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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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97話 悪意④

【月刊ソードマスター】


 王国で毎月発行されている剣士向けのムックである。王国のいろんな剣聖が執筆したコラムや企画、今熱いブランド剣の紹介、広告スペースなどがあるが、近年は発行部数の低下により王国の剣士の2割程度が愛読している程度と言われている。


 そしてこのムックには王国で一番のブランド流派、初代勇者が開祖となったタイシャー流も取り上げらることもあり、てっちゃんの実家が紹介されたこともあった。


 表紙には王国剣聖の心構え、「無念夢想」がそれなりの大きさで記載されている。その言葉の意味とは、雑念を生じる心を捨て無我の境地に至り、心の働きがないということ。


(今の私とは真逆…)


 輩どもに拘束されたさっちゃん、不穏な動きを見せる男たちの下で最早諦めの境地の中、月刊ソードマスターのことを思い出していた。月刊ソードマスターには毎号載っている貴方の推し剣聖ランキングで毎回1位を取っている王国最強剣士、サトー氏。戦争を知っている世代の彼なら、あの少年の死にも心を乱さず無念夢想を貫けたのだろうか…。


「おい!サトーさんが来るまで手出すなよ!」

「わ、わかってるよ!でも靴下は脱がせていいだろ!な!?」

「ハァ!?靴下は最後まで残すモンだろうが!」


 不穏な動きをしていた男たちが言い争いを始めた。とりあえずサトーさんとやらが来るまで安全みたいだ。が、安堵したわけではない。サトーさんが来たら間違いなく…レイプされるだろう。ん?サトーさん?まさかね…とありえない想像はすぐに終わらせた。


「てっちゃん…」


 思い人の名をふいに口にし、男の1人が笑みを浮かべる。


「うわ、ちょっとめっさかわいいんだけど。てっちゃんって誰?好きな男?」


 答える気はない。言ってもどうせ男が喜ぶだけだ。


「とりあえず靴下脱がせてあげるね」ハァハァ

「まったく。サトーさんは靴下派かもしれんからちゃんととっとけよ」

「まぁいずれにせよ俺の順番のときには履かせるからな。このオーバーニーソックスをな!」

「順番は来ねぇよ」

「!?」


 男たちが靴下について主義主張をしたところ、いないはずの四人目の声に、3人はびっくりするが、もう遅い。


 パリッ、と電流が流れ、3人の輩は気を失った。


「お待たせ、さっちゃん。まだセーフみたいね」

「…」

「あれ?」


 トッシュの予想では靴下脱がされたから無事じゃねぇよとか、さっちゃん言うなとか言われるかと思ったが、どうやら様子がおかしい。精神的に、心が完全に折れている印象だ。


「何かあった?」

「子供が…」


 あぁ、あれか。と、トッシュは悟った。さっちゃんがいた場所に落ちていたまだ年齢10にも満たない少年の死体。


「殺された?」

「…」


 言葉にはできず、さっちゃんはコクリと頷いた。なるほど、さっちゃんは戦争を知らない世代だ。剣の腕は立つが、それは殺めるためのものではない。タイシャー流はすべての雑念を捨て去る、ひとつひとつの言葉にとらわれない自由自在の剣法、自在剣スパイラルナイフへ到達すための鍛錬が目的と聞いたことがある。

 ・

 ・

 ・

「どうした、J?」

「いえ、嫌な顔を久々に見てしまったもので」


 夜の街を練り歩くクラウスと剣聖Jの会話。嫌そうな顔をしている剣聖Jの視線の先にあったのは、月刊ソードマスター、剣士が読むムックだ。その表紙に1人のおじさんの顔写真が掲載されている。画像加工で青く加工されているのは何の意味があるのかはわからないが、確かになんか見ててムカつくな、とクラウスも思った。が、Jの表情はクラウス以上に深い顔が強い。


「知り合いなの?あれ王国最強の剣聖とかいうおっさんだろ?」

「フハ、あれが最強?この剣聖J、剣聖の中では確かに下の下ですがね、あのクソガキには負けませんよ。というかね、あのクソガキぶっちゃけそのへんの剣士にも負ける程度ですよ」

「クソガキって…普通にもう50超えてるだろあれ…」

「私から見たらガキですよ。あのヤローがやってるのは剣ではなく営業、自分を大きく見せて仕事を獲得してるクソですよ。ヤローが月刊ソードマスターに関わってから紙面のレベルが低下しましてね、ハイレベルな剣聖ライターもぞろぞろといなくなって、そんでヤローの手下の剣士ライターが載るようになってんですよ!まぁその手下はヤローより普通に剣上手だけど、でもヤローを持ち上げる喜び組やってやがるのが気に入らねぇ!」

「まじで恨んでんじゃん…もしかしてライターやってたの?」

「えぇ、えぇ、やってましたとも。ヤローが来る前ではありましたけど、ギャラ未払いもあって辞めました!その未払いしやがった編集のクソが呼んだのがあのガキなわけで!おかげで発行部数ガンガン落ちててざまぁって感じですね!」

「あっ、そう…」

「…発刊されたころは好きなムックだったんだですよ…それをあのガキが…サトーめ…!」

 ・

 ・

 ・

「立てる?とりあえず俺は地下にいる野郎をとっつかまえて話を聞きたいからさ、立てるなら逃げてほしいなって」

「…トッシュ、下にはまだ子供がいるの。トッシュが下手なことすればあの子の命が…!?」

「来た!」


 話をしていると、トッシュは地下から気配が1人上がって来てるのを察知した。すかさずトッシュは、部屋のドアノブを握り、開かないように力を込める。


「おッ、おッ!お!?なんて握力だ!」


 ドアの向こうから慌てる声が聞こえた。トッシュが力を込めて開かないようにしていると、今度はドン!とドア自体が外れて衝撃がトッシュに走った。ドアを蹴破ったようだ。


「あいてて」

「お前!何がしたいんだよ!」

「邪魔しようと思って」


 トッシュが感じた気配は、大したことない弱者男性の気配1人分だった。が、見上げるその男の横にもう1人、10にも満たない年齢の少年がいた。どうやらトッシュが感じた気配はこの少年のようだった。


(気配遮断…!こいつもか)


 一気にトッシュは警戒度をマックスまで上げる。


「さっちゃん、君はいけない子だね。こんな男を連れ込んで逃げようだなんて」

「ちが…待って!不可抗力だって!」

「だめ」


 必至に少年が殺められないように言い訳をするが、この男、既に結論は出ていたようだ。さっちゃんの前で、この少年を殺すために上がって来たのだろう。


 ナイフを振り上げた瞬間、ピリッ!と男の身体に電流が奔る。八卦の雷、スタンショック。


「ぐっ!さっきの妙な気配はこれか!」


 スタンの隙を突かれトッシュは少年を救助し、さっちゃんに預ける。


「きさま~~~…!」

「ふふん、人質はなしだよ。さぁタイマンといこうかおじちゃん」

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