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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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31話 失踪、ジャスティス

 天空要塞グランガイザスが出現して8時間後の、もうすぐお昼になろうという時間。ローシャ市に戻ったトッシュとマユは錯乱しているマユにいきなり出くわして面食らう。尋常ではない慌てっぷりにマユはサンを落ち着かせるために一旦電気ショックを喰らわせる。落ち着きを取りもどしたサンが昨日の出来事を語る。


「ジャスティスがいなくなった?」

「そうなんですよお姉さまがいなくなったんです!ついでにゼファーくんも」


 ジャスティスはゼファーにどうこうできる相手ではないはずである。考えているトッシュとマユの元へビィが戻ってきた。


「ただいま…何です?」

「ビィくん、お姉さまがどこに行ったか知らない?隠してると骨を折るわよ」

「あー、昨日の朝にゼファーのとこに行くって言ってましたよ」

「やっぱりあのクソガキの仕業なのね!どこ!奴はどこにいるの!」

「落ち着きなよ、たぶん知らないって」


 落ち着きなといいつつも、トッシュもまた錯乱しそうな自分の心がわかっている。ただ目の前でダバダバ荒れているサンが視界に入っていることで、妙な冷静さを取り戻している。


「で、なんでジャスティスはゼファーのとこに行ったんさね?」

「なんかフォーゲルを倒すって息巻いてるゼファーを鍛えるとかなんとか」

「じゃあ秘密特訓でもしてるんじゃないかねぇ。アイツそういうの好きだったし」


 先代魔王直属の幹部に負けたジャスティスは3日間の「山籠もりで真必殺技を身に着けたということがあった。もちろんそれはサンも知っていることだ。


「お姉さまが男と山で二人きり…!殺さなきゃ…!」

「落ち着けって、いやほんと落ち着いて…なんだよこんなときに」


 トッシュの脳内に響く呼び出し音。このメロディアラームはイクスシェイドのものだ。すぐにその場を離れ人気の無い場所で応答する。


「もしもし」

「私だ…イクスシェイドだ。結論から言う。明日フォーゲルが予定通りローシャ市を襲撃するぞ」

「ええ…グランガイザスが出てきたんだしそっち優先しないの?」

「無論私もそう言ったがな。奴には考えがあるんだそうだ。お前が裏切ってないと知って尚そうするんだ、何かあるんだろう」

「あえて敵として戦うことで俺を鍛えるみたいな?」

「かもしれんな。三騎士トリプルリッターも一緒に行くそうだからまぁ気を付けるんだな」


 しばらく通話を続けたトッシュは魔王軍の現状を知る。魔王軍全力で委員会改めグランガイザス軍に対処するという方針ではあったが、どうやら新しい異界の勇者が北の地キエル市に呼び出されてそちらの対処もしなければならないらしい。しかもそいつ、魔王イクスの20倍以上の魔力を持つというのだから恐ろしい限りだ。位置的に南方にいるグランガイザスと挟まれているため非常に分が悪い。この異界の勇者とグランガイザスをぶつけることができれば都合が良いのだが。それを実現するために、魔王軍は異界の勇者を従えるという王国王子との接触を探っているようだ。


「まぁ、とりあえずはフォーゲルか…」

 ・

 ・

 ・

「これでいいんだな、フォーゲル」

「うむ、しかし納得だ。奴は魔王様が拾い貴様が鍛えた魔王軍の秘蔵っ子だものな。まったく大した奴だ」

「うおおお…味方と戦うことになろうともあえて裏切ったふりをして敵を探るとは…!全く貴様という奴は…!そしてこんなにも早くグランガイザスという敵の正体を明かすとは…!俺は感動している!」

「大げさだクロホーン、それにお前も殺されそうになっただろうに」

「フッ、なあに結果オーライだ。とにかく俺は奴が裏切っていなかったということが猛烈にうれしいのだよ。お前も奴が裏切ったら悲しかろう?」

「そうだな、裏切りは悲しい。同じ釜の飯を食った仲間と信じた友を…始末せねばならんからな。そうだろう?パルパレオス…」


 イクスシェイドは魔王軍幹部たちに取り囲まれているパルパレオスへ、悲しいとは微塵も思っていなさそうに言った。


「さぁ、始めようか。裏切り者への断罪を」

 ・

 ・

 ・

「さて、ジャスティスとゼファーが特訓しているらしいけど。こういう時はだいたい襲撃に間に合わないんだよね」

「まぁそうですよね。で、みんながピンチになったとこで颯爽と出て来る、と。もしかしたらゼファーのことですし、出を待っている可能性もあるでしょう」

「ジャスティスもそういうの好きそうだもんねぇ。あいつらの鼻をあかそうじゃないかい」

「ギギギ…お姉さまとあのクソガキが仲睦まじく一緒にお手手を繋いでくるだなんて…許さん…」

「まぁサンはほっといて、フォーゲルと三騎士の相手を配分しなきゃね。奴らの中で一番強いフォーゲルは奴を一番知ってる俺が当たるとして、あとは三騎士か」


 対フォーゲル作戦会議。ローシャ市の戦力は元魔王軍幹部トッシュ、かつての聖女マユ、聖女サン、勇者の血を引くビィ、アルの5人。しかしビィとアルついでにゼファーは一人の人間と誤認させるために片方しか出せないからつまり4人。4対4になる。


「あ、じゃあ俺は今回は控えるよ」


 アルは真っ先に欠場を宣告する。どうやらアカネの件で気になることがあるとのことだ。三騎士を知るトッシュは三騎士を開設しながら誰が当たるか意見を募る。


「まずは天竜騎アレックス。魔術使いのホークマン。まぁ鳥だな。飛ぶのがうっとおしい」

「そして海竜騎アトラス。筋肉モリモリのマッチョマン。脳ミソも筋肉でできているから全身が頭脳のバカだ」

「最後に地竜騎ピクシー。三騎士最強。速さと技を極めた男でフォーゲルを上回る部分もある」


 トッシュは昨日の出来事を知らない。ゼファーとジャスティスが三騎士討伐に向かい、既にアレックスが討たれていること、そしてそのまま残る2騎にカチコミをかけたことを。知らない故に無駄な対策を講じるのだが、知らないから仕方がないのだ。


「まぁ最強のピクシーはマユ姐さんが安定でしょう。僕は身体的にはそんなに優れてないので秒殺されかねないし、残りのどっちかでしょうね」

「サンも魔術使いだけどどっちかというと回復補助方面だし、雷速の持続力も足りないから残りのどっちか

 になるさね」

「私は殴りやすいほうがいいです…!この怒りを拳に込めて八つ当たりしなきゃ…!」

「じゃあアトラスだな、遅いけど硬いからそこは注意な」

「では僕は鳥野郎ですね。すばしっこそうで毒をうまく当てれたらいいのですが」

「まぁあの鳥は舐めプするからすぐにキメちまえばいいさ」


 結論。天竜騎アレックスは最初舐めプする傾向があるのでビィに毒物で秒殺してもらうこととし、海竜騎アトラスはサンが柔よく剛を制すの要領で締め、最強の地竜騎ピクシーは雷速のマユが対応することとなった。


 来たる決戦まで、あと24時間。

 ・

 ・

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「何のことじゃ!ワシは裏切ってなどおらんというのに!」

「裏切り者はそう言うんだ。絶大な魔力で一目置かれた存在だったお前が裏切るとは悲しいなあ」

「誤解じゃクロホーン!ええいイクスシェイドよ証拠はあるんじゃろうな!」


 実のところイクスシェイドは証拠を持っていない。ここから論戦で墓穴を掘らせるためにこのような断罪の場を設けたのだが、口下手なイクスシェイドは教祖として信者を従えたパルパレオスのよく回る舌に勝てるのだろうか。


「…貴様がこしらえた新たな軍団長ラン、アレのベースはトッシュだろう?」

「むむむ…やはり師匠の目は誤魔化せんか…!そうじゃ、勇者の血を引く奴の力を失うのは惜しいからの、奴の能力をランに完全再現したのじゃよ!これぞ我が叡智!エイリアスボディ!」

「…同じものを見た」

「なんじゃと?」

「グランガイザスの手下に、全くの別人に変化する手下がいた。そう、勇者ジャスティスの能力を完全再現した同じ技術がな」


 嘘をつくなら実話をベースに膨らませるのが適切である。イクスシェイドは嘘をつかず、事を大げさに口にする。勇者量産計画サードロット、ジャスティス・エイリアス。あれはきっとジャスティスの能力を完全再現したものなのだろうと予測して。実際は全力を見ていないから判断はできないし、そもそもイクスシェイドはジャスティスの能力を見たことも無い。


「バカな!ワシのエイリアスボディを再現する能力など…!」


 この言葉に違和感を覚えた。技術を盗まれたことを驚いているのではなく、再現する能力の有無に言及しているのは、既に盗まれて…いや、その技術が既に渡っていると知ってるが故の発言だろうか。しかしまだ浅いとイクスシェイドは判断する。


「ていうかさ~、裏切ってないにしても情報が筒抜けになってるってわけだしさぁ、どっちにしろ殺した方が良くない?」

「ラン貴様!誰が貴様を強くしたと思っておるんじゃ!そもワシ以外のスパイがおるかもしれんじゃろ!貴様かもしれんのじゃぞ!」


 自分に力を与えた存在だというのにひどい言い草なランにイクスシェイドは若干苛立ちを覚える。トッシュの力を持つとは言えやはり中身は別物だ。突然得た力に調子に乗っている感がひどい。努力無くして得た力には使い捨ての駒程度の価値しかない。が、このランの言うことももっともだ。裏切っていないというのなら想像以上に情報が筒抜けになっているかもしれない。


「他の物が情報を流すだけで再現できるような簡単な技術とは思えんな。貴様の技術はそう簡単なものじゃないだろう」


 フォーゲルはあえてパルパレオスを持ち上げることで反論を封じる。パルパレオスの高い技術力はパルパレオスの協力なしに再現できるものでは無い、と。


(話が違うではないか…!なぜジャスティス・エイリアスをこうも早く使いおったんじゃ…!」


 その接触は大時間魔術の発動があった日の出来事だった。15年前の禁戒山より聖女サンが呼び出されたあの日、魔術に長けるものが察知した異常な魔力の根源。その世界中に浸透した魔力が魔王グランガイザス、もしくは同じ力を持つ者によるものとパルパレオスは察知し、その出元を探っていた。


 深淵を覗く者は何とやら。グランガイザスもまた自らを探るパルパレオスの魔力を逆探知し接触を図ったのだ。一瞬で頭の中を漁られたパルパレオスは、命と引き換えにグランガイザスへの協力をすることを誓わされた。仕方なかったのだ。そうしなければ死なすと言われたのだから。


 このままそれを認めらた、結局イクスシェイドに殺される。死なないためにどうするかパルパレオスの灰色の脳細胞が分析を続ける。嘘をつくなら事実をベースに膨らませるのが適切。情報の流出は既に確実なのだからそれを認め、しかし背任ではなく過失ということで話を進めるべきと判断する。


「…まさか!そうじゃ!そうに違いない!ワシはあの日グランガイザスの魔力を追っていたんじゃが逆探知されておったんじゃ!そして情報を抜かれてしまったに違いない!」

「ほらね、じゃあイクスシェイドさんこいつ殺しましょ」

「ま、待て!確かに過失は認めるが裏切ったわけじゃないんじゃ!処分は当然じゃが命までは…!」

「そうだな、貴様は首だ」


 イクスシェイドはパルパレオスの首を切ろうと歩み寄る。


「首ってどっちの意味じゃ!?」

「まぁ待てイクスシェイド」

「イクス様!?」


 ここで事を静観していた魔王イクスがついに口を開いた。


「奴が裏切るにしろハッキングされているにしろ、まぁ使い道はあるだろう。一先ずここは私に任せてくれんかの?」

「イクス様のお言葉は全てに優先されます」

「ふむ、パルパレオスよ。貴様はしばらくの間幽閉する。ハッキングをブロックできるまでの間にしよう。もちろんグランガイザスのとこに逃げ出してもかまわんよ?」


 楽しそうに笑みを浮かべる魔王イクス。そしてパルパレオスはしばらくの間イクスシェイドにより次元幽閉されることとなった。処罰が終わった後、イクスシェイドはイクスに確認する。イクスの言葉は全てに優先されるが、その真意は一体何なのか。


「次元幽閉は一度勇者の息子に逃げられてますが…」

「だからだよ。奴が逃げたら裏切り者だ。なぁに、外に出たら死ぬから問題ないよ」

「…は?」

「奴には細工をしている。グランガイザス諸共散ってくれるだろうよ。最も奴もわかっているだろうからパルパレオスを助けるようなマネはしないだろうがな」

「細工とはまさか…」

「心配するな、貴様には何もしておらんよ。できるはずがなかろうよ」

「…」

 ・

 ・

 ・

「あの…アルくん?なんで君は付いて来てるのかな…?」

「アカネさん昨日使ったでしょ、アレ」


 アカネは駅前に出現したアナコンダくん退治を思い出す。魔界の金属でできた手足による機能、見る者が見ればその価値はすぐにわかる。アカネの身の安全を考慮してのことだ。そしてアカネとアルが一緒に町を歩く姿を見る視線が一つ…。


「ゲェ!茜ちゃんと一緒にいる奴…アイツじゃねぇか!」


 ラファエルくんである。アルに折られた腕が傷みだす。これがアカネ、アル、ラファエル…三人の運命が交わる瞬間であった。

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