじゃなかった、と。そしてその不安はあっという間に覆った。
「な…全滅!12人の山賊団が、3分も経たずにか!」
村長はあっという間に山賊を壊滅させた少年に希望を見た。まさに村を救うために舞い降りた英雄、18年前のアルベルトの再来だと。
「村長。このまま山賊団をやっつけてくる。もしかしたら行き違いで山賊が来るかもしれないけど、その時は食い物をすぐに差し出して。どうせ壊滅させたら回収できるんだし。あ、この山賊たちの死体も片付けといたほうが良い」
「う、うむ。わかった。頼んだのじゃよ」
「さぁ行くぞ生き残りの山賊。お前の名前は?」
「ヒィ!あ、あっしはラファエルって言いまさぁ。どうか命だけはお助けくだせぇ!」
「うん、じゃあお前らの巣に案内してもらうか」
「ヘイ、お任せくだせぇ!」
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山賊の巣は洞窟だった。元々炭鉱だったその洞窟はすっかり資源もなくなり放棄され、いつしか野盗が集まるようになり、ゴート山賊団を結成することになった。その結成は今から3年ほどまえである。その山賊団社長はかつては騎士団の出らしく、騎士団の追撃を巧妙に躱して略奪に励んでいた。攫った女を人買いに売り、財をなしていた。
「チッ!おいアカネェ!てめぇ最近緩いぞこのアバズレがぁ!」
「…ッ!」
ベッドの上で殴られる女性の名はアカネ。2か月ほど前妹を守るために自らを囮にした勇気ある彼女は山賊団社長ジークのお気に入りとなり、人買いに売られることなくずっと辱めを受けていた。
「大変です社長!」
「なんだぁ!今は忙しいんだぞ!」
「ヒッ!そ、それがヘラクレス課長とローラン主任が死体になっていまして…!」
「なんだとぉ…」
ヘラクレスとローランはゴート山賊団でも割と強いファイターだ。その二人はミサキを襲い、アルに殺された山賊である。アルは二人の実力からヒラだと判断していたが、実際は山賊団でも手練れであった。その手練れが殺されたとなれば騎士団がついにやって来たのかもしれない。逃げるべきか、返り討ちにすべきか。彼は迷う。そして出した結論。
「テメェら!逃げるぞ!幸いランスロットの野郎が営業に行っている今がチャンスだ!あいつらが囮になっている間に…!」
服を着ながらヒラ山賊に指示を出していると山賊たちの悲鳴が聞こえた。
「なにィ!もう来たのか!」
うぎゃー!ぐえー!ママー!山賊たちが断末魔を上げ命を散らしていく。因果応報というものだろう。奴らはこれまで奪う側だったが、ついに自分が奪われる側となったのだ。自らが詰んできた命は、最後まで助命を願い、それらをあざ笑うかのように切り捨て、売りさばいた。
「どうだ?自分たちが奪われる気分は?命乞いをしてみるがいい。今まで何度も見てきただろう?」
「ヒィィ!お助けを!ご慈悲を!」
「だめだな」
アルはサクっと切り捨てる。害虫は駆除しなければならない。ここに救うのは人間ではない。寄生虫だ。虫を処理するのに何のためらいがあろうか。
ジークは洞窟内の騒ぎから侵入者の人数が一人であることがわかった。もし騎士団が多数で来ていたのならば逃げるしかないが、相手が一人ならば打つ手はある。これまでもそうやって刺客を返り討ちにしてきた。ジークにはとっておきがあるのだ。
「ヘッ相手が一人ならこのジーク様の切り札で余裕よ」
ジークはアカネを持ち上げる。とても軽いその体は剛腕を誇るジークならば左腕一本で持ち上がる。肉の盾。相手が正義マンならばこれを見せることで一瞬で無力化できるのだ。
「…!」
今まで感情の起伏に乏しかったアルは、記憶を取り戻して初めて自らの感情が揺さぶられたのを実感した。山賊のボス、ジークが左手に持つ生きた盾。シークが手に持つ珍しい赤毛の女性はもしかしたら話に聞いたミサキの姉かもしれない。そしてその女性は、変わり果てた姿となっていた。少し膨らんでいるお腹もそうだが、何より人としてあるべきものが欠けている。腕と脚。持ちやすいサイズに加工されたアカネは、その上腕と腿から先を切断処理されていたのだ。その痛ましい姿に今まで空っぽのように思っていた自分の中身が怒りで満たされたのがわかった。
「ブヘヘ!…どうだこの女はまだ生きてるぞぉ!さっさと剣を捨てろォ!この女、アカネちゃんがどうなってもいいのかぁ!?」
その名を聞いてやはりミサキの姉だったと確信する。肉の盾で自らを守るジークを前に、アルは打つ手がない。アカネを見捨てることができるならば勝利など容易いが、今のアルにはそれができなかった。
(今の俺…?以前の俺ならできた?)
「なにボーッとしてやがる!さっさと剣を捨てろォ!」
「…」
ガン!とアルとジークの間に突き刺さる剣。アルは剣を放り捨てたのだ。一瞬アルは人質を見捨ててもジークを討とうとしたのに戸惑いを覚えていた。しかしそれはいけないことだと理解し剣を捨てたのだ。
「ブヘヘ…その甘さが命取りよ!おいラファエル!そのガキを刺し殺せ!」
「ヘィ!コイツをぶっ殺したらアッシ昇進させてくだせぇよ!」
「全く調子のいいやつだ!良いだろう、お前を主任見習いにしてやる!」
アルの脇腹を抉りにラファエルがナイフを構え突撃!ゴキィ!次の瞬間、ラファエルの腕があらぬ方向に曲がっていた。
「うぎゃあああああ!」
「な、テ、テメェ!」
大人しく刺されるアルではなかった。あっという間にラファエルを返り討ちにしたのだ。当然ジークが次に取る行動はこうだ。
「この女が死んでもいいのかぁ!」
「…それは困るが、そうなると困るのはお前も同じだと思うが?」
「ぐぬぬ…」
そう、アカネを盾にしているからこそ手が出せないのだ。アカネを殺すことこそジークの詰みとなる。しばしの沈黙が二人の間に生じた。ジークは逃げることを考えているが、入り口を抑えられて動けない。アルもまた、ジークが癇癪を起してアカネを殺してしまいかねないので動けないでいる。
「…おいクソガキ、自分の両足をそのナイフで刺せ!」
「?」
「そうしたらこの女を返してやる。悪い条件じゃないだろ?」
このままでは逃げることはできない。かといってアカネを返す代わりに逃走を見逃せなんて条件を飲んでくれるとは思えない。仮に了承してもすぐ反故にされるのは目に見えている。ならば追えないようにすればいい。両足を潰すことで追えなくしてもらうのだ。もちろんそれだけではない。逃げる直前にはアカネの脇腹をナイフで抉り捨てる。こうすれば手当てを優先して追ってこないだろう。
(…そうしたところで素直に開放するとは限らんが…かといってこのままではどちらも動けんか…動ける程度に刺すか?しかし…)
足を刺すとっても中途半端なキズでは納得しないだろう。負えないくらい深手でなければ。そうなるとむざむざ逃がすことになってしまう。
(ならば、我を使え)
(!?)
その声に気付いたとき、世界は止まっていた。灰色に染まる色を失った世界で、アルと声を交す者。アルも不思議なことに体が動かせない。意思だけが、この制止した世界の中で奔っている。極限状態に追い詰められて爆発的に高まったアルの集中力を用いて、何者かがアルの意識のみを高速化させているのだ。その何者かの正体。声の主。それは目の前にいた。灰色の世界のなかで唯一色を残す一本の剣。
(お前…?)
(然り。我はお前の声に応える。その念を持って我を『振れ』)
色を取り戻した世界の中で、ジークが叫んでいる。
「どうしたぁ!さっさとやれぇ!」
「…」
アルは集中する。先ほどの世界が静止するほどの集中力を見せた心の力。それこそ、この剣を振るう資格。
「動けええええええええ!」
アルの叫びで、剣は飛んだ。地面から突如抜き払われた剣は一瞬でジークの右腕を切断したのだ。
「…!うぎゃあああああああ!!」
「今だ!」
アルは走る。シークは咄嗟に左腕で右腕の傷を庇い、解放され地面に落ちそうになるアカネを受け止めた。それはジークにとって絶好の機会!自らの足元でアカネを抱きかかえ両手が塞がるアルを、アカネ諸共貫かんとジークの秘密兵器ヘッドカッターが出現する!
「死ねェえええええ!」
兜の裏面に隠された刃がシャキンと全面に角のように出てきた!その瞬間、剣がジークの頭部を貫き、壁まで吹き飛ばす。
「…?」
しかしアルはアカネのことに集中しており何者が来たのか分からなかった。飛んできた剣を見ると、見覚えのある剣。その剣はアルが持っていた剣と全く同じデザインであったが、アルの剣はジークの腕を切断した後天井に突き刺さったままになっている。ようやく、自分の背後に誰かがいることにアルは気付いた。
「俺はこういうクソ野郎の頭に剣をぶち込むのが好きだんだなぁ」
「アンタは…?」
「俺なんぞ気にも留めてないから覚えてないってか」
この男のことをアルは知らない。しかしどこかで見た記憶が無きにしも非ずな気がしないでもない可能性が微レ存な気がする。
「マジで忘れてるみたいだな…ていうか名乗ってなかったか。俺はトッシュ。魔王軍不死の軍団の軍団長よ」