23話 休息。次なる敵は
トッシュたちが部屋に到着する。トッシュはゼファーから説明を受け、サンたちもビィから説明を受けていたので大した混乱は起きなかった。ただ、トッシュの顔を見た途端アカネのとこにいたジャスティスはトッシュを連れてホテルの外へ飛び出していった。
「すごい子ね、あの子…トシくんの妹かしら?」
「あー…まぁそんなもんさね」
「ほんっとかわいいですよね」
「おまえのかわいいは意味がちがうさね…」
「えー、ボクがそう思うってことは貴方もそうでしょーマユさん」
トッシュとジャスティスがいなくなり、女の子たち(約一名除く)たちは女の子たち(約一名除く)だけで集まり話し込む。一方、兄弟たちも兄弟たちで固まっていた。
「で、どうでした?魔王軍の幹部は?もちろん勝ったんですよねゼファー?」
「ぐ…いや俺はアルのフリで戦ったから全力出せなかっただけだし~…」
「まぁ負けだな」
「えぇ知ってました」
「ぐぬぬ…!見てろよあの野郎3日後また来るって言ってたから今度は敗けんからな!」
魔王軍幹部イクスシェイド、同じく魔王軍幹部フォーゲルに二連敗のゼファーはいっぱい悔しい。この末弟アルはトッシュ、クロホーンと魔王軍幹部二人に勝っているというのに。もちろん強さの格に差があるのは承知している。魔王と見紛う強さを持つ男に魔王軍最強の男(とトッシュが言ってた)が相手だ。しかし実績で見ると魔王軍幹部に二連敗と二連勝、ぱっと見で大いに差がある。
(次は敗けんからな、フォーゲル!)
・
・
・
「トッシュ、お母さんね、あなたに言いたいことがあるの。わかる?」
「わからん。全っ然わからん」
「あのね、いくら何でも早すぎると思うの!ちゃんと仕事も見つけないと絶対苦労するよ!ただでさえあんた魔王軍辞めたばっかりでこっちでの仕事とか貯金とか全然ないでしょ!」
「いや、何の話だよ…」
「だからアカネちゃんよ!確かにまあまあかわいい子だし、トッシュも年頃だし…そういう気持ちになるのはわかるけど…。でもできちゃったからには責任はとらないといけないわ。トッシュあんた今日から仕事探しなさい。魔王はお母さんに任せなさい。ところで今何か月なの?あの子」
「…何が言いたいのかやっとわかった。あのな、別にアカネと付き合ってるわけじゃないし、っていうか友達だって言ってただろ。それとあのお腹は…まぁ、その、何だ…俺とアルが助けたときにはすでにあぁなっていたんだ」
「…それ、本当?」
「本当。良かった…まず俺に聞いてくれて・本人に問い詰めたりするなよ…」
・
・
・
その日の夜。大所帯になったので部屋を追加で借りることにする。ゼファーは個室が良いと言ってきかず一人夜の街に繰り出していった。ビィはアルと、サンはジャスティスと、マユはアカネと相部屋である。トッシュも個室を希望してゼファーとは別に夜の街に繰り出していった。ゼファーもトッシュも協調性が無いようだが、この二人にはやりたいことがあるので仕方がないのだ。
トッシュは人気のない闇でイクスシェイドを呼ぶ。闇の中からいつからだろうか、イクスシェイドが現れていた。
「相変わらず不気味なヤローだ。…フォーゲルが来たぞ、どういうことだ?」
「そうか…。まぁ、察していると思うが奴の独断だ。何とか切り抜けるんだな。それより委員会の住所はまだわからんのか?」
「フフフ、勇者の子が合計3人も俺の手元にいるのだ。すぐにわかるさ」
トッシュはジャスティスの存在は隠す。お母さんのことを他人にベラベラ話すにはトッシュは思春期すぎる。
「ほぉ、それはすごい。期待しているぞ。委員会の住所が判明すれば魔王軍は全軍でカチコミをする。当然フォーゲルもだ。トラブルなく乗り越えるならば住所を知るのが一番の手段だぞ」
「あいよ。まぁわかったらすぐ呼ぶさ。…といっても夜じゃないとできないけどな」
イクスシェイドは闇の空術使い。その力は夜に最大の力を発揮する。昼間ではできないトッシュからの呼び出しにも応じることができるのだ。
イクスシェイドとの密会を終え、トッシュは委員会の住所を探る方法を考える。ジャスティスは危ないからダメと教えてくれなかったし、ゼファーとビィも委員会を刺激したくないからと教えてくれなかった。
(ならサンか?)
サンは委員会から脱出してきた身、その場所を知っているだろう。ただ、サンにとっては忌むべき記憶の地である。君がレイプされた場所を教えてと聞くようなものだ。作者だって彼女がレイプされたときのシチュエーションを教えてと聞けようようになったのは付き合って4年も後になってからである。辛くて悲しくて悔しくて、それでも股間が熱くなる。性癖が歪まされた。
そんなわけでサンに聞くのは忍びねぇのでマユに聞こう。もう10年以上前ではあるがきっと覚えているだおう。ホテルガラスの城へと戻るトッシュは、ばったりゼファーと遭遇した。
「おやお兄さんじゃないか、奇遇だね。一人でこそこそ何か後ろめたいことでもやってたのかな?」
「それは自分がそうだから他人もそうだと思っているのかなゼファーくん?」
張り詰めた空気が二人の間に漂う。二人ともここでやり合うつもりは特になにのだが、二人とも相手を煽る習性があるので仕方ない。
「俺はアンタのこと好きになれそうにないな」
「同感だね。委員会の住所教えてくれたら好きにさせてあげるけどさ」
「冗談、ホモじゃねぇし」
「ホモじゃなかったんだ、意外」
ゼファーはアルのパンツを奪って吐くような男だ。ホモと思わないほうがおかしい。
「あれはただのファッションホモだって。まあいいや、俺はフォーゲルに備えなきゃいかんからな。アンタの相手はしてられないのさ」
「自分からつっかかってきたくせによく言うね」
「知ってる顔に遭遇したから建前として声掛けしただけなの。そっちが気付いてなかったら無言でスルーしたからね」
「ああ、同じ状況なら俺もそうするね」
トッシュとゼファーは似た者同士なのかもしれない。二人は別れ、トッシュは改めてマユの部屋へと向かう。
「委員会の場所…ね」
マユに尋ねるトッシュ。それを同室のアカネも聞いている。
「まさかトシくん、お母さんを助ける気?」
一緒にいたあの幼女がジャスティスだということは隠しているので、アカネがそう思うのも無理はない。
「んー…まぁそんな感じ。なぁマユさんよ、委員会まで案内してくんね?」
「いいけど…もう10年以上前だしまだ同じ場所にあるのかわからないよ?」
「とりあえず行ってみて、移転してるにしても何か情報があるかもしれない。アカネさんは俺たちが委員会を探すことをアルたちに内緒にしててくれるかな?」
「うん…でも二人だけで危なくない?」
「大丈夫だって心配するなよ。じゃマユ姉さん、明日朝一で案内してくれ」
「はいよ。昼はおごれよな」
「年下に集るのか…まぁいいけど」
・
・
・
委員会。かつてマユが聖女サンと呼ばれていた頃、それはこの地にあった。王国南部の都市であるローシャ市から東、王国の東に位置する密林の国シャンバラとの国境沿いの山奥。なるほど木を隠すには森の中という。これなら秘密裏に計画を進めれるというものだ。
「木を隠すには森の中ってそういう使い方じゃないと思うけどねぇ…」
「いんだよ細けぇことは。しかしあの建物、放棄されてるって感じだな」
森の中に佇むその大きな建物は、いかにも秘密の研究をしていましたといった様相だ。しかし手入れがされておらず葛が建物を覆いつくしていることからも人の出入りはなさそうだなと思える。それがカモフラージュの可能性も否定できないので二人は警戒はしながら潜入を試みる。
・
・
・
ていうかIIはなんで委員会抜けてきたんです?
昨日はバタバタしてたので聞けなかった気になること、委員会の切り札であり将来を約束された身分であるIIが逃げる理由がビィには思いつかなかったので尋ねてみる。
「んー…」
IIことジャスティスは記憶を取り戻したから息子であるトッシュに会いに来た、というのが率直な所である。それ以外にも委員会に胡散臭さを感じているのもあるが、一番は息子である。が、記憶を取り戻したということは流星にも伏せていたように他の兄弟たちにも黙っておくことにしている。どうにもゼファーとビィは何か隠しているように感じるのだ。隠しているという意味ではトッシュにも同じ隠し事を感じてはいるが。
「胡散臭いと感じたのよね、委員会は。あとIIって呼ぶの辞めてくれるかな?私もジャスティスって名乗ることにしたのよ」
「ジャスティス…オイオイオイ、聖拳の勇者の名前をそのまま使うんですか」
「えぇ、私は勇者量産計画のセカンドロット、勇者の複製よ。私はジャスティスそのものだから」
嘘を隠すなら真実の中。記憶を取り戻したことを隠すために嘘をつくだけじゃ不自然が生じてそこからバレるかもしれない。なので自分が生み出されたプロジェクトを引用して答える。自分はジャスティスそのもの、という言葉に嘘はないので不自然さは無い。
「さすがは僕ら四人に見切りをつけて行われたセカンドプロジェクト勇者の複製、その唯一の成功例…腹が立ちますよ」
「はっはっは、まぁいいじゃない。お互いもう委員会は関係ないんだし気にしなさんな」
「…そうですね」
「(…やっぱなにか隠してそうね)そういうことよ、さてゼファーのとこにでも行ってくるわ」
「どこにいるかわかるんですか?昨夜から一人でどっか行ってますが」
「私はジャスティスよ、それくらいわかって当然ね」
・
・
・
人の気配が感じられないローシャ市から離れた片田舎の山奥、木々が生い茂る日の刺さない影の中、大昔に勃発した戦争時に掘られた防空壕がこの山には存在する。もはや人の手は行き届いておらず、わけのわからん足がいっぱいある生き物やらヌメヌメした生き物やらが蔓延る自然界の生物のサラダボウル。この防空壕の入り口手前でフォーゲルは待つ。忠実なる臣下…その名、3騎士!
ズズン!フォーゲルに近づく大きな足音!その巨体は人間を踏み潰すほどの質量!空を飛ぶ能力を失った代わりに圧倒的な体躯を誇る竜の一種、オーロックスドラゴン!その背に乗る騎士はフォーゲル第一の臣下!
「地竜騎ピクシー推参!」
次いで到達するのが海を征服するステラードラゴン!その背から剛力無双の騎士が降り立つ!
「海竜騎アトラス到着しました!」
そして三人目…が来る気配がない。フォーゲルは首を傾げピクシーに聞いてみる。
「む?おまえたちだけか?」
申し訳なさそうにピクシーは答える。
「申し訳ありません…どうにもあの男は勝手でして、フォーゲル様に傷を負わせたガキを見てくると言ってきかず…」
やれやれ、といって表情でアトラスが斜め下に視線を向ける。フォーゲルも軽い溜息をついたのち、口を開く。
「まぁよい、ひとしきり遊んだら戻って来るだろう。決戦は二日後の正午だ、今のうちに準備をするんだな」
「ハッ!」
「承知しました!」
フォーゲルの言葉に二騎士はしっかりと返事をし、乗って来たドラゴンを休ませるために餌を用意し始めた。
・
・
・
「へぇ、ゼファーってそんなキャラだったのね」
「II…何しに来た?」
「あなたの手伝いでもしてあげようかと思って。あと私はIIじゃなくてジャスティスって名乗ることにしたわ。理由は言わなくてもわかるよね?」
同じ説明をするのはめんどくさいのでジャスティスはゼファーの察しの良さに賭けてみる。
「ふん、勇者の複製か…好きにすればいいさ。で、手伝いってのは?」
「あなた今のままじゃフォーゲルに勝てないわ」
「…へぇ、さすがは複製。どこがダメなのかな?」
「あれ…貴方がやったのよね?」
ジャスティスはゼファーがくりぬいた崖の大穴を指差す。ゼファーの切り札の大技による地を砕き海を割り天を哭かせる超級の威力だ。これが決まれば勝てるだろうが。
「あの化け物が素直に受けてくれるかしらね?」
「…ならどうすればいいのかな?」
「それは…ッ!」
その時ジャスティスは察知した!音に迫る速さで迫る天の災厄!この存在感は間違いなくドラゴン!
「何だ!?」
ゼファーもその隠す気すらない殺気を感じた。フォーゲルに比べると強さは確かに劣るものの、フォーゲルを凌ぐ荒々しい殺気!そしてゼファーを斬り裂こうとする音速の爪!紙一重で回避し、勢い余ってゼファー100m先で立ち止まる竜は、今度はゆっくりとゼファーとジャスティス二人のまえに飛んできた。
「ソニックボンバーネイルを躱すとは流石だな!フォーゲル様に手傷を負わせたのもまぐれではなさそうだ!」
「誰だいアンタ?」
「ハハハ!俺はフォーゲル様に使える三騎士!天竜騎アレックスだ!」