27話 触手!純潔を散らす性の魔獣②
トッシュは四肢に巻き付いた触手を振り切れずに魔獣に奥へと連れ去られていく。神経毒により体を動かすことができずにいるためだ。魔獣ウニヒトデ、ウニのような頭部とヒトデがブリッジしたような体を持つ海の魔獣。名前とは裏腹にその頭部はウニと言いつつ毒を持つ詐欺生物、まるでガンガゼである。ガンガゼのトゲは激痛を与える毒を分泌しているため、厳密にはガンガゼではないので名前もガンガゼヒトデではないのだろう。
(まーた毒かよ…動けねェ…”アイツ”がマユ姐さんと合流したか…頼むから助けに来てくれよなぁ…)
マユが振り返るとそこにいたのは蜂王ことビィ。彼はジャスティスと話した後にトッシュとマユを付けてきた。
「トッシュを助けたいなら急いだほうがいいですよ。アレは穴という穴に触手をねじ込むとんでもない魔獣ですからね」
「言われなくてもそのつもりさね。アンタもついてきな」
「言われなくてもそのつもりですよ。急ぎましょう、彼に何かあっては僕も困りますのでね」
床の大穴、暗闇の世界にビィを連れて飛び込むマユ。彼女はあまりにも大きなその大穴が、先ほどの魔獣が掘ったものではないとすぐに理解する。地下を掘り進む音を全く出さないことなどできるわけがない。そもそも、この大穴の壁はあまりにも人為的である。魔獣が壁を舗装などするはずがないのだ。
「アレは放棄されたここで研究された魔獣の一体ですよ」
「なんであんなもんを研究なんてするんかね」
「アナタがここを脱出して放棄が決定されたんですがね、さすがに設備を使わないのは勿体ないということで転用されたわけです。それに魔獣なら万が一襲撃にも対処できると判断してといことですよ。まぁ事故が起きて結局放棄されたわけですが。まさか生き残りの魔獣がいたなんてね」
この研究所が放棄されたのはビィらが産まれることになる勇者量産計画の初期段階、ジャスティスが捕縛された場所はここではないということだ。どうやら手掛かりもなさそうである。マユはすぐにトッシュを回収して脱出する判断を下している。ならば急いだほうが良いだろうに、なぜ彼女は雷速を使わないのか。
理由は二つ。まずは狭く暗い。雷速は直線的な動きになるため先が見通せない狭い場所だと間違いなく壁にぶつかってしまう。そして二つ目。ビィを置いていくことになってしまう。仮に最大限神経を使って超反応で衝突を回避しながら動いても、あの未知の魔獣に突っ込むのは二次災害に繋がる。あの魔獣の情報を知るビィの存在は無視できない。信用できる奴かどうかと言えばNOではあるが、今は他に頼れるものもないのだ。
「奥のほうに気配がありますね」
「あぁ、さっさとバラしてトンズラするよ」
毒剣ヴェスピナエを構えたビィ、そして八卦龍拳・雷の秘伝、スタンパンチを繰り出すマユが、魔獣ウニヒトデの背後(?)から奇襲をかける。前も後ろも見分けがつかない魔獣ではあるが、そのしぐさから意識は向こうに向いていることからおそらく背中だったのだろう。二人の攻撃を受けウニヒトデはビクン!と痙攣し倒れ込む。倒れたその先に、トッシュの姿は…無かった。
「トッシュがいない!?」
「姐さん!」
意識が逸れたマユにウニヒトデの足が襲い来る!ヒトデの5本の触腕のうち三本を足として立ち、残り二本を腕のように器用に動かす魔獣は、人間相手のセオリーが通用しないまさにワイルドクリーチャーである。
「どういうことだいこれは!」
「おそらく一匹ではないということでしょう。すぐにこいつを始末しなくては手遅れになる!」
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ズル…ズル…ヌルぅ…!体を這いずり回るヌルヌルねちゃねちゃした不快な触感。両腕両足を触手に拘束され、毒により体の自由も効かず脱出できずにいる。マヒしているはずだというのに、いつも以上に敏感に感じる肌の感覚。それが不快さを加速させる。おそらく体の自由と引き換えに感覚を増幅させる作用があるのだろう。トッシュの服は靴下を除きすでに溶かされている。ヒトデの触手は5本。トッシュの両手両足を高速する4本の触手。ではのこりの一本は…。
「ぐぅ…!!!」
股の間をはいずる触手の触感が、トッシュの特に敏感な部分をねっとりと撫でまわす。気持ち悪い。気持ち悪い、本当に気持ち悪い。なのに。抵抗できずに与えられる刺激に股間は熱を持ち、硬くなるのがわかる。
(待って待って待って待って待って!!!こういうのは女の子にするもんじゃねぇのおおおおお!?)
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「姐さん、ここは僕に任せてもらいましょうか」
「できるのかい?」
「まぁ見ててください」
ビィが持つ毒剣ヴェスピナエは、その名の通り毒を分泌する剣である。その毒は抗体を持たない生物に良く効く。ではウニヒトデはどうだろうか。多少のダメージは与えているが、しかし決定打には届いていない様子だ。今もウニヒトデは元気に威嚇を見せている。
ビィは毒使いの異名を持つ。それは毒剣ヴェスピナエを持つことから付いた異名ではない。この剣はあくまで毒を分泌してるから便利だなぁという程度で持っているだけで、彼の真価は彼自身が持つ知性にある。知力こそ人が持つ最大の武器だと、彼は信じている。
「人間が人間たる最大の理由はその知性、知性無き獣を退ける知の技、見せてあげますよ」