34話 正義、この道の行先②
「くっそ、見切り上手設定が足を引っ張るなあ」
自嘲するトッシュに今度はピクシーが追撃に入る。トッシュに右肩を見せ目前で左足で飛び上がり、そのまま左から右踵をトッシュの顎目掛けて蹴り上げ。トッシュは最小限の動きで回避する。すこし、ほんの少し左足を後ろに下げることで首の位置も後方に動き、蹴りが空振りする。宙に浮くピクシー、この状態ならば飛行魔術や浮遊魔術でも使わないかぎり、地面に降りるまで姿勢は変えられない。無防備なピクシー目掛けて、下げた左足で地を蹴り左拳で思いっきり殴り落とす。そうしようと左足に力を入れようとしたとき、トッシュの目にはピクシーの左脚の蹴りが迫っていた。
「よっ!」
ピクシーの空中二段蹴り。初撃を切り上げた勢いそのまま左脚でさらに蹴り上げるその技を、トッシュはギリギリのタイミングで屈み、回避する。この屈んだ体を伸ばした勢いでジェットアッパーをぶちかます。
「もろた!…ゲェッ!」
不自然な関西弁でピクシーのフェイントは見切ったと調子に乗ったトッシュのジェットアッパーを、ピクシーの左踵落としが迎撃、見事にトッシュの顔面にカウンターが入りダウン!
「空中二段蹴りじゃなくて三段蹴りさ」
勝ち誇ったようにピクシーが地に伏せるトッシュに言い放つ。トッシュはふらつきながらも立ち上がり、ピクシーに言い返す。
「勝ったと思うなよ…」
ダメージが大きいのだろう、気の利いたセリフも言えず単なる負け惜しみにしか聞こえない。
「そうか、ならもっと痛い目に合ってもらう!」
フラつくトッシュにトドメを刺さんと、ピクシーがトッシュのボディめがけて蹴り上げる。しかしこれはフェイント、途中で軌道を変え、本命は顔面だ。
ドスッ!とピクシーの蹴りがトッシュに刺さる前に、トッシュの蹴りがピクシーの胴を捉えた。
「かは…!」
「…だから言っただろ、勝ったと思うなよって」
先ほど、トッシュが地に伏せた一瞬、意識が遠のいた。その時、トッシュの脳裏に走る師の言葉。『逆に考えるんだ。』…その師の教えが、トッシュの道を切り開いた。
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「なに…?見切れない?」
「うん、イクスシェイドの攻撃を予想しても、あんたその予想を超えるんだもん」
幼い頃、イクスシェイドに武術の指南を受けるトッシュ。イクスシェイドはトッシュの対応をさらに上回り、意識外からの攻撃を打ち込んでくる。神の一重と言われるほどの見切りの達人であるイクスシェイドのそれは、今のトッシュでも超える自信は無い。
「…フッ、世界には自分より強い存在はいくらでもいる。自分の得意なものをあっさり超えるような、そんな存在はいくらでもいる…。勝てない相手もいるというのを常に考えるんだ…」
「それはわかってるけど、実際強い奴と戦うこともあるだろ?そんなときどうすればいいのさ」
「ふむ…。お前の見切りが機能しない相手というのもこれから先いくらでもいるだろうな。…そんなときは逆に考えるんだ。見切らなくても良いんだ…と、考えるんだ…」
「???見切らなければ一方的にやられないか?」
「ならやってみせよう…。トッシュ、私に攻撃をしてみろ…」
「お、おぉ…」
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バキィ!ピクシーの蹴りと同時にトッシュの蹴りがヒットする。気になるダメージは…。
「ゴハァ!」
「くぅ…」
明らかにピクシーの方が大ダメージである。ピクシーの技に対してトッシュが切り替えた戦術。幼き頃イクスシェイドが実践した、その戦術。魔界に伝わる故事『皮膚を斬らせて骨を断つ』という言葉がある。自分自身もコラテラルダメージを覚悟して、相手により大きな打撃を与えるという意味であり、あえて攻撃を受けることで相手の動きを止め、同時に反撃で相手を倒すというその言葉通りの、相打ち上等戦術により、ピクシーに着実にダメージを与えている。
ではなぜピクシーの方がダメージが大きいのか。それはピクシーの技の性質にある。ピクシーの技は、軽い。初撃の蹴りはあえて全力で蹴らず、すぐに引っ込めるように力はそれなり。それにより自由自在に軌道を変えることが可能となり、相手の意識外からの攻撃やカウンターでダメージを蓄積させるのだ。
だからトッシュは、その軽い初撃をあえて受け、それ以上のダメージをピクシーに与える。ピクシーが途中で軌道を変えるなら、変えている最中に攻撃を当ててダメージを与える。このダメージレース、ピクシーが圧倒的不利。
「この…!」
不利を悟ったピクシーが、初めて全力を込めたハイキックを繰り出す。ダメージレースになるなら、最初から全力で当たる。この方がお互い同じダメージになる、当然の思考だ。が、トッシュはその思考を見切った。
「甘い!」
そのハイキックをトッシュは両手で掴み、そのまま一本背負い!足を掴んで投げるのを一本背負いと呼んでいいのかはわからないが、とにかくぶん投げた!
「グハァ!」
見切らなくても良いんだと考えたが、しない、というわけではない。トッシュの見切りを上回る連続技を捨てたのなら、見切られて当然である。