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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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24話 兄弟、血よりも濃い魂の絆②

 ---だめみたいですね…もともと一人の人間を人為的に4つに分けた弊害か、どの子も勇者と呼ぶには力不足です。いや、もしかしたらそもそも”種”がダメだったのかも

 ---特に二番目がひどい、凡人だ。何の才能も無い。四番目は勇者には見劣りするが強い魔力を感じるしこの中じゃ一番有望だ。他二人もまずまずだ

 ---まぁ育ててみましょう。それぞれの才能を伸ばす訓練を

 ---そうだな。しかし才能が無い”モノ”はどうするか…体を鍛えるしかないか。近所に落ち目の武門の家があるしちょうどいい。養育費と協力費も払うから断る理由も無かろう

 ・

 ・

 ・

 ---おお!素晴らしい!まだ未就学児の齢でありながら山嵐を!

 ---いい跡継ぎを得ましたな、いや羨ましい

 ---血の繋がらない他人とはいえ、後を継ぐための”道具”と割り切るのも納得できますな

 ---

 ・

 ・

 ・

 ---アイツ気持ち悪くね?

 ---ぜんぜん喋らないしまるで”機械”だわ

 ---知ってるか?アイツかーちゃんもとーちゃんもいないんだぜ。拾われたんだってさ

 ---うわぁかわいそう。だからアイツの父親いっつもアイツに暴力してるんだなぁ

 ・

 ・

 ・

 道具。そうあるべく望まれ、そして母に望まれず生まれた命。その在り方はその心を次第に蝕む。役立たずと切り捨てられ、捨てるくらいならと虐待同然の訓練を強制され、友もなくその心を支える柱は何もなく。もはや反抗という気持ちすら沸き上がらない、望まれた道具として成長しつつあった。


「おまえ、毎日ここにいるのか?」


 ふと、学校帰りにいつも立ち寄る裏山の古びた社。そこで門限までじっとしているのが日課だった。誰もいないこの薄暗い影の中、この静寂だけが悪夢のような日々を一時忘れさせてくれる。そんな静寂がこの日はなくなった。歳は10代後半だろうか。まだ8歳の少年は、彼がとても大人に見えた。まだ8歳の小2の少年は、小6が大人に見えるくらいだ。高校生くらいの年代ともあれば、すごい大人に見える。


 彼はデーヴィドというらしい。今になって思うが、彼は愚痴を吐くのに何もしゃべらない少年がちょうどよかったのだろう。壁に向かって話すより一応人に話すのだから健全だというものだ。


「俺の親父はクソ野郎だ。女を攫っては子を孕ませ金や権力で自分の妾にする。まるで犬だ。子供ばっかり作ってる盛った犬野郎だ」


 デーヴィドは何人目かの妾の息子だという。そして妾となった彼の母親は愛する男との仲を引き裂かれ、その恩讐をデーヴィドに吹き込んでいた。デーヴィドは父親フィリップに復讐をするために、正妻の子よりも優秀になるべく日々勉学に励んでいる。その日々の研鑽から一時の休息を得るために誰もいないこの山に最近やってきた。


 少年は彼に心を開いてはいなかった。自分以外にも大変な人がいるんだな、程度にしか思っていなかった。


「暗い奴だな、お前名前は?」

「ミカゲ…」

「暗い名前だなぁ。俺がお前に新しい名前をやる。…あの雲は自由に見えるか?」

「?」

「雲は自由じゃない。風に運ばれているだけだ。風だ。雲の行先は風だけが知っている。お前の名前はゼファー、自分の道だけでなく周りも動かすでっかい男になれ」


 勝手な人だな。勝手に人の名前を変えて勝手にそう呼んで、としか思わなかった。そんなミカゲの、大人たちと子供たちに傷つけられた心は、しかしちょっとした出来事で救われた。


 ニャー、ニャー


 その日少年は猫の声を聞く。ちょっとした崖になっている茂みの向こうから聞こえるその声。動けないのだろうか。後からやってきたデーヴィドはその声のもとへと向かっていった。デーヴィドが抱っこしてきた猫は、右の後ろ脚から骨が飛び出るほどの大ケガを抱えていた。


「犬にでもやられたか…?おいゼファー、手伝え!」

「え?」

「病院に行くぞ!ダンボールか何かないか?」


 子供でも知っている。動物は保険に入れないから医療費は馬鹿にならない。この大ケガの治療ともなれば大金だろう。デーヴィドはいい家の子とはいえ、所詮妾の子である。日々の生活費は病に倒れた母の医療費・介護費用で余裕はなく、勉学の合間にバイトをやっているほどである。お金の余裕などないだろう。それでもデーヴィドは何の迷いもなく病院に連れていくと即断した。


 いい医者だった。飼い猫ではなくケガをした野良猫だと説明すると医者は治療費を取らずに治療してくれた。といってももはや良くなる見込みはなく、脚を切断する手術だったが、その猫は器用に三本足で動き回れるほどに元気になった。(ちなみにこの猫のお話は作者の体験した実話です)


 デーヴィドの善意、医者の善意が少年ゼファーの心を救った。信じても良い人がいるんだと目から鱗だった。


「なんだ、笑ったなお前。よかっただろ、猫を助けて」

「うん…良かった」


 この日からデーヴィドを兄のように思うようになった。口に出すのは照れがあるので黙ってはいるが。ゼファーにとっての兄弟は、ただ同じ母から生まれた同じ遺伝子を持つだけのアイツらじゃない。見たことも無い今は死んでると思われる先に生まれたトッシュでもない。ゼファーの兄弟は後にも先にもこのデーヴィドだけだ。もしデーヴィドが自分を裏切るのならば、喜んで裏切られよう。


 そしてデーヴィドは高校卒業と同時に正妻の子を蹴落とし家を継ぐ。名をフィリップ2世と改め、王国の伯爵の地位を得た。しばらく後に、フィリップ1世が野盗の襲撃により死亡するが、その裏で手を引いたのがフィリップ2世とゼファーだというのは、二人だけが知っている秘密である。

約20年前の実話です。いい獣医さんですよね

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