97話 悪意①
トッシュの事務所にやってきた輩は5人。所謂反社会勢力といった容貌だ。全員ツーブロックだから間違いない。
(さっちゃんも囲まれてるけど…あっちも5人、でも全員ザコだな)
気配察知能力を全開にしてさっちゃんの周囲を探る。はっきり言ってさっちゃんの気に比べたら秒で処せる奴らだ。そしてトッシュの事務所の連中、こいつらも同じくザコである。アンデッドまりやのドレインタッチなら秒であたりめにできる程度。すぐに片づけてさっちゃんの元へと向かおう。
トッシュは、舐めていた。人間を。
「ブッコロスゾオラー!」
「ヤッチマエーオラー!」
輩たちの鳴き声。同時に、懐から道具を出す。黒光りするそれを、トッシュも知っている。力無き物が力有る者を屠る、かつてこの世界に存在したその武器。神が力無き者に授けたと言い伝えられる、雷鳴の如き轟音と共に敵に神速で致命傷を与えるそれは、神器と呼ばれている。
「トカレフ!?」
トッシュは、舐めていた。まさか神器が出てくるとは思っていなかった。5人がトッシュに神器トカレフの銃口を向ける。ゼウスの雷と呼ばれる神器の一撃。轟音というにはちょっと軽さを感じるパンと響く音が10回以上響いた。銃弾が、計14発トッシュを貫き、11発はトッシュに当たらずに事務所の壁に穴を開けた。
「トシさん!」
まりやが悲鳴のようにトッシュの名を叫ぶ。反応はない。トッシュと霊的に繋がってるまりやにはトッシュが絶命していないことはわかるが、ダメージの程はわからない。今は絶命してなくても、このまま死んでしまうかもしれない。
「おい、その女攫って行くぞ」
輩のリーダー的存在が手下に指示を出し、手下がリーダー的存在に尋ねる
「死体はどうしやすか?」
「ほっとけ」
「うい」
輩たちがまりやを取り囲む。
「ブヘヘ、おっちゃんたちと遊ぼうねェブヘヘ」
「遊ぶってゲームとかじゃないからなブヘヘ」
「処女だったらいいなぁブヘヘ」
輩の手がまりやの肩を掴む。その直後。
「うぎゃああああああ!」
「げぇっ!」
「なんじゃこりゃあ!」
今目の前にいたはず美少女の姿が消えた。美少女が立っていたはずの場所にいたのは、スケルトン。全身骨のアンデッド。
ドンッ、とうぎゃああああああと悲鳴を上げた輩がその場に倒れる。その表情が完全に生気を吸いつくされた干物のような状態に変化していた。
「ひ、ひいいいいい!聞いてねぇよおおおおおあああああああああああ!」
「サブロオオオオおおあああああああああ!」
続けて二人も干物へと変化する。
「な、なにこの子怖い!逃げ…」
逃げようとしたリーダー的存在の足首を、たった今神器の弾丸で貫かれたトッシュが掴んだ。
「なんで生きてるのおお?こいつらアンデッドかよ!?」
「私は存命です。今よ!まりやちゃん!」
メリメリと力を込める。リーダー的存在の足首を掴む手に、あらんかぎりのパワーを。
「いたたたたたた!まってまって痛い痛い!」
「お前もあたりめになるんだよぉ!」
「あいいいいたたたたたた!待って待って!」
残っていた一人も干物にし、最後のリーダー的存在に迫るまりや。
「ハアアアアアアアア…」
頭蓋骨の顎がグパァと開き、リーダー的存在の顔面に迫る。
「ぎゃあああああああ」
まりやの顎がリーダー的存在の生命エネルギーを吸引し、彼も干物になった。
「よし、さっちゃんとこ行こう」
「トシさん、ケガは大丈夫なんです?」
「一回だけ闘気使って全回復できるから急所さえ守れば大丈夫。さっちゃんの位置は…ハーッ!?」
「どうしたんです?」
「…嘘だろ!?」
「え?」
トッシュが察知した気配。さっちゃんを囲むザコの気配が一つは瀕死になっている。さっちゃんなら余裕だろう。だというのに、信じられない。まだ元気一杯のさっちゃんの気配だというのに、残ったクソザコ気配に捕まり、そのまま攫われようとしているではないか!