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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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30話 宣戦、グランガイザス

 魔王グランガイザスの見事なカウンターで意識を刈り取られたトッシュ。そして一瞬で身柄を奪われたマユ。これは絶体絶命の危機である。こうなるかもしれないなというリスクを警戒していなかったわけではないが、おそらくトッシュ本人はここまで力の差があると思っていなかったのだろう。


「ふむ…この子供は確かジャスティスの子か…今朝に流星レイズナーが精子を回収していたな。30年物のビンテージ聖女サンと交配実験でもしてみるか」


 魔王グランガイザスはその場で横たわるトッシュの始末のために手下を呼ぶ。仮面を装着し素顔は見えないが、どうやらただの小間使いのようで大した強さはなさそうだ。


「アレの処理を、いつも通りにな」

「ハッ」


 その場から立ち去り研究所へ向かうグランガイザスは、今まで存在しなかったその気配に振り向く。見れば仮面の手下が意識を失い、その者にもたれかかっている。


「…誰だ?」

「…先代魔王グランガイザス。本当に蘇ったか…?」

「誰だと聞いている。余は魔王グランガイザスなりや」

「失礼、私は魔王イクス様が配下、イクスシェイド。先代魔王ともあろうお方に無礼極まりなかったな」

「ほう、自称魔王イクスの手下か。面白い客が来たものだ」


 今は最も闇が深い丑三つ時。闇の空術使いイクスシェイドはこの時間、空間制御術のパフォーマンスが最高に向上し、空間移動すらも容易く行う。グランガイザスが本当に蘇り、そしてさらにパワーアップを重ね圧倒的な力の差があるときは、トッシュは命すら危ういかもしれないと警戒していた。故に、保険をかけていた。委員会の巣に乗り込むから、万が一の時は…と。この時間ならば、イクスシェイドの目は闇を触媒にトッシュに繋がる。もはや委員会の所在は魔王軍に筒抜けだ。


「何故、何のために、またこの世に生えてきたのかはわからんが、死んでもらうぞグランガイザス」


 イクスシェイドはグランガイザスの死角となる背後に門を準備する。狙うは不意打ち。正々堂々と真っ向勝負するつもりは最初からない。委員会の巣が判明し次第全軍を上げて叩き潰す。魔王軍の方針に変わりはない。


 トッシュの目を通して観察したグランガイザスのファイトスタイルは拳。だが違和感があった。トッシュは曲がりなりにも暗黒真拳、暗黒新陰流を嗜み、見切りを得意とする武の上級者である。そのトッシュが躱すこともままならないとは。反応はできているようだが、呼吸が合わないと言うか、タイミングが合わないと言うか、なんかずれると言うか、そんな違和感。それをイクスシェイドは身をもって体感した。


「んん…?」


 グランガイザスの拳は急に伸びてくるような感覚。伸びきっていない腕が、次の瞬間目の前に来ている。まるで時間が”飛んでいる”ようだ。


「…?」


 グランガイザスもまた違和感を覚える。拳が確かに当たったはずなのに、届いていない感触。しかしグランガイザスはそれの正体を知っていた。自らの前面に張る障壁にインパクトの衝撃を分散することでダメージを防ぐ空術の一つだ。


流星レイズナー以上の空術使いのようだ…さすがはと言った所か)


 イクスシェイドは次は自らのターンと攻めに入る。まず見せるは暗黒真拳メテオボンバー。相手の頭上より高めに向けて撃ったパンチを途中で急降下し相手の頭頂部に当てて頭蓋骨を砕くトリッキーな技だ。グランガイザスは妙な方向に打つパンチに油断しガラ空きの懐に入り込もうとするが、その瞬間イクスシェイドの拳が上空から隕石のように落ちる。


「なにィ!」


 取った…!イクスシェイドの直感がそう直感した。が、当たる直前、グランガイザスが一瞬、瞬く間も無くほんの少しだけ横に動いていた。そのため直撃はせず眉間の辺りを掠るだけに終わった。


 そして横に倒れ込むと同時にグランガイザスの足がイクスシェイドを斬り裂く。まるで刀のような鋭い蹴りはイクスシェイドの脇腹にヒットするが、崩れた体勢から繰り出す蹴りでは障壁を貫通するほどの威力は出せない。


 グランガイザスはそのまま倒れずに側転、バク転、そしてバク転で距離を取る。イクスシェイドは追おうとするが、一旦追撃を中止し、投擲攻撃に転ずる。懐から取り出した何の変哲もない刀を、投擲した。その行動はグランガイザスも一瞬戸惑った。さきほどのメテオボンバーのように見当違いの方向へと投げたからだ。しかしグランガイザスもすぐに察知しその場から離れる。直後、後方斜め上からさきほどの刀がカカカッと降り注いだ。


(やはり空術使い、あえて見当違いの方向へ投げ相手の視界の外に移った瞬間、空間転移させ相手の死角から出現させる小技)


 イクスシェイドは続けて懐から繰り出した武器を投げる、投げる、投げる。移動する相手にうまく当てるには相手の動きの先を呼んで武器を転移させなければならない。イクスシェイドは気配探知に関してはトッシュを超える使い手だ。その程度造作もない。…はずなのだが、当たらない。グランガイザスはイクスシェイドの転移投擲を躱しながら、接近してくる。そして。


「魔王拳!富士山砕き!」


 イクスシェイドを射程に捉えたグランガイザスが、超威力の必殺技を繰り出す!イクスシェイドは回避しようとするが、またも、回避できない。バリン、と障壁が砕かれ、イクスシェイドのボディに直撃する。


 ドゴォォォーン!まるで富士山の滝沢林道に長さ300メートルにわたる地割れを生み出すような威力にさすがのイクスシェイドも吹っ飛ぶ。が、イクスシェイドの姿が消える。後方に吹き飛ばされながらも空間転移により姿を消したのだ。そのまま技後硬直のグランガイザスの真下から、イクスシェイドがその富士山砕きによる勢いを生かしたまま暗黒真拳ジェットアッパーで顎を打つ!


「グヘェ!」


 しかしイクスシェイドのダメージも深刻だ。ジェットアッパー後の着地もままならず地面にべちゃっと落下する。


「ククク、やりおる」

「…」


 立ち上がる二人。イクスシェイドはダメージから回復を図る為の時間稼ぎか、グランガイザスに語り掛ける。


「グランガイザス…なぜ貴様の手下がここにはいない…?」

「フッ、何を言うか。今は牛も眠る丑三つ時よ。皆帰っておるわ。そもそもうちは定時上がりを徹底しておるのでな」

「ではあの仮面の手下は何だ?」

「あれは余の身内よ。さて、手下を呼んでほしいのならばそうするとしよう。流星レイズナー


 空間を裂いて、流星がその場に降り立つ。イクスシェイドと同じ空間使い。勇者の子達(ファーストロット)の最高傑作。


「そしてもう一人。来い、勇者(ジャスティス)()分身(エイリアス)案内人アストレイ


 先ほどまで意識を失い倒れていた仮面の手下が起き上がる。その仮面が砕け、その顔が露わになった。


(ジャスティス・エイリアス…?なんだそれは?)


 その勇者量産計画と思われる名を、流星は知らない。委員会はセカンドロットである勇者の複製(ジャスティス・コピー)II(ダブルワン)を終着点としていたはずだ。


「お前が知らんのも無理はない。アレは余が独自に開発した、いわばサードロットよ」

「…王さまは、アレさえいれば他のは不要とお考えで?」

「ふ、そんなことはない。余はお前を評価しているよ。不要なのはそう、委員会よ」


 不穏な会話を聞きながら、後方の案内人アストレイの気配を探る。先ほどまで確かに意識を失っていたそれが、今はどうしたことかすっかりダメージもないほどに活発化している。というより意識を失う前の状態ともはや別人である。


(…なるほど、そういうことか。そろそろだな)


 全門の流星、肛門の案内人。グランガイザスは勝利を確信している。イクスシェイドは今が使うタイミングと判断、部屋の隅に配置した門の起動を準備する。


「やれ、流星、案内人」


 二人の量産された勇者が動きだす瞬間、イクスシェイドの門が起動する。中から飛び出すのはイクスの持つ魔王軍の最高戦力、6大軍団の軍団長でも指折りの将たちだ。一気にグランガイザスに襲い掛かるのは百獣の軍団長クロホーン!その手の豪斧で頭蓋を叩き割る!


「ちっ」


 グランガイザスはその場から飛び跳ねて斧を回避する。その背後から迫るのは龍王の軍団長フォーゲルだ。竜の一族に伝わる秘宝、ソードドラゴンVでグランガイザスをグランとガイザスに2分割せんと斬りかかる!


「なんの…!」


 ソードラゴンVの斬撃をガードするため腕を出すグランガイザス。しかし腕を出そうが足を出そうがソードドラゴンVの切れ味ならば問題なく斬り裂ける。しかしその剣はグランガイザスの腕を斬るどころか傷一つ…いや、腕の皮膚にめり込みすらしない。一瞬戸惑うフォーゲルをグランガイザスは蹴り飛ばす。


 そのままグランガイザスを守るように集まる流星、案内人。そしてイクスシェイドのもとにあるまる二人の軍団長。


(あの子供が目を覚ましたら3対4か…いや、奴は増援をいくらでも呼べるから流星にジャミングさせなけらばもっと不利に…ん?)


 グランガイザスは意識を失ったトッシュの姿が消えていることに今更気付いた。あのイクスシェイドの空間制御術で避難させたというのだろうか。その時だ。


「オラァン!」


 壁をぶち破りトッシュがマユを抱きかかえて戻ってきた。トッシュはすぐにイクスシェイドにより意識を取り戻していたのだ。そしてイクスシェイドが武器を無尽蔵に投擲しまくっているどさくさに紛れてトッシュを転移させマユのもとに飛ばしていた。イクスシェイドならば意識を失った対象すらも察知できるのだ。


「フン、潮時の用だな」

「王さま…?」

「もはや委員会は不要、すでに戦力は整った。さらばだ自称魔王の手下どもよ」


 何か怪しげな動きを見せるグランガイザスにトッシュを含めた軍団長たちが動きだすが、一瞬でグランガイザスたちは姿を消した。


「チィ、怪しげな術を使いおる!」


 悔しがるクロホーンを煽るかのように、地下の委員会の巣がゴゴゴゴゴ…と響く。


「ここは地下だろう、このままでは生き埋めだ。イクスシェイド」

「わかっている。門を開く。トッシュ、お前はどうする?」

「俺はまだしばらく別行動をとるよ。また何かあったら連絡する。じゃあな」


 トッシュは八卦龍拳ハウドラゴンディノディロスランスターの技を応用し、来た時と同じように抜け穴を作り出し、3人の前から姿を消した。


「どういうことか後で説明してもらうぞ、イクスシェイド」

「フ、わかっているよクロホーン」


 そして3人の幹部たちも門を潜り外へと脱出する。地響きが本格的に地下の空間を崩しだす。それと同時に浮かび上がる巨大な建造物。それは地下を埋めるだけでなく、その上の山すらも破壊する。深夜に響くその轟音に村の住人たちも避難しだす。高台に避難した彼らが、そして脱出したトッシュが、魔王軍幹部らが見たのは、それに浮かぶ巨大な物体。


「深夜に失礼する、我が名は魔王グランガイザス。この天空要塞ガイザスパレスのお披露目を兼ねて、諸君ら人類と、魔王を騙る魔界の田舎者に宣戦を布告する」

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